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025 天然物ゴーレム

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 基本的にモンスターは龍脈から漏れ出す魔素が動植物に影響して変異したものとされている。
 だが岩や鉱石が変異しても人型の手足をつけて歩きだしたりはしないだろう。

 錬金術士が作成する【ゴーレム】は、術者が設計図を用意し、動力源を用意し、素材を合わせて作成する。
 モンスターとしての【ゴーレム】は、意思を持たない石が龍脈から漏れる【大地の記憶】の残滓を写したものとされている。
 つまり石に擬似的な意思が宿っているのだ。石の意志。

 人工的な様相の錬金術師が作成するそれと違い、天然物のゴーレムの姿形は様々だ。
 宿った意思に応じて、人型、動物型、果てはモンスター型までバラエティに富んでいる。

 そしてその弱点も異なっている。
 錬金術師のゴーレムは設計図に沿った【回路】を破壊すれば動けなくなるのに対し、ただの石の集合体である天然物ゴーレムは、身体そのものが【回路】となっており、回路の破壊難易度を上げている。
 手、足、首など、可動部を全て分離させることで宿した残滓の意思が宿れない・・・・状態にする必要があるのだ。

 このことから、岩のゴーレムなら岩を破壊する力が。
 鉄のゴーレムなら鉄を切断する力が。
 それぞれの素材に応じた破壊力を持っていなければ、ゴーレムの打倒は困難なのだ。

 つまり眼前のミスリルゴーレムを倒すには……


 ミスリルゴーレムを倒す準備を始めていると、カリンが話しかけてくる。

「ちょっとモウブ。 私、ミスリルに通るスキル持ってないけど大丈夫?」

「俺も切れるか自信ないぜ師匠……」

「僕の炎では溶けない気がしますね。雷は効くのでしょうか……?」

「ゴーレム種には打撃が有効。とはいえ拙者の力ではあの鉄塊の破壊は時間がかかりそうでござる……」

 意気消沈する4人。

「かければいいんじゃないか? 時間」

「えっ?」

「いや、時間がかかるなら、時間かけて倒せばいいんじゃないかと思ってるんだが」

「いやいや、師匠! 師匠の考えを疑ってるわけじゃないけど、俺たちのほうが先にやられちまうよ!」

「全MPで攻撃しても倒しきれるとは……」

「回復アイテム類も枯渇する気がしマッソゥ……」

 どうも4人と話が噛み合っていない気がする。

「ミスリルゴーレムはレベル55。 このレベルと正面切って戦えるのは上級職の私だけ。 私の忍者スキルはゴーレム種には効果的じゃないから……」

「わかったわかった。 時間かかるのはよくわかったから、なおさら早いとこ始めよう。 ーー1、2,3!」

 カリンの剣幕から逃れるためにミスリルゴーレムに攻撃を仕掛ける。
 様子見の3連撃(模倣)だ。

 ギィン!ギィン!ギィン!

 鈍い音を立てて攻撃は弾かれ、有効打ではないことを示してくる。

「関節狙ってもやっぱ硬いなぁ」

 握る剣に目を落とすと、剣がわずかに欠けていた。数打ちの鉄剣では直ぐに使えなくなりそうだ。

「ーーっ師匠、もう始めちまうのか!?まだ準備が……」

「戦士スキル【身体強化】(模倣)、僧侶スキル【オーラ】(模倣)、盗賊スキル【弱点特効】(模倣)、ーー1,2,3!」

 ギィン!ギィン!ギィン!

 鈍い音は相変わらずだったが、ミスリルゴーレムの関節部に大きな傷を残す。
「強化系スキルの重ねがけなら傷はつけられるな」

「ーーすげえ……!ミスリルゴーレムに攻撃が通ってる……!」

「侍スキル【居合切り】(模倣)」

 バギィン!!

 鈍い音と共に、ミスリルゴーレムの右腕が関節から分断される。
 同時に俺の手に持つ鉄剣も砕けちった。

「強化スキルの重ねがけに上位スキルなら切断までいけるみたいだ。とりあえず武器は壊していいやつ持ってきてるから、スキルの練習がてらどんどん攻撃してくれ」

 言いながら道化師スキル【マジックバック】に詰めた武器を地面に吐き出す。

「ーーちょっといいかしらモウブ」

 カリンが片手をあげて俺を制する。

「どうした?」

「なんでミスリルゴーレムは動かないのかしら?」

 そう、ミスリルゴーレムは今までの間、その場を一歩も動いていなかった。

「なんでって、動いてると危ないだろう。動かないように動力源の龍脈の流れを反らしてるから、動きたくても動けないようにしてるんだよ」

 もちろん人間の精神では龍脈の大きな流れを制することなど不可能だが、龍脈の根に別の龍脈の根から取り出した力を当てることで、龍脈の流れをある程度コントロールすることは可能なのだ。

「ーーそういうことは早くいいなさいよ! とっとと攻撃するわよアッシュ君たち!!」

 地面の短剣を拾いながら怒鳴るカリン。

「【桜花旋風刃】!!」

「うわっ危ないよカリンさん!!」

 カリンの周囲に剣戟の嵐が現れ、ミスリルゴーレムを切り刻んでいく。
 怒りにまかせたカリンたちの攻撃は、その後しばらく続くのだった。
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