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本編
今が旬?!卵タルタルと南蛮風チキン
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2024年3月18日(月)
「へえ、卵って春が旬なのかぁ」
後輩がお土産に持ってきてくれた産みたての卵の説明を聞いて、思わず声が漏れた。一年中出回る鶏卵に旬があるだなんて、考えもしなかった。
「冬の間に栄養を蓄えますからね。家禽化が進む以前だと、春にしか卵を産まなかったという話ですよ」
いつもの「家庭菜園をやってる友達」からのおすそわけらしい。といっても彼女自身が育てているわけではなく、親戚が養鶏をやっているとのことだが。
「ねえ先輩、さっそくこれでパスタ作ってくれますよね?」
「どうしようか。とりあえず……そうだ、今日は鶏肉を使うつもりだったから合わせてみるか」
「玉ねぎもありますね。親子丼風ですか?」
「うーん、さすがにパスタで親子丼はちょっと未研究だな。よし、決めた。タルタルチキン南蛮だ!」
さっそく支度をする。パスタを茹でる鍋と、フライパンだ。
*
「パスタのお湯を沸かすのと同時進行なんですね」
「ああ、それくらいがちょうどいいと思うからな」
鶏むね肉は半分に切ったものを、1人1枚として2枚。皮目にフォークを刺して穴を開けていく。
「まずは油を引いたフライパンで皮目から焼いていく」
「下味とかはいいんですね」
「好みで胡椒や酒に浸けておいてもいいけどな。今は早く食べたい」
今日は少し遅めの昼食になってしまった。腹が減っては作業もできない。
「少し火を弱めて、片面3分くらいが目安だな。揚げずに焼くチキン南蛮だ」
「チキン南蛮って、揚げた鶏肉に甘酢ダレとタルタルがかかってるやつですよね」
今では有名なおかずになったが、両親が若い頃は知る人ぞ知る宮崎県のご当地グルメで、旅行に行った時に初めて食べるまで聞いたこともなかったという。
「今回は衣を付けない。揚げ物というより照り焼きに近いかな」
「鶏の油と混ざって香ばしいですね。タレは甘酢でしたっけ」
「だな、醤油・みりん・酢が1:2:2ってとこか」
2人分で醤油を大さじ1、みりんを大さじ2、酢を大さじ2ずつ混ぜて、少々の味の素を振る。
「そろそろ焼きめが付いたか」
「ですね。裏返して、蓋をして蒸し焼きにしときましょうかね」
「だな。今のうちにタルタルを作るか」
彼女の持ってきた卵を2つ手に取る。
「あれ、今から茹でるんですか?」
「いや、茹でなくても大丈夫だ」
耐熱ボウルにそれらを割り入れる。新鮮な卵らしく、つややかな黄身がこんもりと主張する。
「あれ、割っちゃうんですか?」
「ああ、これを電子レンジで加熱するんだ。1分半くらいかな。一応ラップはしておくか」
「なるほど、茹でる代わりにレンチンしたのをそのまま使うんですね。もっとかき混ぜなくていいんですか?」
「ああ、空気が入るからな。それに、ゆで卵っぽくするなら黄身と白身は分かれていたほうがいい」
あくまでも、破裂を防ぐために黄身を崩しただけだ。
「ここにマヨネーズと刻んだ玉ねぎ、おろしにんにくにレモン汁を少し加えれば簡易タルタルソースだ」
具として使うために半分に切った玉ねぎの一部を切り分け、みじん切りにしていく。
「ちょっとお味見……うん、ちゃんとタルタルソースですね!」
「覚えておくと便利だぞ。お惣菜のフライとかが簡単にグレードアップするからな」
これを知ってから、マヨネーズを常備するようになった気がする。卵をまるまる1個使うのでおかずとしての満足感も上がるのだ。
*
「さてと、そろそろ茹で上がりますね。お肉もいい感じです」
「それじゃ、フライパンの油を取り分けておくか」
フライパンを傾け、残った油脂を耐熱容器に入れる。
「これも使うんですか?」
「ああ、今は使わないけど、この次に炒め物をするときとかにな」
