ワールドトランスミッション

メイビス

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一章

旅立ち

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部屋を出たユウナはブツブツと文句を言いながら、蝉の声がする寂しげな下町を歩いていた。
「信じらんない、男ってドンだけ胸が好きなのよ」

少年は気を少しずつ取り戻してゆっくりと動いた。
「こ、此処は?うっ」

相当強く蹴られた少年は再び股間を抑え、周りを見回すと、行きつけのDVDショップを発見。
「下町、、、、、、のようだな。あ、あれ?」

自分の姿が見えず、浮いた状態で勝手に進んでいる状況が理解出来なかったので、今までの出来事を振り返る。
「確か朝起きると、はんにゃに、、、、、、再び起きたら可愛い子が何かを言っていたような、、、、、、」

少年の頭には、自分のやらかした悪業は綺麗さっぱり抜け落ちていた。

側から見れば、女装をした少年が宙に浮いて少女を狙っている様に見える。しかし明るい所では光にかき消され、姿は見えていない。

メイド服を着ているとは知らない少年は、真下にうっすら見えるユウナの姿を発見して話しかけてみる。
「あの~すいませ~ん」

ユウナはブツブツ独り言を言っていて話が耳に入ってない様子。
「子作りってなによ、スケベ、変態」

しばらく歩いていると、彼女には僕の姿が見えているようで、意識を取り戻している少年に気付き、自分の側に引き寄せてお嬢様風の口調で歩きながら話を始めた。

「こんにちは!先ほどの事覚えてますか?」

少年は、朝の出来事を思い出して、ユウナの質問に応える。
「アナザーワールドと子作りの話?」

ユウナは感情を抑えながら、話を続けた。
「アナザーワールドの話です。バックアップとは言いましたが、私たちが作った訳ではなく、平行世界と全く同じって訳でもありません。こちらには天使や悪魔、魔力も存在しませんよね?では何故、空想の世界でしか知りえない魔法と言う概念や平行世界の特徴を知りえたのか?この世界と平行世界の間には時空の歪みが存在し、寝ている間に意識だけがあちらの世界へ行き来できたから知りえたのです。身体ごと歪みに飲み込まれた様子を見た人は、これを神隠しと呼んでいます」

少年には頭のおかしな少女に見えていたので、病院へ連れて行こうと考えた。
「そ、それはすごい仮説ですね。その仮説に詳しい先生を知ってるから、一緒に会いに行かないか?」

ユウナは笑を隠しながら応えた。
「仮説ではありません現実です。それに先生って、一体何時まで学生なのですか?」
笑いを抑えながら応えるユウナを見て、少年の心の中では。
「どうやら学校の先生と間違えているようだ。精神病院と悟られても困るが、、、、、、」

話を終えると人っ子一人見当たらない、薄暗い錆びれた商店街に着き、一件だけ明かりを灯している古びた銀行がひっそりと営業をしていた。
アーケードの暗がりに入り、うっすらと自分の姿が見えた時、驚きのあまりに叫んだ。
「な、なんじゃこりゃ~」

昔の太陽にチョメチョメという作品を思い出すセリフだ。
耳元で叫ばれ慌てて耳を塞ぎ、片目をつぶったユウナは銀行の前で立ち止り、少年の方へ一瞬振り向き、顔を見て素っ気なく言った。
「着いたわよ」

少年は驚き混じりの言葉を早口で喋った。
「ちょ、この格好は何?て言うか何がしたいの?こんな錆びれた銀行に何の用だ?預金なんてねぇ~ぞ」

ユウナは路地へ足を運びながらゆっくりと応えた。
「見かけは銀行ですが、私のラボなのです。その格好なら発情期のゴリラでも可愛いく見えますもの」

薄暗く、落書きや新聞紙などが散乱した路地で、ゴミ箱の上にひときわ目立つチャイナ服を着たナイスバディな赤髪ポニーテールのお姉さんが寝ていた。

ユウナはさっきまで文句を言っていた少年が、不敵な笑みを浮かべ、何かを言い終わる前にお姉さんへ投げつけた。
「ナイスバ、、、、、、」

気持ち良さそうに寝ていたお姉さんは、突然の事に驚き飛び起きて少年を見た。
「痛っ、何するんじゃ!」

お姉さんは抱きついた様な状態で笑みを浮かべている少年を引き剥がそうとしている時、ユウナは肩を叩いた。
「たっだいま~アスカ」

一瞬身構えるも、声と名前を聞いてホッと胸を撫で下ろしながら、抱きついた少年を引き剥がす。
「も~驚かせないでよ。昼間まで一体何してたの?」

ユウナは薄笑いしながらアスカに返答した。
「ゴメ~ンチョメチョメっていいとも見たくてさ~」

アスカはイラッとして、喉まで出かかった言葉を飲み込み、落書きされ、足元には新聞紙や空きカンが散らかる壁の中央へ向かった。

壁に右手をかざすと電子画面が開きコードらしきものを入力。網膜スキャンが始まり、扉が現れた。

扉が現れたのを見て、ユウナはその扉に駆け寄り鼻を強打した。
「痛っ、ア~ス~カ~」

アスカは、呆れた表情でユウナを見てため息混じりに言った。
「はぁ~まだロック解除とは言ってませんよ?」

電子画面が閉じられると、扉が輝きだした。
「認識コード受諾。ロック解除、ゲートオープン」

鼻を押さえながら、扉の向こうへ進むユウナを、小走りで追いかけるアスカは小さな声でユウナに語りかける。
「この女装した変態が、あの大賢者アーク様の子孫ですか?」

少年は自分の事を噂されていると思い弁明する。
「好きで女装してるんじゃね~ぞ~」

そんな少年の言葉をよそに、鼻を抑えてユウナはアスカの耳元で囁くように言った。
「オカマのフリして胸を揉む気だから気をつけなさいよっ」

アスカは顔を赤くしながら、少年を見る。
少年は気があると勘違いして、セクシーポーズをする。

扉の中に入ると、そこは何もない薄暗い空き部屋だった。

少年を下ろし、鼻を抑え泣きそうにながらユウナは右手をかざすと、電子画面が現れ、そこへ何か入力した、、、、、、その時!ピカーン。閃光がほとばしる。

何も無かった空間にカプセルが現れ、あっけに取られる少年を無視しして、ユウナは半ベソをかき、アスカの胸に飛び込んで話を始めた。
「扉のセキュリティっ無くてええやん?入ってきたらレイザーガンで打てば、問題無いやん?」

アスカはそんなユウナをなだめている姿を見て少年は羨ましいそうに見ていた。
「そんな事したら、私達死んでしまいますからね、機嫌なおしてください。ね?」

ユウナ達が目を離している今のうちにと、少年は脱出を企てるが、扉は消えて壁のみがそこにあった。

逃げ道は無いかと探してみるが、青い光を放つ電灯とカプセル以外には窓もない空間が広かっている。
「クッソ~、今がチャンスなのに、、、、、、」

少年は出口が無いのが分かり腹をくくった。
「男は度胸、かかってこいやー」

落ち付きを取り戻したユウナは転移の準備を始めた。
「これより、平行世界へと空間を転移します。2人とも~カプセルの中へ入って、入って~」

少年は疑問を感じた。
「さっきの泣きベソといい今といい、お嬢様風に喋るのはぶりっ子か?」

少年とアスカがカプセルに入ると、まばゆい光を放ち轟音を立てて転移を始めた。
ユウナは入力を終えると、光にかき消されるかのように、姿が見え無くなった。



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