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本編
聖剣
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「知らせは聞いておるぞ、トムよ。飛竜の討伐、見事であったな」
開口一番、ゴルド卿は俺をねぎらってくれた。
「いえ、たまたま巡り合わせが良かっただけです。それに、エルが来てくれなければきっと今頃は……」
「神官を極める道は諦めたとしても、今のお前は立派な戦士だ。恥じることはない。それに治療術は健在という話ではないか。お前のお陰で一人の犠牲者も出なかったと聞くぞ」
「お褒めいただきありがとうございます」
俺にとって誇らしいのは、飛竜討伐よりもむしろ誰も死なせなかったことである。俺自身は戦士になったつもりでも、未だに神官としての心があるのだろう。改めて実感するのは妙に嬉しかった。
「彼の功績については後でゆっくり語るとして、今は本題に入りましょう。まずは私たちの新しい仲間、ライラを紹介するわ」
「はじめまして。アランに、ゴルド……卿。新大陸から来たライラです」
彼女はそう言うと、フードを脱いで狼の耳を見せた。
「……!人狼族とな??」
ゴルド卿は驚いた。長年世界を見てきたというが、人狼族を見たという話は聞いたことがない。それが目の前に現れ、なおかつ会話で意思疎通ができるのだ。
「はい。我々の教えで神狼族として伝えられる種族の末裔、すなわち豊穣神の眷属であると見ています」
エルがゆっくりと説明する。
「つい先日、学院の古文書を当たって確信したわ。『聖剣の勇者』と『神狼の巫女』は、本来2つで1つの存在。私たちが『禁断の地』で足止めされたのも、第2の鍵である『神狼の巫女』がいなかったから。そう私は考えているわ」
「ふむ。話が少々飛躍しているように思えるが、その2つにはどのような関係があるのかね?」
エレナの説明に対してゴルド卿が質問をする。
「説明するよりも実例を見せるのが早いわね。トム、剣を二人に見せて」
「ああ」
俺は腰に下げていた鞘をテーブルの上に乗せ、中の剣を抜いた。
「これは……!」
声を出して驚いたのはアランだった。
「アラン、『聖剣』を見せてくれるかしら」
「は、はい……」
彼も慌てて腰の剣を抜き、テーブルの上に並べる。白い峰に青い刃を持つアランの聖剣と、黒い峰に赤い刃を持つ俺の剣。色こそ対照的ではあるが、瓜二つの見た目である。
「見れば見るほどそっくりですね。この剣はどこから?」
「元は中央都市の工房で作られた量産品よ」
改めて、ゴルド卿とアランに対してこの剣の由来を説明した。
*
「ふむ……。元はただの鋼の剣だったものが、飛竜の心臓の中で鍛えられて変質した、というわけか」
「『神狼の巫女』というのは、本来『聖剣の勇者』を導く存在。その聖剣が手元にないのであれば、自らの力で運命を引き寄せて生み出すのではないか。というのが私の仮説ね。そして、その逆も然り」
そこまで言うと、エレナは部屋の入口にいたアランの愛犬、アルフに目をやった。
「真の神狼であるライラが第2の聖剣を生み出し、トムは第2の勇者になった。そして真の聖剣を持つ真の勇者アランもまた、第2の神狼を生み出した。それがアルフね」
「ちょっと待ってくださいよ、うちのアルフが伝説の神狼族ですって?」
驚くアランに向かって、エレンが説明する。
「アルフ自身はただのお利口なワンちゃんでしょう。それをあなたが変質させたのよ。トムの剣が元は単なる鋼の剣だったようにね。例えば、怪我をして血が流れたところを舐めてもらったことはないかしら?」
「……そうだ、初めて毒蛇に噛まれた時、最初にこいつが舐めてくれたんだ。結局治らなかった上にこいつも苦しみだして、それをトムさんの解毒術で助けてもらって……」
「トムの剣が覚醒したのも、飛竜だけでなくライラの血を浴びたからだと聞いているわ。ここまで符合しているなんてね」
そこまで聞くと、ライラは無言で立ち上がり、机の下に隠れて狼に変身した。その姿は大きさも形もアルフと瓜二つ。純白のアルフに対して灰褐色のライラは毛色こそ対照的だが、まるで同じ胎内から産まれた姉妹のように見えた。
「2つの剣と、彼女たちの類似性。これでわかっていただけたかしら?私の仮説には飛躍はあるかも知れないけれど、いずれにしても『聖剣』と『神狼』には密接な関わりがあるはずよ」
一同は黙ってうなずく。
開口一番、ゴルド卿は俺をねぎらってくれた。
