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002 森の中の死闘

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 明けて翌日。今日は街の外周に沿った外回りとなった。

 温暖な気候のハジマリの街周辺は動植物の生育に恵まれており、膝の古傷を抱えた調子の悪い足では少し億劫になる。

 外回りの目的は主にモンスターの駆除となる。
 治安の良さでは定評のあるハジマリの町周辺だが、まれにモンスターが増えるタイミングがある。
 そうなると民間人への被害が出てしまうため、衛兵隊が駆り出されているわけだ。

 とはいえそこはハジマリの街。民間人には被害が出るレベルでも、武装した兵士にとってはなんの驚異もない。
 支給されている鉄の剣を3度振る間に相手は地に伏せているし、支給されている革鎧は反撃を通すこともない。
 相手が近寄ってくるだけ、雑草抜きのほうが辛いまであるただの駆除作業となっている。

 過去に衛兵隊が外回り勤務で出した被害は記録が残るここ10年で確認することはできない。
 記録に残らない被害は出ているのかもしれないが、俺は聞いたことはないな。

 そういった背景から、外回りは複数ある所定のルートのうち、割り振られたルートを1人で歩き回り、道中のモンスターを討伐することとなっている。

 今日俺が割り振られたルートは、ハジマリの町に隣接する森の街道を往復することとなっていた。

 右足をかばいつつ、ゆっくりと足を進めて森へと入っていく。
(外回りさえなきゃ、楽で助かるんだがなぁ。まあ、頻度は下げてもらっているしありがたいことではあるが)

 周囲を見回しながら歩いていくと、突然眼前に半透明の水球が転げ出てくる。

(このペースで歩けば夕暮れまでには町に戻れるかな)
歩みを止めることなく水球に向けて鉄の剣を水平に振るう。
水球は1瞬の抵抗を見せることもなく弾け散った。

(今日の弁当はツノウサギサンドだったな・・・休憩スポットまで急ぐとしよう)

 振り切った剣を腰の鞘に戻しつつ、もくもくとルートの消化を進めた。


----


 支給された弁当を平らげたあと帰路についた俺は、視線を感じて足を止めた。

(何かの……視線を感じる…?)


 視線を辿ると緑の子鬼が3匹、叫び声を上げながら飛び出してくるところだった。

「1」
 抜剣とともに鉄剣を上段に構え、はじめに肉薄した子鬼を袈裟懸けに切り捨てる。

「2」
 続く子鬼に振り下ろした鉄剣をすくい上げるように切り上げる。

「3」
 切り上げの勢いのまま、身体を一回転させて剣を払い最後に向かってきていた子鬼の首をはねる。

 身じろぎすらしない3匹の死体を前に、残心をしつつ周囲を警戒する。

(右膝はまだ痛みはない。が…まだいるな……そこか?)

 気配を頼りに、草むらへ向けて小石を投擲する。


 大人ほどもある背丈の鬼が、怒りの形相で飛び出してきた。
 先程なで斬りにした子鬼を3倍ほどスケールアップさせた様相だが、こん棒を手に持っている。

「ゴブリンリーダー……!」
 ハジマリの町ではまず見かけることがない、討伐推奨レベル15超えのモンスターだ。

 ちなみに俺はレベル11。
 衛兵としては一般的なレベルとなるが、眼前のモンスターを討伐するには心もとない。

 しかし、不安を抱えた膝では逃げることはできないため、事態を打開するためには相手の撃退しかない。

 覚悟を決めた俺が大鬼へ足を踏み出した瞬間、背後から2匹目の大鬼の気配を感じた。

(ゴブリンリーダーが2匹…!HP足りるか…?)

 就業状態としては衛兵の俺だが、実際に「就いている」職業は「戦士」となる。

 1匹ずつ数を減らすべく、眼前の大鬼に対して意識を払いながらつぶやく。
「身体強化」

 戦士として覚えられるスキルの一つで、全身の能力を向上させる。

 戦闘準備を終えた俺は、にじみよる眼前の大鬼に駆け出す。

「3連切り!」
 駆け出した勢いを重ねて、鉄剣を袈裟懸けに振り下ろす。

 子鬼戦との違いはスキル発動の有無だ。
「身体強化」で自身の攻撃力を上げ、「3連切り」を使用することで鉄剣が輝きを放ちながら大鬼に向かう。
 いずれもHP消費型のスキルだ。俺の場合は回復手段が支給されたポーション頼みのため、常用すると継戦能力が下がってしまう。

 短期決戦で敵の数を減らすことを優先しなければ生き残れないと判断した結果となる。

「1, 2, 3!」

 スキルなしの場合と違い、テンポよく、流麗な斬撃が巨鬼の胴体に深い傷をつける。

 鈍い膝の痛みを意識的に無視しながら巨鬼をにらみつけると、お返しとばかりに右手のこん棒が振り下ろされた。

 敵の攻撃がわかっていても、スキル発動後の硬直は避ける事を許してはくれない。

「ぐっ……!」

 胴体にこん棒の一撃をもらいたたらを踏みながらも、倒れることをこらえるが、後頭部からの一撃が俺の視界を一瞬奪う。

「うがっ…!」

 明滅する視界で背後を確認すると、背後から忍び寄ってきていた2匹目の巨鬼がこん棒を振り下ろしながら笑っていた。

 死を感じさせる絶望感に、思わず身がすくむ。

 しかし奇妙なことに、脳裏に浮かんだのはこの場からの闘争でも、生き延びるための思考でもなく、昨日見かけた冒険者達の事だった。


ーーボコ、ガリ、マッチョ……あいつらラスドラの勇者パーティじゃねーか……!!


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