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032 凱旋…そして
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マッド君の頭上でつい、心の声を漏らす。
「なんということだ……ハジマリノマチが滅んでしまった……」
「いや、そんな茶番はいいから。というか壊したの貴方のゴーレム?だからね」
恐る恐るマッド君の頭の端から周囲を見渡すカリンが応えた。
「おう、マッド君な」
「名前は聞いてない。ところでモウブ、貴方戦わないんじゃなかったの? なんでここにいるのよ」
「ん? ちゃんと作戦会議で言っただろ? ここから指揮を取らせてもらうって」
言いながらマッド君の頭を指差す俺。
「ここ?」
首をかしげるカリン。追加の説明が必要なようだ。
「マッド君は作戦会議した場所の土から作ってるし、戦ったのはマッド君だから。俺自体は指揮してただけだな」
カリンが俺の指先をたどって視線を動かす。
指が示す先の地面には四角と『マ』の字が描かれ、5つの石が転がっていた。
「ーーそういう誤解を与える言い方をやめろっていってるのよ」
カリンからゾーン時よりも強い殺気を感じた俺は、慌てて話題を変えることにする。
「お、おう。そろそろマッド君には戻ってもらうか。マッド君が出てきた穴を埋めとかないと、街道整備たいへんだからな」
マッド君に手を出してもらい、手のひらに飛び乗る。
そのままゆっくりと下へ降ろしてもらうと、マッド君に最後の指示をだした。
「マッド君、今までありがとう! いつかまた合う日までさよなら!」
マッド君に手を振り別れを告げる俺。マッド君はクールに生まれた土地へと去っていった。
「……マッド君には意思があるの?」
「そういう風には作ってないな」
「あっはい」
こういうのは気持ちだから当人が納得してればそれで良いのだよ。
戦友との別れを済ませた俺とカリンは、アッシュ達との合流を目指して歩き始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
激しい戦闘跡が色濃く残る城壁に沿って歩くことしばし。城壁南門が見えてくる。
正門は開け放たれ、衛兵達が戦後処理のため戦場跡へと散っていくところだった。
「師匠! ご無事でなによりでござる!」
「お、スルタン! シロとクロから状況は聞いてたけど、元気な姿を見れて安心したよ」
最初に無事を確認できたのはスルタン。
血と泥にまみれ疲労を隠しきれていないが、スルタンの顔からは達成感を感じ取れた。
「師匠! カリンさん! 無事だったんだな!」
次いで合流したのがアッシュとロウ。しっかりとした足取りで駆けてきた。
「二人共無事で良かった。怪我はーーなさそうだな」
「ああ、身体はなんともないぜ! マリリスは追い詰めたんだけど、急に地震が起こって逃しちまったよ……」
「マリリスも驚いていたので、あれは魔族の策というわけでもなさそうでしたね。不運でした」
「ははは、それはしょうがないな」
カリンのジト目をスルーしつつ無事を喜び合う。
と、視界に衛兵隊の指揮を執るグレイブ隊長が見えた。
「悪い、ちょっと報告に行ってくる。疲れてるとこ悪いが、ちょっとだけ付き合ってくれ」
言いながらグレイブ隊長へと足を向ける。
グレイブ隊長もこちらに気付いたようだ。
「モウブか。無事で何よりだ。南門の援軍はーーその冒険者達か?」
「ハッ! 【フタツメの街】に同道した冒険者たちです! ハジマリの町への帰還中、魔族からの襲撃を確認。これを撃退すべく、南門を攻める敵軍への強襲に当たりました!」
「正直なところ、かなり厳しい状況だった。君たちの協力がなければ危うかったかもしれん。 ハジマリの町の一人の住人として、お礼を言わせてもらうよ。 本当にありがとう」
グレイブ隊長がアッシュ達へと賛辞の言葉を送る。
「い、いえ! 町のみんなが無事で良かったです! 俺たちは確かに町を救いたいとは思いましたが、それを実現できたのは師匠の作戦のおかげだと思います!」
