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本編

肉感たっぷりミートソース

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「おはようございます!今日もかわいい後輩ちゃんが遊びに来ましたよ!」
「おお、よく来たな」
調子に乗ったあいさつを敢えてスルーして彼女を迎える。

「ねえ先輩、この前うちでミートソース食べたんですよ、レトルトのやつですけどね」
「どうだ、美味かったか?」
「まあ味はそこそこですけど、名前に偽りありですね。全然お肉が入ってないんですよ」

コスト面や構造上の問題で、レトルトのミートソースにはほとんど具が入っていないことが多い。ミートソースどころかほとんどトマトソースである。

「わかる。俺にも経験あるぞ。だからこそ俺は自分で作るようになったんだからな」
多少の手間やカネがかかっても、ミートソースはレトルトより手作りが絶対に美味い。

「ねえ先輩、聞いたら食べたくなっちゃったんですけど、作れますか?」
「よし、材料もあるからできるぞ。さっそく作ろう」
「やったぁ!」

*

「まずはいつものように茹でるところからだな。ミートソースは太めが合うから、この前もらったフェットチーネを使おう」
「あ、結構食べてくれてるんですね」
「ああ、どんな食べ方をしても美味いからな」
彼女がくれたフェットチーネはたっぷり2キロも入っており、食べごたえがある。

「さて、ミートソースの材料だが、例によって俺のレシピだからかなり簡略化しているぞ」
そう言って材料を並べる。具は玉ねぎ1個と豚ひき肉200グラム。調味料はケチャップとチューブのにんにく、みりん、それに塩とコショウ少々、隠し味にカレー粉。
「結構肉使うんですね」
「まあな。きりがいいから、ちょっと多めに作り置こうと思ってる」

まずは玉ねぎをみじん切りにする。上下を落として縦半分に割って皮を剥き、縦横の2方向に千切りする。
「あ、包丁は2方向だけでいいんですね」
「粗みじん切りだからな。例えばハンバーグに混ぜるならもっと細かくする必要があるが、ミートソースならこのくらいのほうが食べごたえがある。ま、好みにもよるけどな」

みじん切りした玉ねぎを耐熱皿に入れ、ラップをかけずに電子レンジにかける。600ワットで3分。
「ラップはしないんですね」
「水分を飛ばすのが目的だからな。玉ねぎはそのほうが早く炒まる。逆に、人参やじゃがいもならラップをしたほうがいい」

レンジにかけながら鍋の様子を見る。そろそろ沸騰しそうなので、パスタを取り分けておく。
「それじゃ、パスタの方頼んだぞ」
「はーい」
いつの間にか、後輩は茹で係になった。具やソースを準備しながら茹でるのは地味に面倒なので、そこだけでも手伝ってくれると助かる。

*

フライパンにオリーブオイルを引き、レンチンした玉ねぎを入れる。そこに加えるのは小さじ半分ほどの塩。下味をつけると同時に浸透圧によって水分を抜き、さらに火が通りやすくなる。

「先輩、飴色になるまで炒めるんですか?」
彼女はパスタの鍋をかき混ぜながら、こちらを見て聞いてくる。

「いや、好みにもよるけど、今回はあくまでソースの具にするわけだからそこまでは炒めないな。でも飴色にする場合でもレンチンと塩は効果的だぞ。……さて、軽く色がついてきたら頃合いだな」

パックからひき肉をフライパンに空け、同時にコショウを少々、チューブにんにくを大さじ半分ほど、ほぐしながら炒めていく。

「先輩、ペッパーミルやらせてください!」
「なんだよ、野球見てやりたくなったのか?」
「えへへ、お察しのとおりです!」

彼女はペッパーミルを受け取ると、フライパンの上で楽しそうに挽いた。この仕草は、先日の野球の世界大会で優勝した日本チームに流行ったパフォーマンスである(こう書いておかないと後になって見返した時に混乱するだろう)。

*

「そろそろ火が通ってきたな」
ケチャップを大さじ4杯、みりんを大さじ2杯加え、仕上げにカレー粉を小さじ1杯加える。
「ミートソースにカレー粉入れるんですか?」
「ああ。ただしカレーの味にするわけじゃない。臭み消しのスパイスみたいなもんだから、ほんの少しだけな」

カレー粉には様々なスパイスが含まれている。料理のレシピに手元にないスパイスが出てきたら、とりあえずカレー粉を少し入れてみるだけでも代用になったりする。だから俺は他はなくてもカレー粉だけは切らさないようにしている。

「あとは煮詰めていくだけだ。パスタもそろそろか?」
「そろそろ時間どおりですが、あと2分くらい茹でたほうがいいやつですよねこれ」
海外産のパスタは時間通りだと火が通らないことが多い。実際に茹でて加減を試してみるのが重要である。

*

「茹で上がったな。皿に盛り付けるぞ」
「先輩、たくさん作ったんだから多めによそってくださいね」
「わかったわかった」
この分量だと、2人で食べるには多めなくらいである。

「……なんというか、肉肉しいですね。ソースというより肉料理って感じ」
「だろ。ミートソースはこのくらいの質感があったほうがいい。レトルトのシャバシャバソースなんてもう二度と食えないぞ」
パスタの上にミートソースが、山のようにこんもりと盛り上がっている。いや、ソースとは名ばかりで「炒めたひき肉」そのものかも知れない。

さっそくフォークで崩しながら、フェットチーネによく絡めて口に運ぶ。
「なんだか優しい味ですね。みりんの甘味が効いてるんですねえ」
「だろ?本場イタリアのボロネーゼよりも、ケチャップとみりんを活かした日本式の味付けのほうが手軽に作れるし、日本人には合うと思う」

トマト缶と赤ワインで煮込む本格的なボロネーゼも悪くないが、休日に気楽に食べるのならケチャップ味だ。

「もちろん、タバスコや粉チーズとの相性も抜群だぞ。たっぷりかけてくれ」
「タバスコ、辛さだけじゃなくてこの酸味がいいんですよねー。私は追いペッパーもしようかな」

こうして、俺たちは思い思いに肉の山を完食した。

**

「ごちそうさまでした!ミートソース、まだ残ってますけど夜食べるんですか?」
「ああ。だがそのままってわけじゃないぞ」

俺はフライパンに火を入れ、残った1人分弱のミートソースに大さじ1杯のカレー粉を加え、煮立たせる。
「こうすればキーマカレーに早変わりだ。今からカレー粉を馴染ませておけば夜にはちょうど食べ頃になる」
「あー!いいなー!私も食べたーい!」

あまりにも物欲しそうな顔をする彼女に根負けして、俺はタッパーに詰めてやることにした。最近暖かくなってきたので、念のために保冷剤も入れてやる。一旦冷やすことで味が染みる効果もあるだろうと期待して。

「なんかすいませんね、先輩」
「ま、いつでも作れるからな。お返しには期待してるぞ」
「えー、それ自分で言っちゃうんですか?まあ私もそのつもりですけどね。それじゃ先輩、また大学で!」
「ああ、気をつけて帰れよ」

*

彼女を見送って、フライパンを見る。まだカレー味のミートソースが少々こびりついている。ここに冷や飯を突っ込んでカレーチャーハンにするのも悪くないなと思うのであった。
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