上 下
7 / 110

第7話 今晩のメニュー

しおりを挟む
 シェーナは衣食住のお礼に、今日の夕飯は自分が料理を用意しようと思う。
 そのために買い物と居住手続きを済ませて、家賃が滞っていたキシャナとルームシェアをして負担を減らせればいい。
 家賃が滞っていた現状では、また同じことを繰り返すかもしれない。
 城塞都市シャルティユには大きく分けて行政地区、商業地区、居住地区の三つの地区で構成されている。
 鎖帷子の上からローブを羽織って、まずは居住地区から行政地区へと足を運ぶ。
 居住地区はシャルティユで生活するために種族を問わず大勢の者が暮らしているところだ。
 都市の中央に近い程、建物は豪華絢爛で家賃も高いが、逆に離れていくと家賃も安く冒険者やキシャナのような訳ありの人物が住んでいることが多い。
 行政地区は主に役所が点在する区域で、居住区域で生活する住民票の発行や身分証明書の発行等がある。裁判所や警察組織も行政地区に集約されたりしている。
 住民票を取得するために、行政地区の住民課へ訪れると書類に必要事項を記入して受付に通す。
 シェーナが騎士団に所属していた頃には、剣を振るうこと以外に一部隊を任された隊長として上司や部下に報告する必要書類の作成等といった事務作業も地道にこなしてきた。隊長の肩書きと言っても、前世で例えると会社の係長が中間管理職として上司と部下の板挟みになって働くのと変わらず、前世や異世界でも組織に属していたら通る道だろう。
 申請が通るまでシェーナは椅子に腰かけていると、受付嬢から呼び出される。

「書類に問題はありません。キシャナ・ウスティー氏とのルームシェアですが、貸主の許可も取れましたので、こちらが住民票となります。こちらの身分証明書は商業ギルドの登録にも使えますので、紛失なさらないよう各自で保管して下さい」
「ありがとうございます」

 シェーナは受付嬢に礼を言うと、住民票と身分証明書を受け取って一安心する。
 料理を作るために材料を揃えようとシェーナは次に商業地区に足を運ぶ。
 商業地区にはハルセンティス大陸の各国に商業ギルド『女神の剣』、『古の古文書』等の巨大組織に属した商人が商売を展開して、個人や団体からの依頼を商業ギルドが仲介して冒険者に仕事を斡旋したりする地区だ。
 料理は決めているのだが、問題は材料が揃うかだ。

「まずは強力粉が欲しいけど、後は卵と塩とオリーブオイルはさすがにないよなぁ。他の油で代用するしかないか」

 食材を取り扱うところを重点的に回ると、パンを製造するのに使う強力粉はすぐに見つかった。卵と塩も無事に揃えることはできて、意外にもオリーブオイルを取り扱っている店は少数だが見つけることができた。

「あるところにはあるんだな。後はソースの材料だけど、これも大丈夫そうだな」

 もう一方の材料はトマト、玉ねぎ、ニンニク、コショウだが、こちらも難なく揃えることはできた。

「よし、今夜はトマトソースの生パスタだ」

 シェーナは意気込んで居住地区に戻ると、料理の支度を開始する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

異世界最強の賢者~二度目の転移で辺境の開拓始めました~

夢・風魔
ファンタジー
江藤賢志は高校生の時に、四人の友人らと共に異世界へと召喚された。 「魔王を倒して欲しい」というお決まりの展開で、彼のポジションは賢者。8年後には友人らと共に無事に魔王を討伐。 だが魔王が作り出した時空の扉を閉じるため、単身時空の裂け目へと入っていく。 時空の裂け目から脱出した彼は、異世界によく似た別の異世界に転移することに。 そうして二度目の異世界転移の先で、彼は第三の人生を開拓民として過ごす道を選ぶ。 全ての魔法を網羅した彼は、規格外の早さで村を発展させ──やがて……。 *小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。

処理中です...