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039 黒猫宅急便

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ーーハジマリの町 正門横衛兵控室

「よっし、こんなもんかな」

 門番の昼休憩時、俺はアッシュ達への手紙をしたためていた。
 宅配は黒猫に頼む予定。荷物が多くても安心だ。

「モウブ、何書いてるんだ? 女宛てか?」
 チャラ男こと、ジョナサンが話しかけてくる。

「おう、おつかれジョナサン。 お前は女の事しか考えてないのか?」

「俺だって折れた魔剣の支払いのこととか色々考えてるさ……おかげで女の子と遊びに行くこともできやしない……」

「悪いとは思ってないが元気出せよ。これはアッシューーこないだの英雄たちに向けた手紙だな」

「ああ、英雄たちか! 俺もなんか書こうかな。 ってかお前、ちょっとくらい良心傷んだりしねえ? 誰か紹介してくれよまじで」

「衛兵生活のどこに出会いがあると思うんだお前は……お前にないんなら俺にもない。当たり前のことだろう」

「カリンちゃんとはどうなのよ? 最近また会ってんだろ?」

「カリンは……どうなんだろうな? 飲む機会は増えたと思うが」

「あんないい子めったにいないだろ。お前がその気がないんなら俺が狙うぞ?」

「うーん……付き合いが長すぎて家族みたいな感じになってるんだよな」

「そう思ってるのはお前だけかもしれねーぞ」

「近いうちにちゃんと考えるよ。今はちょっと手が離せないことがあってな」

「ああ~マジで出会いをください神様! 可愛いシスターをこの町に赴任させてください!」
 チャラサンが両手を空に上げて祈りを捧げている。

「うちの町はマリアンヌさんだからなぁ。あっと、そろそろ昼休憩終わりか。見回り行ってくるわ」

「おう、お前も神様に祈っといてくれ」

「そういう願いを聞いてくれる神様がいると良いな」
 残念ながら俺のゲーム知識にはいなかったが。

◇ ◇ ◇ ◇

ーーダイサンの街 冒険者ギルド

「にゃんにゃん」
 影から飛び出すシロ。口には手紙と豪華な杖をくわえている。

「おっ、師匠から手紙きたぞ!」

「なんですかこの見るからに豪華な杖は……宮廷魔道士が持ってそうですね」

「えーっとなになに……この杖は【いかずちの杖】っていうらしい。ロウへのプレゼントだってよ!」

「こんなのもらえませんよ! さすがに高価過ぎませんか? お返しに釣り合うものなんて出せましたっけ僕ら」

「俺たちが魔王を倒した後で返せば良くねえ?」

「それまでに壊したり無くしたりしないと良いんですが……」

「まあまあ、続きを読むぞ。 えーっと……
 師匠とカリンさんで【サイハテの村】に行ったらしいぞ!」

「なんですと! 現在の村の状況はどうなっているでござる!?」

「落ち着けって……村は誰もいなくて廃村になってる…らしい。 スルタンの親父さんと会えたみたいだぜ!」

「おおお! 健在でなにより……! それ以外の方は……?」

「分かり次第連絡くれるってよ。今夜も出向いてくれるらしい」

「拙者たちも旅を急がねばならんでござるな! 一刻も早く魔王を討伐せねば!」

「ええ、そして一刻も早くこの杖をお返ししましょう!」

「まずはあのシスターをなんとかしないとな……」

 ちらりと背後をに目線を向けると、物陰からこちらの様子をじっと伺うシスターケイティがいた。


「ぶっとばしたのスルタンだろ。なんとかしてこいよ」

「なんとかと言われても……旅に連れて行くでござるか? 未熟な我らの指導は彼女のためにもならない気がするでござるが」

「かといって、師匠の元に送ってもなぁ。迷惑じゃねえ?」

「手紙のお礼に、師匠にお返事を書くでしょう? その中で確認したらどうでしょうか」

「それだ!!! さすがロウ! 今日も冴えてんな!」

「ははは」

 ロウの笑みが引きつっているような気がするが気の所為だな!
 さて、背景、モウブ師匠ーーっと。

「シロ、クロ、何か食べますか? お使いのお礼に好きなものを注文してください」

「にゃー」「にゃにゃん」

「ほほう、龍魚ソーセージとラージボアの燻製肉ですか。ミルクも付けておきますね」

「なあロウ、めいわくってどう書くんだっけ」

「えーっとですね」


ギルド内にこぼれる暖かな午後の日差しは、優しく皆を照らしていた……
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