「勇気ある作戦を実行してくれた君たちも、間違いなく勇者と讃えられてしかるべきだよ。ところで師匠と言ったが……その方はどちらに? 合わせてお礼をお伝えしたいのだが」
アッシュ達が視線を俺に向けてくるので、釣られて俺も後ろに目を向ける。残念、だれもいなかった。
「モウブ、お前が彼らに師事を……?」
「ハッ! 衛兵隊の訓練方法などを伝えました!」
ハジマリ - フタツメマラソンは衛兵隊でもやってたから嘘は言っていない。足が悪くて参加したことはないが。
「なるほど……衛兵隊からの正式な依頼報酬としてではないが、君たちへの感謝の気持ちはなんらかの形で贈らせてほしい」
グレイブ隊長がアッシュ達に向き直る。
「町のみんなを守れたことが一番の報酬です!」
「……あまり固辞するのも逆に失礼なので、頂いたほうがいいですよアッシュ君」
アッシュに耳打ちするロウ。
「ーーあ、はい、ありがたくいただきます!」
「こちらこそありがとう。 冒険者ギルドを通して連絡させてもらうよ。 アッシュ君…だったね。 使いにはモウブを当たらせよう」
その後、いくつかのやりとりを済ませた俺達は、激戦の疲労を癒やすべく解散となった。
さて、俺も早いとこ帰って一眠りーー
宿舎へと歩き始めたところで、カリンに首裏を掴まれる。痛い。ムチ打ちったらどうすんねん。
「ちょっとお腹空いたから『海竜亭』(※1)のコース食べたいなぁ」
「お、おう。好きなもの食べたらいいんじゃ」
空腹と首裏を掴む因果関係が分からない。
「誰かの作戦に付き合ったんだから、お返しに夕ごはん付き合ってもらってもいいと思わない?」
報酬は別途もらえるって話、さっきしてませんでしたかねぇ。
衛兵さんたいへんです!ゆすり・たかりがいます!って衛兵俺だった!
か弱くはないが、ギルドの受付嬢を四天王軍にぶつけたことは間違いないので、俺はおとなしく連行されることにした。
◇ ◇ ◇ ◇
(※1):『海竜亭』
かいりゅうてい。別名シーサーペン亭。美味い海の幸を提供するハジマリの町の隠れ家的居酒屋。全席個室のため家族連れやカップルに人気。お値段はそこそこするのでお財布には余裕をもった来店が必要。
「なんということだ……ハジマリノマチが滅んでしまった……」
「いや、そんな茶番はいいから。というか壊したの貴方のゴーレム?だからね」
恐る恐るマッド君の頭の端から周囲を見渡すカリンが応えた。
「おう、マッド君な」
「名前は聞いてない。ところでモウブ、貴方戦わないんじゃなかったの? なんでここにいるのよ」
「ん? ちゃんと作戦会議で言っただろ? ここから指揮を取らせてもらうって」
言いながらマッド君の頭を指差す俺。
「ここ?」
首をかしげるカリン。追加の説明が必要なようだ。
「マッド君は作戦会議した場所の土から作ってるし、戦ったのはマッド君だから。俺自体は指揮してただけだな」
カリンが俺の指先をたどって視線を動かす。
指が示す先の地面には四角と『マ』の字が描かれ、5つの石が転がっていた。
「ーーそういう誤解を与える言い方をやめろっていってるのよ」
カリンからゾーン時よりも強い殺気を感じた俺は、慌てて話題を変えることにする。
「お、おう。そろそろマッド君には戻ってもらうか。マッド君が出てきた穴を埋めとかないと、街道整備たいへんだからな」
マッド君に手を出してもらい、手のひらに飛び乗る。
そのままゆっくりと下へ降ろしてもらうと、マッド君に最後の指示をだした。
「マッド君、今までありがとう! いつかまた合う日までさよなら!」
マッド君に手を振り別れを告げる俺。マッド君はクールに生まれた土地へと去っていった。
「……マッド君には意思があるの?」
「そういう風には作ってないな」
「あっはい」
こういうのは気持ちだから当人が納得してればそれで良いのだよ。
戦友との別れを済ませた俺とカリンは、アッシュ達との合流を目指して歩き始めた。
◇ ◇ ◇ ◇
激しい戦闘跡が色濃く残る城壁に沿って歩くことしばし。城壁南門が見えてくる。
正門は開け放たれ、衛兵達が戦後処理のため戦場跡へと散っていくところだった。