鶏の油は中華では鶏油と言い、香りのある油として珍重される。捨てるのはもったいない。
「余分な油を落としたところで、玉ねぎとタレとパスタを入れて、炒め合わせていく。……ちょっとフライパン任せた」
「はーい」
冷蔵庫からサニーレタスを取り出し、ざっと洗って皿に乗せる。さらにトマトもくし切りにして盛り付ける。
「OK、ここに盛り付けちゃってくれ」
「いいですね、彩りも良くて」
炒めたパスタを均等に盛り、仕上げに大きいままの鶏肉を乗せる。
「最後にタルタルソースをかけて、っと」
「チキン南蛮風照り焼きパスタの完成、ですね!」
*
「今回のパスタは、なんというかチキン南蛮弁当をイメージしたんだ」
箸とフォークを使って器用に鶏肉を分けている後輩に話しかける。食器のナイフくらい用意しておけばよかったと思いながら。
「あー、お弁当だと揚げ物とかハンバーグの下にスパゲッティが敷いてあったりしますよね」
「そうそう、それを全体的に豪華にしてみた感じなんだよな」
つまりは、おかずとサラダである。ライスの代わりにパスタを増量したというわけだ。
「だからパスタの味付けはあっさり目で、タルタルで食べるチキンが主役という感じなんだ」
「確かに、パスタ部分だけだと少し物足りない感じですけど全部合わせるといいですね」
本当は鶏肉に下味を付けておいたほうがよかったと思うのだが、タルタルでごまかせているといったところだ。
「パスタはあくまで付け合わせ程度にして、これをおかずにしてもいいだろうな」
「例えば、チキンライスやサラダとワンプレートにしてみたりするのもおしゃれですねぇ」
「だな!」
とはいえ、そんな皿はこの部屋にはないのだが。今日もいつもの深皿である。
「ねえ先輩、引っ越したら食器とか買いに行きましょうよ。お皿もそうですけど、これ食べててナイフが欲しくなりましたし」
「俺も、同じこと思ってた」
「ふふ、なんだか嬉しいですね」
タルタルソースがこぼれた口元に春の日差しが降り注ぐ。もうすぐ、俺たちの新生活が始まろうとしている。
「へえ、卵って春が旬なのかぁ」
後輩がお土産に持ってきてくれた産みたての卵の説明を聞いて、思わず声が漏れた。一年中出回る鶏卵に旬があるだなんて、考えもしなかった。
「冬の間に栄養を蓄えますからね。家禽化が進む以前だと、春にしか卵を産まなかったという話ですよ」
いつもの「家庭菜園をやってる友達」からのおすそわけらしい。といっても彼女自身が育てているわけではなく、親戚が養鶏をやっているとのことだが。
「ねえ先輩、さっそくこれでパスタ作ってくれますよね?」
「どうしようか。とりあえず……そうだ、今日は鶏肉を使うつもりだったから合わせてみるか」
「玉ねぎもありますね。親子丼風ですか?」
「うーん、さすがにパスタで親子丼はちょっと未研究だな。よし、決めた。タルタルチキン南蛮だ!」
さっそく支度をする。パスタを茹でる鍋と、フライパンだ。
*
「パスタのお湯を沸かすのと同時進行なんですね」
「ああ、それくらいがちょうどいいと思うからな」
鶏むね肉は半分に切ったものを、1人1枚として2枚。皮目にフォークを刺して穴を開けていく。
「まずは油を引いたフライパンで皮目から焼いていく」
「下味とかはいいんですね」
「好みで胡椒や酒に浸けておいてもいいけどな。今は早く食べたい」
今日は少し遅めの昼食になってしまった。腹が減っては作業もできない。
「少し火を弱めて、片面3分くらいが目安だな。揚げずに焼くチキン南蛮だ」
「チキン南蛮って、揚げた鶏肉に甘酢ダレとタルタルがかかってるやつですよね」
今では有名なおかずになったが、両親が若い頃は知る人ぞ知る宮崎県のご当地グルメで、旅行に行った時に初めて食べるまで聞いたこともなかったという。
「今回は衣を付けない。揚げ物というより照り焼きに近いかな」
「鶏の油と混ざって香ばしいですね。タレは甘酢でしたっけ」
