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017 骨の王無双

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 【英雄の墓標】最奥部には一つの棺が設置されている。

 ここに眠るのはダンジョンボス、スケルトンキングだ。

 通常ボスのレベルはダンジョンに出現するモンスターの2倍~3倍程度。

 スケルトンキングのレベルは10となる。


 アッシュ達が部屋に入ると、棺の蓋がゆっくりと開き、豪華な服を来た白骨が身体を起こす。

「我ガ眠リヲ妨ゲルノハ誰ダ……」

「むぅん!」

 スルタンの【ターンアンデッド】(模倣)の光の拳が、棺から出ようとするスケルトンキングの手を弾く。

「貴様……!」

「むぅん!」

 白骨の岩窟が怒りで赤く光り、その光にスルタンの手刀の光が突き刺さる。
 【ターンアンデッド】(模倣)の形を変えたようだ。


「キサ…」

「むぅん!」

 スルタンの光の張り手がスケルトンキングの上半身を棺に叩き落とす。


「行きます!【ファイアーウォール】!」
 一拍遅れて、ロウの炎の壁が棺を包む。


「うおおお!真空斬り(模倣)からの……【エアロスラッシュ】!」
 アッシュが剣を横に一閃、切り返しで二閃と振り回す。

 剣の軌跡に沿って発生した衝撃波と風の刃が棺を吹き飛ばす。

「ゲフ……いくでござる!【ホーリーサンクチュアリ】!」
 空のMPポーションを手に、スルタンが声をあげる。
 吹き飛ばされた柩を中心に光の陣が展開され、室内を明るく照らしだす。


 やがて光が収まると、静寂が部屋を満たした。
 辺りにはうっすらと土埃が舞い、視界が悪くなっている。


 初めてのボス戦で緊張していたのか、アッシュがやや上ずった声をあげる。
「やったか?」

 おいそういうのやめろ。やってるけど。

「レベルアップを確認しましたし、おそらく仕留めているでしょう」
 顔ににじむ汗をぬぐいながら、ロウが応えた。

「アンデッドには僧侶のスキルが有効!師匠の教えのとおりでしたな!!」
 活躍できたのが嬉しかったのか、スルタンの声は高い。
 いやいつも高かった気がしてきた。

 パンパン、と手を叩き注目を集める。
「スキル模倣もなかなかサマになってきてるな! 連携もいい感じだったぞ。振り返りは帰ってからやるから、採れるもの取ってさっさと撤収しよう。帰るまでが冒険だ!」


——


「でもなんであんな戦いづらい場所から現れたのでしょう? せめて柩から出て待っていればあんなことにはならなかった気がしますが」

 遺品を回収していると、ロウが疑問を口に出した。

 お、勇者のしるし発見。
 このイベントを除けば、1枚しか入手方法を知らないレアアイテムだから、
 使うタイミングはきちんと伝えておかないとな。


「うーん、寝起きを起こされたらみんなそうじゃないか? ロウも朝はぼーっとしてるだろう」

 遺品整理の手を止めずに答えを返す。
 これはHPポーション(中)か。
 柩の中のポーションにはちょっと抵抗あるけど飲むのはアッシュ達だしセーフセーフ。


「いや流石に僕でも攻め込まれてたら起きて待ち構えてますよ!」

「師匠、剣もあったぜ!」

「お、それ【エレメントキラー】だな。しばらく使えるから装備変えとくと良いぞ」


 その後特筆することもなく、日が暮れる少し前に、俺達は【ハジマリの町】へと無事帰還した。


 冒険者ギルドに併設された酒場で夕食に舌鼓をうちながら、本日のリザルトを確認していく。

————

▼ステータス(簡易)
アッシュ レベル:7 職業:戦士
習得スキル
・身体強化・回転切り・五月雨斬り・真空斬り・エアロスラッシュ
——
ロウ レベル:6 職業:魔法使い
習得スキル
・初級魔法・ファイアウォール
——
スルタン レベル:8 職業:僧侶
習得スキル
・初級魔法(聖)・ヒール・ターンアンデッド・ホーリーサンクチュアリ
——
モウブ レベル:2 職業:道化師
・身体強化・3連切り・龍脈感知・龍脈接続・魔法使い ・僧侶・盗賊・道化師

▼戦利品
・勇者のしるし
→特殊職【勇者】に転職することができる
・エレメントキラー
→七色に淡く輝くブロードソード。精霊種への特攻(2倍)が付与されている。
・HPポーション(中)
→HPを300回復する。

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「今日はありがとうございました師匠!」

「自身の成長にたしかな手応えを感じたでござる……!やはり師匠は神……!」

「3人での冒険とは明らかに成長速度が違いますね!」

「いやいや、お前達が真面目に努力した結果だ。俺はそのサポートをしたにすぎんよ。
これからもこの調子で頑張るんだぞ! 明日は俺は外回り勤務だからな。ここからは独り言だが、たまたま冒険者が同じ方向に歩くのは問題ないだろう」

「わかりました!朝8時出発でしたよね!」

 おう、と軽く答えると、先程から感じていた視線の主を確認する。
 ギルドカウンターで両肘を組んでこちらをガン見しているカリンがそこにいた。

 圧を感じた俺は、席を立ちながら声をかける。
「じゃあ3人とも、明日も早いから早めにあがるんだぞ」

 時間を確認すると、受付嬢の退勤時刻が近づいていた。
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