「師匠! ご無事でなによりでござる!」
「お、スルタン! シロとクロから状況は聞いてたけど、元気な姿を見れて安心したよ」
最初に無事を確認できたのはスルタン。
血と泥にまみれ疲労を隠しきれていないが、スルタンの顔からは達成感を感じ取れた。
「師匠! カリンさん! 無事だったんだな!」
次いで合流したのがアッシュとロウ。しっかりとした足取りで駆けてきた。
「二人共無事で良かった。怪我はーーなさそうだな」
「ああ、身体はなんともないぜ! マリリスは追い詰めたんだけど、急に地震が起こって逃しちまったよ……」
「マリリスも驚いていたので、あれは魔族の策というわけでもなさそうでしたね。不運でした」
「ははは、それはしょうがないな」
カリンのジト目をスルーしつつ無事を喜び合う。
と、視界に衛兵隊の指揮を執るグレイブ隊長が見えた。
「悪い、ちょっと報告に行ってくる。疲れてるとこ悪いが、ちょっとだけ付き合ってくれ」
言いながらグレイブ隊長へと足を向ける。
グレイブ隊長もこちらに気付いたようだ。
「モウブか。無事で何よりだ。南門の援軍はーーその冒険者達か?」
「ハッ! 【フタツメの街】に同道した冒険者たちです! ハジマリの町への帰還中、魔族からの襲撃を確認。これを撃退すべく、南門を攻める敵軍への強襲に当たりました!」
「正直なところ、かなり厳しい状況だった。君たちの協力がなければ危うかったかもしれん。 ハジマリの町の一人の住人として、お礼を言わせてもらうよ。 本当にありがとう」
グレイブ隊長がアッシュ達へと賛辞の言葉を送る。
「い、いえ! 町のみんなが無事で良かったです! 俺たちは確かに町を救いたいとは思いましたが、それを実現できたのは師匠の作戦のおかげだと思います!」
「勇気ある作戦を実行してくれた君たちも、間違いなく勇者と讃えられてしかるべきだよ。ところで師匠と言ったが……その方はどちらに? 合わせてお礼をお伝えしたいのだが」
アッシュ達が視線を俺に向けてくるので、釣られて俺も後ろに目を向ける。残念、だれもいなかった。
「モウブ、お前が彼らに師事を……?」
「ハッ! 衛兵隊の訓練方法などを伝えました!」
ハジマリ - フタツメマラソンは衛兵隊でもやってたから嘘は言っていない。足が悪くて参加したことはないが。
「なるほど……衛兵隊からの正式な依頼報酬としてではないが、君たちへの感謝の気持ちはなんらかの形で贈らせてほしい」
グレイブ隊長がアッシュ達に向き直る。
「町のみんなを守れたことが一番の報酬です!」
「……あまり固辞するのも逆に失礼なので、頂いたほうがいいですよアッシュ君」
アッシュに耳打ちするロウ。
「ーーあ、はい、ありがたくいただきます!」
「こちらこそありがとう。 冒険者ギルドを通して連絡させてもらうよ。 アッシュ君…だったね。 使いにはモウブを当たらせよう」
その後、いくつかのやりとりを済ませた俺達は、激戦の疲労を癒やすべく解散となった。
さて、俺も早いとこ帰って一眠りーー
宿舎へと歩き始めたところで、カリンに首裏を掴まれる。痛い。ムチ打ちったらどうすんねん。
「ちょっとお腹空いたから『海竜亭』(※1)のコース食べたいなぁ」
「お、おう。好きなもの食べたらいいんじゃ」
空腹と首裏を掴む因果関係が分からない。
「誰かの作戦に付き合ったんだから、お返しに夕ごはん付き合ってもらってもいいと思わない?」
報酬は別途もらえるって話、さっきしてませんでしたかねぇ。
衛兵さんたいへんです!ゆすり・たかりがいます!って衛兵俺だった!
か弱くはないが、ギルドの受付嬢を四天王軍にぶつけたことは間違いないので、俺はおとなしく連行されることにした。
◇ ◇ ◇ ◇
(※1):『海竜亭』
かいりゅうてい。別名シーサーペン亭。美味い海の幸を提供するハジマリの町の隠れ家的居酒屋。全席個室のため家族連れやカップルに人気。お値段はそこそこするのでお財布には余裕をもった来店が必要。
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