「だな、醤油・みりん・酢が1:2:2ってとこか」
2人分で醤油を大さじ1、みりんを大さじ2、酢を大さじ2ずつ混ぜて、少々の味の素を振る。
「そろそろ焼きめが付いたか」
「ですね。裏返して、蓋をして蒸し焼きにしときましょうかね」
「だな。今のうちにタルタルを作るか」
彼女の持ってきた卵を2つ手に取る。
「あれ、今から茹でるんですか?」
「いや、茹でなくても大丈夫だ」
耐熱ボウルにそれらを割り入れる。新鮮な卵らしく、つややかな黄身がこんもりと主張する。
「あれ、割っちゃうんですか?」
「ああ、これを電子レンジで加熱するんだ。1分半くらいかな。一応ラップはしておくか」
「なるほど、茹でる代わりにレンチンしたのをそのまま使うんですね。もっとかき混ぜなくていいんですか?」
「ああ、空気が入るからな。それに、ゆで卵っぽくするなら黄身と白身は分かれていたほうがいい」
あくまでも、破裂を防ぐために黄身を崩しただけだ。
「ここにマヨネーズと刻んだ玉ねぎ、おろしにんにくにレモン汁を少し加えれば簡易タルタルソースだ」
具として使うために半分に切った玉ねぎの一部を切り分け、みじん切りにしていく。
「ちょっとお味見……うん、ちゃんとタルタルソースですね!」
「覚えておくと便利だぞ。お惣菜のフライとかが簡単にグレードアップするからな」
これを知ってから、マヨネーズを常備するようになった気がする。卵をまるまる1個使うのでおかずとしての満足感も上がるのだ。
*
「さてと、そろそろ茹で上がりますね。お肉もいい感じです」
「それじゃ、フライパンの油を取り分けておくか」
フライパンを傾け、残った油脂を耐熱容器に入れる。
「これも使うんですか?」
「ああ、今は使わないけど、この次に炒め物をするときとかにな」
鶏の油は中華では鶏油と言い、香りのある油として珍重される。捨てるのはもったいない。
「余分な油を落としたところで、玉ねぎとタレとパスタを入れて、炒め合わせていく。……ちょっとフライパン任せた」
「はーい」
冷蔵庫からサニーレタスを取り出し、ざっと洗って皿に乗せる。さらにトマトもくし切りにして盛り付ける。
「OK、ここに盛り付けちゃってくれ」
「いいですね、彩りも良くて」
炒めたパスタを均等に盛り、仕上げに大きいままの鶏肉を乗せる。
「最後にタルタルソースをかけて、っと」
「チキン南蛮風照り焼きパスタの完成、ですね!」
*
「今回のパスタは、なんというかチキン南蛮弁当をイメージしたんだ」
箸とフォークを使って器用に鶏肉を分けている後輩に話しかける。食器のナイフくらい用意しておけばよかったと思いながら。
「あー、お弁当だと揚げ物とかハンバーグの下にスパゲッティが敷いてあったりしますよね」
「そうそう、それを全体的に豪華にしてみた感じなんだよな」
つまりは、おかずとサラダである。ライスの代わりにパスタを増量したというわけだ。
「だからパスタの味付けはあっさり目で、タルタルで食べるチキンが主役という感じなんだ」
「確かに、パスタ部分だけだと少し物足りない感じですけど全部合わせるといいですね」
本当は鶏肉に下味を付けておいたほうがよかったと思うのだが、タルタルでごまかせているといったところだ。
「パスタはあくまで付け合わせ程度にして、これをおかずにしてもいいだろうな」
「例えば、チキンライスやサラダとワンプレートにしてみたりするのもおしゃれですねぇ」
「だな!」
とはいえ、そんな皿はこの部屋にはないのだが。今日もいつもの深皿である。
「ねえ先輩、引っ越したら食器とか買いに行きましょうよ。お皿もそうですけど、これ食べててナイフが欲しくなりましたし」
「俺も、同じこと思ってた」
「ふふ、なんだか嬉しいですね」
タルタルソースがこぼれた口元に春の日差しが降り注ぐ。もうすぐ、俺たちの新生活が始まろうとしている。
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