私が遊んだファミコンソフト

矢木羽研

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MOTHER(任天堂・1989年)

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 プレイ時期:2000年ごろ
 ソフト入手:中古で2000円ほどで購入
 クリア状況:エンディングまで
 おすすめ度:★★★★★

 *

 本作をプレイしたきっかけについて順番に説明すると、まず『ポケットモンスター』から始まる。今まで「任天堂のRPG」というのは全く意識していなかったのだが興味を持ち、ポケモンと共に同シリーズのファンである後輩に勧められて、まずスーパーファミコンの『MOTHER2』をプレイした(発売元が同じだけで、直接的な関係があるわけではないことは後に知ったのだが)。

 文学的な語り口であったり、あるいはキャラのパラメータ(戦闘での活躍)で性格を表現する技法など、『ドラゴンクエスト』が切り開いた和製RPGをさらに尖らせた作風に興味を持ち、後に自分で前作を購入、プレイに至る。

 本作をプレイした第一印象は、まず「仲間が弱い」ことである。特に初見だと道に迷うので、特にマジカントでレベルが過剰に上ってしまいやすい。そのため、主人公のレベルがかなり高くなった状態でレベル1の仲間が加わる。「弱いけどそのうち強くなるのだろう」と思いながらプレイしたが、結局最後まで弱いままだった。

 二回目のプレイでは意識して戦闘回数を抑えて仲間を迎えに行ったのだが、それでも弱い、というか主人公が強すぎである。物理も、回復を中心とした魔法(PSI)も使えて素早さも高く、欠点が無い。一応「排気ガスを食らうと喘息で行動不能になる」という弱点はあるが、排ガス攻撃を使う敵はごく限られているし先に殴って倒せる。

 2人の仲間(アナとロイド)の弱さは、3人目であるテディとの比較でも際立つ。主人公たちよりずっと年上で、そのいかつい外見を裏切らない強さで敵をなぎ倒してくれる。しかし終盤では離脱して、再び「弱い」ロイドが再加入するわけである。なまじ『MOTHER2』において似たようなポジションであるジェフの強さ(専用アイテムがやたら強い)を知ってしまっているだけに、この弱さには本当にうんざりした。

 しかし、このあたりで気づいたのだ。これはバランス調整ではなく、敢えてプレイヤーに「弱い」仲間を守らせるという体験をさせているのだと。実際、終盤の戦闘は命がけで、経験値稼ぎもままならず、油断するとあっという間に全滅するので「逃げる(次元スリップ)」のが基本になる。主人公の強さも、ここまでくれば大して役に立たなくなってしまう。

 そこに来て、ラスボス戦である。今さらこんな記事を読む人にネタバレの配慮は不要だと思うのではっきり書くが、ダメージでは決して倒せないボスに効くのは、誰でも使える特殊コマンドの「歌う」のみ。最後は力ではなく心で勝つというわけだ。そこに至るまでに「力」の弱さを実感させられていたので、非常に説得力があった。

 振り返って、『2』だと終盤は敵も強くなるが味方もそれ以上に強くなり、パワープレイで敵をなぎ倒しながらレベルががんがん上っていったので、印象的な最終戦もどこか冷めた雰囲気があった。ああ、そういう演出なのねと。しかし本作では「雑魚敵にすら苦戦しまくる」というプレイヤーの体験が、最終戦において大きな意味を持つ。

 一般に評価されるのは『2』のスタイルだとは思う。ゲームのストーリーと、プレイヤーの体験(戦闘ゲームバランス)というのは切り離して考える人が多い。「敵を倒して強くなる」というサイクルが絶妙な配分で続くと「ゲームバランスが良い」と評価される。本作の終盤は、意図的にゲームバランスを崩すことで成立しているので、それを調整不足だと感じる人も多いだろう。

 しかし私は思うのである。主人公に自己投影しながらプレイをしているからには、主人公が辛い場面ではプレイヤーもまた辛い体験をさせてこそ、より没入感が高まるのではないかと。RPGにおける理想のゲームバランスについて、改めて考えてみるきっかけになった作品である。
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