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043 バハムートタクシー
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ーー ハジマリの町 冒険者ギルド 早朝
カウンターには、死んだ目つきで冒険者と会話するカリンがいた。
冒険者は手に持った袋から薬草の束を取り出しており、クエストの報告・納品に来ているようだ。
「採れたてホヤホヤ、ちゃんと根に土も付けてるから鮮度も抜群の薬草だよ!」
「はい、50銅貨になります」
「もうちょっと高く買ってもらえない?」
「はい、50銅貨になります」
「まじかよ~まあ仕方ないか……ところで次のクエストなんだけど、今日の天気ってどうだっけ?」
「はい、50銅貨になります」
「天気予報だけで金とんの!?」
会話を聞きつきつけて、慌ててカリンの後輩、ミランダが口をはさむ。
「ちょっとカリン先輩、お昼休憩お先にどうぞ。カウンター業務、私が代わりますので」
「はい、50銅貨になります」
「ギルド長~~カリン先輩ヤバそうなので早退させたほうがいいと思いまーす!」
「なんだ? 男にでも振られたか?」
「ギルド長それセクハラですよ~」
ミランダに引きずられながらカウンターを後にするカリン。
ひとまず従業員用の休憩室の椅子に横たえられ、放置されることとなったようだ。
カリンはまどろむ意識の中で、昨夜の完徹バトルを思い返していた。
☆ ☆ ☆ ☆
ーー 霧隠れの里 ヒフキ山山頂 深夜
初撃の【魔神の抱擁】で幻獣王の翼を奪ったため、空からの一方的な攻撃は避けることが出来たようだ。
とは言え幻獣王の名は伊達ではなく、多彩な攻撃方法で私達を苛烈に攻め立てた。
強烈なブレスは直撃すれば即死。
強烈な噛みつきは直撃すれば即死。
強烈なひっかきは直撃すれば即死。
強烈な尻尾振り回しは直撃すれば即死。
強烈な咆哮は直撃すれば次にくる即死攻撃の回避が不可。
あらゆる即死の攻撃を事前行動から察知し、避け、躱していく繰り返し。
最初は攻撃パターンを覚えるために攻撃頻度を落としつつの様子見。
パターンを覚えた後は、わずかに存在する攻撃後の隙を狙って、次の回避に影響のない技を丁寧に丁寧に当てていく。
モウブいわく、大縄跳び。
一瞬の気も抜けない文字通りのデスゲームは実に5時間に及んだ。
心を殺して幻獣王と戯れる機械となり、作業を淡々とこなしていると、モウブが口を開いた。
「おっし、そろそろ決めるぞ!」
最初は言葉の意味がわからず、集中力が途切れるから喋らないでほしいんだけど?と雑音を不快に思ったが、意図を理解した瞬間、視界に色が戻った。
幻獣王のブレスを回避した後、ちらりとモウブに目をやると、開幕にブッパした【魔神の抱擁】の溜めに入っていた。
どうやらまた時間を稼げということらしい。
幸い、開戦時と違い幻獣王は万全ではない。足や腕に与えたダメージは充分にその機動力を奪っており、慣れと相まって恐怖を感じることはない。
わざと幻獣王の眼前に飛び出し、スキルを唱える。
「【分身】(模倣)【姿隠し】(模倣)」
作り出した分身をその場に残し、私は透明になって頭上に飛び上がる。
直後に私の分身が幻獣王の爪で切り裂かれるが、片手で印を切り終えた私の忍術スキルが発動する。
「土・水・火! 忍術、【火石流】(模倣)!」
幻獣王の周囲の地面が隆起し灼熱に輝きながら幻獣王を包み込む。
5時間耐久縄跳びゲームを終えた幻獣王の身体に無数に存在する傷から、灼熱の溶岩が流れ込む。
