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024 シャドウキャット

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「ねえモウブ。あれって猫っぽいけど」

「師匠、猫がいるぞ」

「猫ですねぇ」

「むぅん」

 物欲センサーvsでないでないフラグ。
 勝利したのは後者だったようだ。

 早朝、野営地を片付けて鉱山に侵入した俺たちは、ランタンの明かりを頼りに鉱山を降りていった。
 道中現れるロックゴーレムやジャイアントバットを撃退すること数度。


 俺たちの目の前には、あどけない顔をした小さな白猫と、白猫を守るように立ちはだかる大きな黒猫がいた。

 猫はいえ、そこはモンスター。
 白猫でも体長1メートル程、黒猫は2メートルはあるだろうか。
 猫じゃなくてトラの大きさだけど見た目は猫だ。


「うーん……マジで現れるとは……しかも二匹も。 心の準備ができていないが、ちょっとやってみるか」

 【龍脈探知】を行使。
 この辺りの龍脈はハジマリの町付近に比べるとまだ扱いやすいようだ。

 準備を終えてゆっくりと猫たちに近づく。
 黒猫が牙を向いて威嚇しているが、刺激しないように笑みを絶やさずにそっとそっと。

「怖くないよ~」
 猫撫で声を出しながら黒猫の顔を撫でようとする。猫だけに。

「おい、師匠危な……」

 アッシュが静止の声を上げた瞬間、差し出した俺の手に黒猫が噛み付いた。

「ああっ! 師匠の手がッ!」

「ーーいえ、アレは……」

 黒猫が噛み付いたのは俺の手ーーではなく、剣の鞘になっていた。
 忍者スキル【空蝉の術】模倣。相手の攻撃に合わせて発動することで、攻撃を移し替える・・・・・事ができる。

 次いで魔王スキル、【覇王の威圧】を【龍脈接続】で発動。
 通常【覇王の威圧】はレベルを参照して効果を増減させるが、龍脈から引っ張ってきた魔力で代替させる。
 瞬間、可視化された闇色の魔力が周囲に満ちる。

「フニャアアア!?」

 全身の毛を逆立て、白猫の側に飛び下がる黒猫。

「ーーっ、師匠から押しつぶされそうな重圧が……!」

「なんという圧倒的な存在感……! 僕たちでは視線を向けられれば動くことすらできないでしょう……!」

「マッソゥ……!」


 怪しげにゆらめく黒紫の波動を身にまとい、猫たちへと歩みをすすめる。
「ほ~ら怖くないよ~~」


「ニャッ!!」

 猫たちまで1メートルに近づいた瞬間、白猫と黒猫はくるりと向きを変えると逃げ出した。

 せっかく出会えたシャドウキャットを逃がすわけにはいかない。
 【縮地】で猫たちの前方まで移動し、逃走を阻んで一言。

「ーー知らなかったのか?魔王からは逃げられない」
 人生の中で言ってみたいセリフNo3を消化できた満足感に浸っていると、白猫と黒猫は観念したように首をうなだれた。

 お、もうこれいけるのかな。
 道化師スキル【テイミング】発動。

 かざした手から赤い鎖が生まれ、猫たちに絡みつく。
 猫たちは若干の抵抗を見せたが、やがて鎖は猫たちに吸収され見えなくなった。

 ややあって、白猫と黒猫はおずおずと近づいて話しかけてくる。
「ニャニャニャ」
「ニャニャ、ニャニャン」

 ーーふむふむ?
 テイムすると、彼ら彼女らの気持ちがなんとなくわかるようになる。
 どうも黒猫(オス)と白猫(メス)は兄妹の関係のようだ。
 ひどいことはしないから協力してほしい旨を伝えておく。

 名前は……そうだな、『シロ』『クロ』でいい?
「ニャニャ」
「ニャン」

 ーーシャドウキャッツ(複数形)、ゲットだぜ!


◇◇◇◇

 白猫を抱いて怪我がないか確認していると、カリンが近づいてきた。

「でもほんと可愛いわね~撫でて良い?」

 キャッツに目を向けて意思を確認。
「ふむ、あんまり良くないらしい」

「そこは飼い主のあなたが説得しなさいよ」

 今日は拒否権君はボイコットのようだ。
 カリン絶対王政の打倒を心のメモに記しつつ白猫を渡す。

 白猫のもふもふをもふもふするカリン。
 白猫は若干迷惑そうだ。

「お前はなんかかっこいいな! 俺はアッシュ! 師匠の一番弟子だ! よろしくな!」

 アッシュも黒猫を撫でる。

 男同士通じるものがあるのか、美しい友情が紡がれた気がした。

「でもなんでこの子達をテイムしたの?」

「ちょっと考えてることがあってな。 洞窟出てから試すから説明はその時にでもまとめて話すとしよう。 いやーまさか出会えると思ってなかったからいろいろ計画練り直さないとな」

 今後の計画に修正を行いながら歩いていると、思考が口から漏れたようだ。

「この調子ならもうひとつの希少種も会えるかもな……」

「あれ、まだ希少種っているんだ?」

「ああ、シャドウキャットほどレアじゃないが、経験値が美味しいミスリルゴーレムが出る。 上級職埋めにちょうど良いから出来れば狩っておきたいが……」

 と、白猫がカリンの手を離れ俺の肩に飛び乗ってきた。

 ーふむふむ?
 ーモンスターを?
 ー探すことができる?


「ーー全員集合!」

「どうしたんだ師匠?」

「何かあったの?」

「もともとの計画はこのまま最下層まで降りる予定だったが、ちょっと試すことができた。 悪いが俺についてきてくれ。 次は右……そして左か」

 シロの先導に従い坑道を歩くこと10分。

 目の前には虹色に輝くゴーレムが鎮座していた。

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