上 下
47 / 47

047 モウブ、自重やめるってよ

しおりを挟む
ーー とある孤児院 昼

「1,2,3!」

 剣を振るう私の隣で、私と同年代の男の子が訓練用の木剣を振っている。

「1,2,3!」

 戦士スキル、【3連切り】の練習をする男の子の表情はとても真剣で、私の剣の練習にも良い影響を与えているように思う。
 私達がお世話になっている孤児院の裏庭で私達二人が剣を振るのが日常になって久しいが、私はこの時間が嫌いではなかった。

 今思えば、私の記憶の中で唯一陽だまりのように温かい時間だったように思う。

「1,2,3!」

 少年の眼は私達の命を救ってくれた冒険者の影を見ており、私を見てくれることはなかった。

 しかし、彼がこうして剣を振るう理由に私が含まれていることは知っていたたため、今はそれで充分だと思っていた。

「1,2,3!」

 夏の日差しは熱く私達を照らし、滝のように出る汗が私達の身体にへばりつく。
 しかしそれは私達が目標に近づくことを示しているようで、けして不快なものではなかったのだ。


☆ ☆ ☆


ーー 霧隠れの里 町外れ

「1」
 モウブの上段に構えた鉄剣が袈裟懸けに振り下ろされるが、魔王は紙一重で斬撃をかわす。

「2」
 続けて鉄剣がすくい上げるように切り上げるが、魔王はモウブへと踏み込むことでこれを回避。

「さ……」
 モウブが身体を一回転させ剣を払う体勢になったところで、魔王の掌打がモウブの脇腹に撃ち込まれる。

 声にならない声を上げて、モウブが吹き飛ばされる。
 今のモウブの動きは魔王のスキル発動後の硬直後に合わせた【3連切り】の模倣だったが、魔王は硬直をすることなくモウブの攻撃を完全に回避、迎撃を行った。
 
 モウブへの追撃を防ぐべく、私は魔王の影へと短剣を投げつける。牽制できれば御の字という様子見の【影縫い】だったが、魔王は軽く背後に跳躍して私の攻撃を回避した。

 背後でモウブが立ち上がるのがわかったため、魔王から目を逸らすことなく声をかける。

「ーー大丈夫?」

「ああ、ダメージはたいしたことはない……まさか魔王が『模倣』を使えるとはな」

 モウブが私の隣に並び、魔王に向けて剣を向ける。

「お前、何者だ?」

「それをキミが問うのかね? キミこそ何者か・・・という話だが」

 魔王はモウブの問いに問いで返した。
 数瞬の後、二人の声が重なる。

「ーー邪神」
「ーー転生者」

 互いにわかりきった答えを確認するかのように言葉を紡いだ。

 モウブの言葉を受けて、魔王の顔に喜色が浮かぶ。

「ははっ! 見つけるのに随分時間がかかったが、新しい身体は気に入ってもらえたかな? ボクとしては早くキミとの再戦をしたいところでね。直ぐに例の封印を解いてくれないだろうか」

「目立たないようにストーリー改変には気をつけてたつもりだったが、あんまり意味なかったみたいだなぁ。
 ってか俺は別に再戦を望んではいないんだが」

「つれないね。1000回以上も斬りあった仲じゃないか。キミが勝ち逃げをするから、こうしてボクが再戦の場を作ったというのに」

「再戦というなら、前回と同じ条件を整えるまで俺は封印を解く気はないぞ」

「じゃあボクのほうで封印は解いておくから良いよ」

「ーー自分で解けるのか?」

「ボクはこう見えて【魔王】ジョブに力を与える神でね。今のように【魔王】の精神に介在することもできるんだ」

「おい、まさか……」

「うん、魔王軍を動かして【ハジマリの町】を更地にした後で、封印を破壊してキミを待つことにするよ」

 魔王は邪神らしい笑顔を浮かべ、私達の前から姿を消した。




 張り詰めた空気から解放され、モウブと現状を確認する。

「モウブ、邪神の封印の場所って……」

「ああ、ハジマリの町の教会裏にあるんだ。 普通は【ハジマリの町】は更地になってるから問題にならないんだが、今回は町残ってるからな」

「これからどうするの?」

「自重する必要が一切なくなったから、ハジマリの町を守りつつ、育成進めていくことになるな。
 とりあえずアッシュ達と合流しよう」

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(7件)