幻獣王は痛みと怒りに大気を引き裂くかのような咆哮をあげる。
咆哮は空気を伝って中空の私を吹き飛ばす。
次の幻獣王の攻撃を回避することは難しそうだがーー相棒が準備を終えたようだ。
幻獣王の背後から、シロに乗ったモウブが黒い左手を掲げているのが見えた。
「【魔神の抱擁】(模倣)!」
モウブの宣言に合わせて、モウブの左手から伸びた魔神の手が幻獣王を掴んだ。
周囲に響くガラスをひっかくような音は、幻獣王の鱗を魔神の手が削っている音だろう。
未知の痛みに激しく暴れる幻獣王だが、モウブは黒い手を離さない。
「お前が認めるまで離してやんねーぞオラあああああ!」
鱗が削れ、肉が削がれ、骨が折れる音が聞こえてきた。
徐々に幻獣王の動きが弱まり、やがてその動きを完全に止める。
「あれ、これ殺っちゃってないわよね?」
私の言葉と同時、モウブは黒い手をかき消す。
「おっと、多分やってない……はず?」
動くものが何もない気まずい静寂がしばらく続いた後で、厳かな言葉が脳に流れ込んできた。
ーー 人の子よ。そなたらの力を認めよう……
幻獣王さん……ゲットだぜ?
☆
人生で3本の指に入る死闘を制した感慨もどこへやら、私達は2時間後に迫る業務開始時間に追われ、飛ぶようにハジマリの町へと帰宅した。
まあ実際空を飛んだんだけど。
モウブのスキルで回復させた幻獣王バハムートさんは、移動手段としても優秀だった。
シロなら片道4時間かかる霧隠れの里- ハジマリの町ルートを、10分で移動してのけたのだ。
その後、シャワーを浴び、服を着替え、朝食をかきこみ、受付カウンターに座ったところまでは覚えているような気がする。
モウブが昼休憩中にドラゴンレースのエントリー手続きをやると言っていたが、寝ていないか不安だ。
私は明日の有給申請を出した後で、ふらつく身体で冒険者ギルドを後にした。
ーー 隕石衝突まであと 58時間
カウンターには、死んだ目つきで冒険者と会話するカリンがいた。
冒険者は手に持った袋から薬草の束を取り出しており、クエストの報告・納品に来ているようだ。
「採れたてホヤホヤ、ちゃんと根に土も付けてるから鮮度も抜群の薬草だよ!」
「はい、50銅貨になります」
「もうちょっと高く買ってもらえない?」
「はい、50銅貨になります」
「まじかよ~まあ仕方ないか……ところで次のクエストなんだけど、今日の天気ってどうだっけ?」
「はい、50銅貨になります」
「天気予報だけで金とんの!?」
会話を聞きつきつけて、慌ててカリンの後輩、ミランダが口をはさむ。
「ちょっとカリン先輩、お昼休憩お先にどうぞ。カウンター業務、私が代わりますので」
「はい、50銅貨になります」
「ギルド長~~カリン先輩ヤバそうなので早退させたほうがいいと思いまーす!」
「なんだ? 男にでも振られたか?」
「ギルド長それセクハラですよ~」
ミランダに引きずられながらカウンターを後にするカリン。
ひとまず従業員用の休憩室の椅子に横たえられ、放置されることとなったようだ。
カリンはまどろむ意識の中で、昨夜の完徹バトルを思い返していた。
☆ ☆ ☆ ☆
ーー 霧隠れの里 ヒフキ山山頂 深夜
初撃の【魔神の抱擁】で幻獣王の翼を奪ったため、空からの一方的な攻撃は避けることが出来たようだ。
とは言え幻獣王の名は伊達ではなく、多彩な攻撃方法で私達を苛烈に攻め立てた。
強烈なブレスは直撃すれば即死。
強烈な噛みつきは直撃すれば即死。
強烈なひっかきは直撃すれば即死。
強烈な尻尾振り回しは直撃すれば即死。
強烈な咆哮は直撃すれば次にくる即死攻撃の回避が不可。
