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044 聖書の編纂

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ーー きらめきの洞窟内 浅層

 俺達は冒険者ギルドで【静寂の湖】のハイリザードマン討伐クエストを受けた後で、【きらめきの洞窟】に足を踏み入れていた。

 【きらめきの洞窟】は洞窟内に点在する水晶の輝きと、地下水脈から漏れ出る水が光を乱反射し、幻想的な空間となっていた。
 出現するモンスターはデカイ蟹の【ジャイアントクラブ】、トカゲ人型のモンスター【リザードマン】、デカイ蛇【バイトスネーク】と言ったところだ。
 いずれも俺達の【模倣】スキルの前では苦戦することもなく、順調に探索は進んでいく。

 現在は洞窟をしばらく進んで、小休憩をとっているところだ。

 ふと、スルタンが筆ペンを動かしているのに気付く。

「スルタン、何書いてんだそれ?」

「うむ。これは聖書でござる」

「聖書? ちょっと貸しなさいよ」
 ケイティが横からスルタンの手帳を奪い取って読み始めた。

「えーと……『模倣スキルなくして勝利無し』……なにこれ?」

「うむ。師匠の教えを拙者なりに解釈して、文字に起こしているのでござる。
 その節は、模倣スキルの重要性を説こうと思っているでござるな。
 模倣スキルの強さについては、ケイティ殿も身を持ってわかっているでござろう」

「教会でも『コンボ』の概念は習ったけど、模倣なんてだれもやってなかったわね」

「そこでござる。 拙者達は模倣の強さを理解し、戦闘に活かす良い実例と言えるのでござる。
 師匠への恩返しに、師匠の教えを広く世に知らしめることで、師匠の名を後世に残すのはどうかと思っているでござるよ」

「それは良い考えかもしれませんね」

「たしかになー! 最初はヒザの薬でも、って思ったけど、師匠、ヒザのことぜんっぜん気にしてないっつーか。ヒザ悪くても俺らよりつえーしな!」

「まあ治療薬の素材は集めて置いたほうが良いとは思いますけどね。
 たしかこの洞窟にも素材の一つ、【大地の雫】があるというお話ですから」

「ふむ。そもそも治す気があるのなら、ご自身で取りに行く力があるのではござらんか?」

「どうも、素材ってのが俺達が向かう予定のダンジョンにあるみたいなんだよな。
 で、師匠的には俺達の向かうダンジョンにはノータッチって方針らしい。
 俺達自身の力でクリアしてほしいんだと」

「師匠の愛を感じますなぁ」

「『効果的な模倣スキルの鍛錬について。 強制的に集中力を高めた状態が最良である。 例えば命のやり取りの場など』……これほんと?」

「神の教えは絶対でござるぞ」

「じゃあこの後しばらくは私が先頭行くから!」

「おう、フォローは任せとけ!」

「でもガンガン戦闘してくとなると、僧侶スキルはいまいち攻撃手段が少なくてバリエーションに欠けるのよねぇ」

「ふむ。ターンアンデッド以外にも、ホーリーアローも面白い使い方ができるでござるよ」

 スルタンは右手を上げると、腕の周囲に光り輝く拳を複数顕現させた。
 拳はゆっくりと回転しており、徐々にその数、速度を上げていく。

「むぅん!」
 光る拳の数が十を超え、高速回転の結果一つの輪に見えるようになった段階でスルタンが拳を前に突き出すと、
スルタンの宣言に応えて光る拳の輪が腕から射出された。

 光の輪は壁に触れた瞬間、削岩機のように壁を掘り進み、最後に爆発して周囲に粉塵を撒き散らす。

「もはやホーリーアロー要素がない……」
 ケイティが唖然とした顔でつぶやく。

「すっげえ! ロウより魔法使いっぽいな!」

「模倣スキルは可能性の塊。使用者の想像力に応えてくれるでござる。
 ……今の文は良かったでござるな。聖書に載せねば」

 スルタンが手帳に書き終わるのをまって、俺は立ち上がった。


「よっし、そろそろ休憩終わるか!
 隕石も気になるしとっとと先に進もうぜ!」

「わかったわ!」「わかりました」「うむ!」

☆ ☆ ☆ ☆

ーー きらめきの洞窟内 深部

「サウザンド・ホーリーアロー!」
 ケイティの拳から、数十の光の矢が生成され、リザードマンの群れに向かって飛んでいく。
 光の矢は狙い違わず、リザードマンの全身に穴を開け戦闘は終了した。

「サウザンドって盛りすぎじゃねえ?」

「うっさいわね! イメージはサウザンドなのよ!」

「拙者も千の拳を出す技を考えるとするでござる」

「千回も攻撃が必要な敵ってそうそういないと思いますけどねぇ。というか魔力持ちます? 同時に撃てるの、せいぜい100くらいじゃないですか?」

「ロマンは大事だろ! 俺もなんか作りたくなってきた!」

「だいぶ【ホーリーアロー】の模倣にも慣れてきたし、この調子でゲルザイルいくわよ!」

「そろそろ最深部だと思うから、ちゃんと回復しとけよ!」

 言いながら俺自身もMPポーションを口に含む。
 あたりを見回すと、大きく開けた空間が地底湖の側に確認できた。
 ーーと、地底湖の側に描かれた魔法陣から、ゆっくりと立ち上がる魔族の男が一人。

 剣で男を指しながら口を開く。

「あいつがゲルザイルじゃねーか?」



ーー 隕石衝突まであと 47時間
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