sakikaname
2022.08.04 sakikaname

アレ? LEGOみたいな衛兵さんの絵じゃなかったっけ? 割と気に入ってたんだが…(´・ω・`) ショボーン ……

maosana
2022.08.04 maosana

コメントありがとうございます!

表紙絵の有無でのアクセス数の変化を確認しているところでした、、、!
アイコンは拾い物ですが、とても可愛いイラストでしたので今夜にでも再掲させていただきます!

引き続き、拙作にお付き合いいただければ幸いです、、!

解除
ねこまんま
2022.08.01 ねこまんま
ネタバレ含む
maosana
2022.08.02 maosana

結果的に原作ストーリーに準拠することになる運命なのかもしれませんw

解除
ねこまんま
2022.07.28 ねこまんま

わかりやすくて、読みやすく、お話もおもしろく、続きが楽しみです。
最近お気に入りの話が軒並み完結してて寂しかったので、嬉しい出会いでした。速攻星押しました└( 'ω')┘ムキッ
夏の楽しみありがとうございます。


ミスゴが1箇所だけミスドになってて、これは誤植か作者様の遊び心か(セリフキャラ的にもあってるような)と吹き出しながらも迷いました笑

どえらく濃く深くねっちょり強い女の子から惚れられてる(*´∀`)モウブさんが良いですね。
過去話も楽しみです。

maosana
2022.07.29 maosana

感想ありがとうございます!
こちらこそ、お話を読んでいただけてたいへんありがたいです・・・!
頂いた温かいコメントを糧に、これからも更新でお答えできればと思っています!

ミスドは誤植でした!
この誤植は、ねこまんま様の捉え方も面白いと思ったのであえて残しておく形で行かせてくださいw

拙作ではありますが、引き続きお付き合いいただければ幸いです!!

解除

あなたにおすすめの小説

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

死んだと思ったら異世界に

トワイライト
ファンタジー
18歳の時、世界初のVRMMOゲーム『ユグドラシルオンライン』を始めた事がきっかけで二つの世界を救った主人公、五十嵐祐也は一緒にゲームをプレイした仲間達と幸せな日々を過ごし…そして死んだ。 祐也は家族や親戚に看取られ、走馬灯の様に流れる人生を振り替える。 だが、死んだはず祐也は草原で目を覚ました。 そして自分の姿を確認するとソコにはユグドラシルオンラインでの装備をつけている自分の姿があった。 その後、なんと体は若返り、ゲーム時代のステータス、装備、アイテム等を引き継いだ状態で異世界に来たことが判明する。 20年間プレイし続けたゲームのステータスや道具などを持った状態で異世界に来てしまった祐也は異世界で何をするのか。 「取り敢えず、この世界を楽しもうか」 この作品は自分が以前に書いたユグドラシルオンラインの続編です。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

実家が没落したので、こうなったら落ちるところまで落ちてやります。

黒蜜きな粉
ファンタジー
ある日を境にタニヤの生活は変わってしまった。 実家は爵位を剥奪され、領地を没収された。 父は刑死、それにショックを受けた母は自ら命を絶った。 まだ学生だったタニヤは学費が払えなくなり学校を退学。 そんなタニヤが生活費を稼ぐために始めたのは冒険者だった。 しかし、どこへ行っても元貴族とバレると嫌がらせを受けてしまう。 いい加減にこんな生活はうんざりだと思っていたときに出会ったのは、商人だと名乗る怪しい者たちだった。 騙されていたって構わない。 もう金に困ることなくお腹いっぱい食べられるなら、裏家業だろうがなんでもやってやる。 タニヤは商人の元へ転職することを決意する。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。