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義務

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  あの日の夢を見る。ああ、またこの夢かとため息がでる。人間の許容量以上の音。その全てがどす黒いものであった日々。耳を塞ぎこんでも聞こえてくる音。人間というものがこれ以上にないほど悪と足らしめていた。俺はひたすらに全ての穴という穴を塞ぐ。それで消えるわけもなく、音は続く。すると一筋の光が見えた。その光から一人の少女の手が差し伸べられる。細く華奢で弱々しいはずなのに、とても強いことを知っている。そして、その子を救えないことも俺は知っていた。
  蛍光灯の灯りいつもと違う天井。そうか俺は倒れたんだっけ?
「目が覚めたようね。貴方急に倒れるんだもの。」
「そうか。また迷惑かけちまったな。」
「別にいいわ、今に始まったことではないし。」
「たしかに、その通りだな。」
  薄ら笑いを浮かべる。
「随分うなされていたようだけど悪い夢でも見ていたの?」
  そう言われて自分の体が汗まみれだということに気づく。
「見てないさ。俺は寝てる時はかなり汗をかくタイプなんだよ。」
「嘘ね。あなた私たちに何か隠してるでしょ」
  姫条は不意に切り出す
「何故そう思った。」
「舞の時も今回も不可解な点が多いのよ。特に今回はね。あそこまで不利な状況。普通なら負けててもおかしくはないわ。」
「いや、何も隠してないさ。俺は嘘は言わない。」
  姫条はため息混じりに言う。
「まぁ、あなたが言いたくないなら無理には聞かないけれども1人で抱え込まないで。私だっているし、舞や白野くんもいる。あなたは少し人に頼るべきよ。」
「まったくお前はあれか?俺の母親か?その心配は杞憂だぜ。」
「茶化さない。」
「へいへい。さて、ピエロは帰るとしますかね。」
「気をつけて帰りなさいよ。」
「はいはーい。」
  俺は姫条の家を後にした。

  帰り道俺は姫条の言葉を思い出していた。
「もう少し頼るべき…ね…。相模にも同じようなことを言われたな。無理なんかしてねぇんだけどな。」
  そうして俺は嘘をつく。
  人間という生き物は自分より能力が高い者を見ると恐怖する生き物だと俺は思っている。俺の能力を知ったらきっとあの3人は俺に関わろうとしなくなるだろう。        それに、これは俺に課せられた義務だ。俺だけで果たさなくてはならないものだ。これに人は巻き込めない。
  5月の上旬、ぬるい夜風に桜が咲く道を通り過ぎ道化師は歪みながら帰路に着いた。
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