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第15話 ハーブティー

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 二人は手分けして店内の掃除を一日掛けて終わらせると、キシャナはガラス製のポットからハーブティーを淹れてくれた。

「お疲れ様。自家製のフレッシュミントティーだよ」
「おお、ありがとう。良い香りがして気分がスッキリするよ。そういえば、キシャナはハーブの栽培をやっていたな」
「故郷で毒の知識を教わったときに薬草の知識も教えられた。皮肉な話だけどな」
「卑下することはないよ。香料やハーブティーのように美味しく口にできる術を持っているキシャナは凄いと思うよ」
「……ありがとう。シェーナは優しいな」

 人殺しの技術を嫌っていたキシャナだが、そこから役立てる知識を行動力に変換するのは感服する。
 お茶に関して造詣ぞうけいが深い訳ではないが、キシャナのハーブティーは飲み易い。
 シェーナはハーブティーをメニューに出せないかキシャナに提案する。

「これなら店でハーブティーをお客さんに提供しても問題ないレベルだな」
「それは少し難しいかもな」

 キシャナはハーブティーを一杯口にすると、その理由を教えてくれた。
 今飲んでいるのは、フレッシュハーブと言って比較的簡単に栽培はできる。
 問題なのはフレッシュハーブの保存方法にある。
 鮮度を保つためには、低温、ハーブを傷めない、適切な湿度が必要になる。
 個人で楽しむ分には大丈夫だろうが、商品として提供するのなら三点の問題点をクリアしないといけない。

「フレッシュハーブの他にドライハーブもあるけど、それなら作っておけばよかったなぁ」
「それならいけそうなのか?」

 ドライハーブは直射日光の当たらない場所で風通しが良い場所で乾燥させれば一週間程度で出来上がる。残念ながら、キシャナはドライハーブを作っていなかったので完成には一週間かかる。湿気対策としてガラス容器に入れて日光が当たらない場所に保管を徹底すれば一年は保存できる。

「ハーブの保存には、やっぱり冷蔵庫が欲しいな。夏になると温度や湿気が高くなるから、お客さんに提供するのは厳しいよ」

 良いアイデアだと思ったが、落胆の色は隠せない。
 カップに残っていたハーブティーを全部飲むと、シェーナは昨日のことを思い出す。
 リィーシャが使っていた箱は冷凍庫の役割をした発明品だ。

「冷蔵庫か。新しく工房を開いた錬金術師に相談してみようと思う」
「例の錬金術師か。冷蔵庫があれば、色々と調理の幅が広がる。私は明日から提供できそうな料理を試していくから、錬金術師の相談はシェーナに任せていいか?」
「わかった。リィーシャさんが使っていた箱のような冷凍庫も欲しいところだな」

 それぞれの役割を果たすために、二人は店の正面玄関の扉に鍵をかけて帰路に就く。
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