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019 斥候部隊再び

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 明けて翌日。曇天。

 お日様を浴びれないので気持ちが重い。
 まあ、毎日が晴れだと晴れの日のありがたさも薄れるというものか。

 無理矢理に自分を納得させて町の正門から外にでる。


 今日は馬に騎乗しての長距離調査が主な任務となっている。

 【まどろみの森】を抜けて【雄々しき山脈】までの、出現モンスターの分布や脅威度を確認するのだ。

「おはよーっす!師匠!!」
「……ます」
「おはようでござる!」

 【まどろみの森】に向かう道中でアッシュ達と合流する。
 今日の道程を簡単に共有した後で、訓練方針についての説明を行う。

「前に説明した通り、スキルは発動後に硬直時間が発生する。この硬直時間ってのが、こと戦闘時においては非常にもったいない・・・・・・。 動きを止めてるぶんだけ、攻撃もできないし防御もできない。空白の時間を作ってしまうからだな。 じゃあその空白を埋めるにはどうするか、って話だ。

 一つの回答としてはスキルの模倣。
 そもそもスキルを使わないことで硬直そのものを無くしてしまう。

 全てのスキルを模倣できるなら問題ないが、普通は一つのスキルの模倣だけで年単位の時間がかかるからハードルが高い。

 で、2つ目の回答としてスキルコンボというのがある」

言いながらアッシュに向かって語りかける。

「アッシュ、その場で回転斬り打ってみて、硬直時間を確認してくれ」

「わかった!【回転斬り】!」

 アッシュのスキル宣言に応じて、アッシュの身体が虹色に光る幅広の剣を水平に振るう。
 身体を一回転させた後停止する。

「ーー1,……2秒ないくらい?」

「正解だ。1.75秒と言われてる。じゃあ次に【回転斬り】と【真空斬り】を打ってみてくれ。【真空斬り】の宣言は【回転斬り】発動中だ」

「ーーえーっと【回転斬り】……【真空斬り】!」

 アッシュが幅広剣を一回転、次いで再度幅広剣を水平に振るう。
 幅広剣から斬撃が生まれ、アッシュは身体を止めた。

「ーーいまのは【回転斬り】の硬直が1秒もなかった気がする」

「そう、0.3秒で【真空斬り】に入ったはずだ。1つ目のスキルの終了時の動きと、2つ目のスキルの開始時の動きが同一のもの。これを続けて宣言した場合、硬直時間を減らすことができる」

 通常の【大地の記憶】へのアクセスは1スキルにつき1回毎に必要だが、スキルコンボは1つのアクセスで複数のスキルを発動させる方法だ。

 動きのトレースが類似のスキルを重ねる・・・ことで、一つのスキルと誤認させてアクセスを継続させる。
 その分アクセス終了時の硬直は大きくなるデメリットもあるが。

「重ねられるスキルはジョブを超えて存在することも多い。スキルコンボを使いこなすには、全ジョブのmasterは必須条件となってくるわけだ」

「全ジョブのmasterってそんなこと……」

「下級職だけなら半日でいけるぞ。上級職は一度転職しないと行けないから面倒だが、1週間あれば充分いける」

 シスター・マリアンヌを説得できればな。
 そういえば前回迷惑をかけたお詫びにまだ行けていない気がする。

 心のメモに残しつつ、意識を戻す。

「とりあえずスキルコンボの有用性はわかってもらえたと思う。今はそういう技術がある、ってことだけ覚えてもらえばいい。敵も使ってくることがある、と想定しておくんだ」

 馬に飛び乗り、腹を軽く蹴る。

「じゃあ、【まどろみの森】まで走って行くぞ。体力は戦闘の大前提だ!」

「ちょ、待ってくれよ師匠~~~!!」


ーーー


 俺の名はゲルザル=マコルトーザ。
 魔族の中でもエリート一家、マコルトーザ男爵家の次男だ。

 映えある魔王軍4天王、暴風のマリリス様の直属部隊、第3大隊の斥候部隊に所属している。

 先日は忌々しい人間どもの城壁に阻まれ撤退を余儀なくされた。

 今回は城壁の対策として、空から偵察ができる部隊を連れてきている。

 目にモノ見せてくれるわ人間どもめ……

 森の中で偵察の準備を進めていると、複数の人間の気配が森に侵入するのを確認できた。

 今コチラの存在を気取られるわけにはいかない。
 排除可能な人数と判断し、対象を排除することを選択する。

 今回の人員はワイバーン15匹。騎乗するゴブリンリーダー15匹の全30名。
 総員をターゲットを囲むように配置、その後徐々に包囲を狭めていく。

 攻撃を開始する直前、騎乗した男が叫んだ。

「ーー囲まれてるぞッ!戦闘準備!」

 男の声に合わせて、俺も命令を下す。

「蹂躙せよ!突撃だ!!」



 薄暗い森の中、戦いの火蓋が切って落とされた。
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