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036 潜入!断崖の孤島

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「にゃんにゃん」

 ふむふむ。なるほど?

 時刻は深夜。サイハテの村跡地にて、シロからの報告を聞く。
 アッシュ達は現在ダイサンの街に拠点を置き、冒険者活動を行っているらしい。

 現状の彼らを脅かすイベントはしばらく発生しないので、俺にしか出来ないことに着手しようというわけだ。

「それで、次はサイハテの村で何をするの?」
 俺の隣でコーヒーを飲む黒ずくめのカリン。

「ロウの最強装備回収と、捕虜になったサイハテの村人の開放かな。アッシュ達が王都に行くまではアッシュ達の周囲は平和なはずだから、アッシュ達のやれないところを埋めていこうかと思ってね」

 肉まんに手を伸ばすカリン。ガチ夜食やん。俺にもくれ。
「魔王撃破の準備を整えてあげるわけね。邪神討伐もその先に?」

 もぐもぐ。具材のツノウサギの肉がジューシーだ。ちょっと冷めてるのも安っぽくて悪くない。夜食はこういうのでいいんだよ。
「ぶっちゃけもう、邪神に関しては最低限の準備は終わってるんだよな」

「え、そうなの?レベル666とか言ってなかった? 最強装備やレアアイテムが必要とか話してた気がするんだけど」
 もぐもぐしながら疑問を口に出すカリン。

「ゲームではそうだったけど、こっちでなら倒すだけなら今からでもやれる状況だな。ただ、龍脈使うこと前提になるからその代替手段の準備は別途必要ってのと、邪神の考えも聞いてないというのもあったりする」

「邪神の考え……って倒せるの!?」

「倒すのは多分問題ないと思う。ただ、世界が滅ぶのは魔王の雲が直接的な原因であって、邪神はあくまでゲームクリア後の隠しボス扱いなわけで。わざわざ寝てるのを起こして殴りに行く必要性も薄いかなぁと」

「それで直近のサイハテの村関連を優先度上げて対応するわけね」

「にゃんにゃん」
 お、シロも肉まん食うのか。俺の食いかけでいい?

「うむ。ーーってわけでサイハテの村までやってきたわけだが」
 食後のタバコに火を付けながら周囲を見渡す。
 深夜、月明かりに照らし出されたサイハテの村は家屋が崩れ、人の気配が感じられない廃村となっていた。

「見事に荒れ果ててんなぁ」

「モンスターがまばらに歩いてるくらいね」

 遠くにはモンスターの影が確認できた。
 レベル40赤い巨人ギガント。レベル45さまよう鎧。レベル42ローブをかぶった男だいまどうし。
 ゲーム終盤エリアらしく、ザコ敵のレベルもなかなかに高くなっている。

「明日も朝早いからさっさと終わらせよう。今日は捕虜の現状確認までできたらいいかな」
 タバコの火を消して携帯灰皿にIN。

「場所はもうわかってるの?」

「魔王撃破後に行けるようになるエリアでな。魔王城の裏手の海に断崖の孤島がある。彼らはそこにいるはずだ」

「はずってことは……」

「ゲームクリア時には生活跡しか確認できないんだよな。シロ、方角はあっちだ」
 カリンと共にシロの背に乗り、影に潜って進んでもらう。

 荒れ狂う海の中、まばらに見える夜行性の魚の影を頼りに影の世界を進むことしばし。
 俺たちの目の前には海の中にぽつんとそびえる孤島が見えてきた。

「そもそも魔王はなんでサイハテの村の人たちをさらったわけ?」

「この島に例の雲を発生させる装置があるんだが、それの動力源って話だったな」

「たしかに、この辺りは霧が濃いわね……その装置壊しちゃえば良くない?」

「いま壊しちゃうとストーリー変わるからなぁ。その辺りも潜入してから考えよう。
 シロ、とりあえず崖の中の様子がみたいから向ってくれ」
 シロにお願いすると、影の世界から地形にとらわれることなく容易に崖を登って・・いく。

「シロがいると潜入やりたいほうだいね」

「影がない場所なんて限られるしなぁ。一応、魔力が濃すぎる場所や結界がある場所なんかは、影の世界にも影響があるから移動に制限あるっぽいが」

 他愛もない話をしつつシロに揺られることしばし。
 俺たちは崖を登りきり、影の世界から出て島の様子を伺っていた。

 島の中央に塔があり、塔からは怪しげな霧が垂れ流されている。
 また、塔の周囲にまばらに建物が存在していた。

「捕虜がいるとしたらあの塔か周囲の建物かしら?」

「可能性は高いな。ここからは脱出経路の確認兼ねて、俺たちの足で進んでみるか」
「了解。そろそろ身体を動かしたい気分だったのよね」

月明かりに照らされて、2つの影が闇夜に溶けて行った。
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