あらゆる即死の攻撃を事前行動から察知し、避け、躱していく繰り返し。
最初は攻撃パターンを覚えるために攻撃頻度を落としつつの様子見。
パターンを覚えた後は、わずかに存在する攻撃後の隙を狙って、次の回避に影響のない技を丁寧に丁寧に当てていく。
モウブいわく、大縄跳び。
一瞬の気も抜けない文字通りのデスゲームは実に5時間に及んだ。
心を殺して幻獣王と戯れる機械となり、作業を淡々とこなしていると、モウブが口を開いた。
「おっし、そろそろ決めるぞ!」
最初は言葉の意味がわからず、集中力が途切れるから喋らないでほしいんだけど?と雑音を不快に思ったが、意図を理解した瞬間、視界に色が戻った。
幻獣王のブレスを回避した後、ちらりとモウブに目をやると、開幕にブッパした【魔神の抱擁】の溜めに入っていた。
どうやらまた時間を稼げということらしい。
幸い、開戦時と違い幻獣王は万全ではない。足や腕に与えたダメージは充分にその機動力を奪っており、慣れと相まって恐怖を感じることはない。
わざと幻獣王の眼前に飛び出し、スキルを唱える。
「【分身】(模倣)【姿隠し】(模倣)」
作り出した分身をその場に残し、私は透明になって頭上に飛び上がる。
直後に私の分身が幻獣王の爪で切り裂かれるが、片手で印を切り終えた私の忍術スキルが発動する。
「土・水・火! 忍術、【火石流】(模倣)!」
幻獣王の周囲の地面が隆起し灼熱に輝きながら幻獣王を包み込む。
5時間耐久縄跳びゲームを終えた幻獣王の身体に無数に存在する傷から、灼熱の溶岩が流れ込む。
幻獣王は痛みと怒りに大気を引き裂くかのような咆哮をあげる。
咆哮は空気を伝って中空の私を吹き飛ばす。
次の幻獣王の攻撃を回避することは難しそうだがーー相棒が準備を終えたようだ。
幻獣王の背後から、シロに乗ったモウブが黒い左手を掲げているのが見えた。
「【魔神の抱擁】(模倣)!」
モウブの宣言に合わせて、モウブの左手から伸びた魔神の手が幻獣王を掴んだ。
周囲に響くガラスをひっかくような音は、幻獣王の鱗を魔神の手が削っている音だろう。
未知の痛みに激しく暴れる幻獣王だが、モウブは黒い手を離さない。
「お前が認めるまで離してやんねーぞオラあああああ!」
鱗が削れ、肉が削がれ、骨が折れる音が聞こえてきた。
徐々に幻獣王の動きが弱まり、やがてその動きを完全に止める。
「あれ、これ殺っちゃってないわよね?」
私の言葉と同時、モウブは黒い手をかき消す。
「おっと、多分やってない……はず?」
動くものが何もない気まずい静寂がしばらく続いた後で、厳かな言葉が脳に流れ込んできた。
ーー 人の子よ。そなたらの力を認めよう……
幻獣王さん……ゲットだぜ?
☆
人生で3本の指に入る死闘を制した感慨もどこへやら、私達は2時間後に迫る業務開始時間に追われ、飛ぶようにハジマリの町へと帰宅した。
まあ実際空を飛んだんだけど。
モウブのスキルで回復させた幻獣王バハムートさんは、移動手段としても優秀だった。
シロなら片道4時間かかる霧隠れの里- ハジマリの町ルートを、10分で移動してのけたのだ。
その後、シャワーを浴び、服を着替え、朝食をかきこみ、受付カウンターに座ったところまでは覚えているような気がする。
モウブが昼休憩中にドラゴンレースのエントリー手続きをやると言っていたが、寝ていないか不安だ。
私は明日の有給申請を出した後で、ふらつく身体で冒険者ギルドを後にした。
ーー 隕石衝突まであと 58時間
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