「いえ、たまたま巡り合わせが良かっただけです。それに、エルが来てくれなければきっと今頃は……」
「神官を極める道は諦めたとしても、今のお前は立派な戦士だ。恥じることはない。それに治療術は健在という話ではないか。お前のお陰で一人の犠牲者も出なかったと聞くぞ」
「お褒めいただきありがとうございます」
俺にとって誇らしいのは、飛竜討伐よりもむしろ誰も死なせなかったことである。俺自身は戦士になったつもりでも、未だに神官としての心があるのだろう。改めて実感するのは妙に嬉しかった。
「彼の功績については後でゆっくり語るとして、今は本題に入りましょう。まずは私たちの新しい仲間、ライラを紹介するわ」
「はじめまして。アランに、ゴルド……卿。新大陸から来たライラです」
彼女はそう言うと、フードを脱いで狼の耳を見せた。
「……!人狼族とな??」
ゴルド卿は驚いた。長年世界を見てきたというが、人狼族を見たという話は聞いたことがない。それが目の前に現れ、なおかつ会話で意思疎通ができるのだ。
「はい。我々の教えで神狼族として伝えられる種族の末裔、すなわち豊穣神の眷属であると見ています」
エルがゆっくりと説明する。
「つい先日、学院の古文書を当たって確信したわ。『聖剣の勇者』と『神狼の巫女』は、本来2つで1つの存在。私たちが『禁断の地』で足止めされたのも、第2の鍵である『神狼の巫女』がいなかったから。そう私は考えているわ」
「ふむ。話が少々飛躍しているように思えるが、その2つにはどのような関係があるのかね?」
エレナの説明に対してゴルド卿が質問をする。
「説明するよりも実例を見せるのが早いわね。トム、剣を二人に見せて」
「ああ」
俺は腰に下げていた鞘をテーブルの上に乗せ、中の剣を抜いた。
「これは……!」
声を出して驚いたのはアランだった。
「アラン、『聖剣』を見せてくれるかしら」
「は、はい……」
彼も慌てて腰の剣を抜き、テーブルの上に並べる。白い峰に青い刃を持つアランの聖剣と、黒い峰に赤い刃を持つ俺の剣。色こそ対照的ではあるが、瓜二つの見た目である。
「見れば見るほどそっくりですね。この剣はどこから?」
「元は中央都市の工房で作られた量産品よ」
改めて、ゴルド卿とアランに対してこの剣の由来を説明した。
*
「ふむ……。元はただの鋼の剣だったものが、飛竜の心臓の中で鍛えられて変質した、というわけか」
「『神狼の巫女』というのは、本来『聖剣の勇者』を導く存在。その聖剣が手元にないのであれば、自らの力で運命を引き寄せて生み出すのではないか。というのが私の仮説ね。そして、その逆も然り」
そこまで言うと、エレナは部屋の入口にいたアランの愛犬、アルフに目をやった。
「真の神狼であるライラが第2の聖剣を生み出し、トムは第2の勇者になった。そして真の聖剣を持つ真の勇者アランもまた、第2の神狼を生み出した。それがアルフね」
「ちょっと待ってくださいよ、うちのアルフが伝説の神狼族ですって?」
驚くアランに向かって、エレンが説明する。
「アルフ自身はただのお利口なワンちゃんでしょう。それをあなたが変質させたのよ。トムの剣が元は単なる鋼の剣だったようにね。例えば、怪我をして血が流れたところを舐めてもらったことはないかしら?」
「……そうだ、初めて毒蛇に噛まれた時、最初にこいつが舐めてくれたんだ。結局治らなかった上にこいつも苦しみだして、それをトムさんの解毒術で助けてもらって……」
「トムの剣が覚醒したのも、飛竜だけでなくライラの血を浴びたからだと聞いているわ。ここまで符合しているなんてね」
そこまで聞くと、ライラは無言で立ち上がり、机の下に隠れて狼に変身した。その姿は大きさも形もアルフと瓜二つ。純白のアルフに対して灰褐色のライラは毛色こそ対照的だが、まるで同じ胎内から産まれた姉妹のように見えた。
「2つの剣と、彼女たちの類似性。これでわかっていただけたかしら?私の仮説には飛躍はあるかも知れないけれど、いずれにしても『聖剣』と『神狼』には密接な関わりがあるはずよ」
一同は黙ってうなずく。
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「《獣使い》と呼ばれる俺は今日も相棒の狼っ娘とともに冒険と夜の戦いに精を出す」(注:R18)の前日譚に相当する物語です。
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