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本編
怪鳥
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「新米どもから話は聞いたか?東の森に怪鳥が出たという話だ」
俺たちは改めてギルドマスターから説明を受けた。
怪鳥とは『異変』以来、人々の前に姿を現すようになった魔物の一種である。
文字通りに鳥のような化け物だが、牙や鱗といった鳥類にはありえない身体的特徴も持つ。
そもそも翼を始めとする骨格が大きく異なるので、分類上は鳥ではないという意見が大勢を占める。
また鱗などの特徴は竜を連想させ、俗に「竜鳥」などと呼ぶ者もいるのだが、やはり骨格は大きく異なっている。
過去の伝承にも似たような生物の記録は残されておらず、結局のところ怪しい鳥のような化け物としか呼びようがないので、ギルドにおいても「怪鳥」の呼び名が定着してしまった。
「お前ら、よく引き返して来られたな。お前らみたいな新米が舐めてかかって食い殺されることはよくあるんだぞ」
怪鳥は、直立したときの背丈は人間とさほど変わらない。そのため、素人でも武器さえあれば何とかなると錯覚してしまいやすい。
実際は空中からの素早い動きは予測が難しく、鱗で覆われた皮膚は並の一撃を軽く弾き返す。駆け出しの冒険者ではまともに勝負できる相手ではない。
弱い者を執拗に狙う一方で、敵わない相手とみるや即座に逃げ出す狡猾さも持ち合わせた憎らしい魔物である。
「ギルドとしては人里に降りてくる前に早急に討伐したいんだが、誰か名乗りを上げる奴はいないか?」
マスターは酒場の中にいる面々を見ながら行った。
熟練の冒険者は朝のうちに出払ってしまったようで、駆け出しに毛が生えたような者しか残っていないようだ。
「誰も行かねえって言うんなら俺が手柄をもらっちまうぜ?」
最初に声を上げたのはジャックだった。
「一人で片付けてもいいんだが、せっかくだから新人に色々教えてやらねえとな。……おい、オリバーとか言ったな?」
「あ、ああ」
突然名前を呼ばれた彼は、少し焦りながらも堂々と返事をした。
「怪鳥に出くわした場所に俺を案内しろ。隣りにいる斥候の姉ちゃんと魔術師の坊っちゃんも一緒にだ」
隣りにいた二人にも声をかける。息の合った仲間であることを見抜いたのだろう。
「わかったわ、私はメリナよ」
「ポールと申します。よろしくお願いします」
マスターの話に恐れをなしたかと思いきや、同行を即座に了承したのは少し意外だった。
「トムも来てくれるか。回復術はまだ使えるよな?」
「ああ、数回程度なら十分だ」
当然、俺も付いていくつもりでいたので、マスターに預けたメイスと盾を受け取っておいた。
反転回復の射撃訓練にだいぶ法力を費やしてしまったが、非常時の備えとして残しておいたのが役に立ちそうだ。
「それにライラだな。トムの話を聞いてお前さんに興味が出てきた。どんな戦いをするのか見せてくれ」
「うん!トムと一緒ならどこへでも行くよ!」
彼女は元気に返事をした。
「さてと、これで6人だな。トムとオリバー、それにライラが前を行け」
俺とオリバーが戦士として前衛を固める。徒手空拳のライラも少々毛色は違うが役割としては戦士であると見なしたのだろう。
経験則からパーティは6人構成が基本で、そのうちの3人が前衛を務めるのもまた基本とされている。
「斥候役は俺とメリナだな。魔術師のポールが一番不安だから守ってやらねえとな」
「恐縮です……」
「気にするな、これがパーティの役割分担ってやつなんだからな。……それじゃマスター、行ってくる」
ジャックは改めて全員の役割を確認し、出発を告げた。
「おう、幸運を祈ってるぜ!」
そして俺たちは、マスターに見送られてギルド宿を後にした。
**
「ポールと言ったな。朝はオリバーたちと一緒に文字を習ってたのか?」
道すがら、俺は気になっていたことを訪ねた。
「はい。魔術師といえば学院出身だと思われるんですが、私の魔術は自己流というか、生まれつきのもののようでして」
彼の言う通り、魔術師の多くは学院の出身なので、彼のように読み書きが出来ない者は珍しいのである。
魔術や法術は、理論体系の学習や訓練によって習得するのが一般的だが、稀に誰から教えられたわけでもないのに使える者が現れる。
「ギルドに入ったのは自分の力を活かせると思ったのと、同じように魔法を使える方々に会えることを期待したんです」
魔法という超自然的な力を持って生まれた子供は、狭い社会においてはしばしば忌み嫌われる。
彼の穏やかすぎる物腰はその生い立ちから、つまり少しでも人に嫌われまいとする思いから来ているものではないかと俺は想像した。
もちろん勝手な推測であり、本人に聞くつもりもないのだが、いずれにせよこのギルドで良い出会いがあることを願う。
「トムさんの話はオリバー君たちから伺いました。伝説的なパーティに所属しておられたのですよね」
所属していた、と過去形で言われたことに改めて自分の立場を実感するが、顔には出さないように心がけた。
「ああ、学園出身のすごい魔術師もいるぞ。ポールみたいな生まれつきの魔術師は珍しいから、きっと興味を持つんじゃないかな」
エレナは既知の魔術体系を一通り習得し、未知の魔術への探究に挑みつつある。
ポールのような体系から離れた魔術師のような存在は、彼女の知的好奇心の対象になるだろう。
「氷雷のエレナさんのことですね。いずれこの地に戻って来られるんですよね?ぜひお会いしたいなぁ」
彼は偉大なる先達に対して憧憬の眼差しを浮かべた。
しかし、彼女にも俺たちの知らないところで二つ名が付いていることがわかり、思わず俺は苦笑してしまった。
「期待してるところ悪いけどよ、エレナのやつにはもう男がいるって話だぜ」
「ちょ、ちょっと!そういう意味で会いたいんじゃないんですってば!」
ジャックの飛ばした軽口を受け、ポールは慌てて取り繕う。
「ま、若いうちはそういうのに憧れるもんだ。俺も師匠に恋してたっけなぁ」
「お、その話は初耳だな」
「女だてらに村の狩猟頭をやっててよ……まあ色恋話はまた後だ。森に入るぞ、静かにしろ」
**
中央都市から見て東にある森。大陸を南北に貫く川に沿って広がっている。俺がライラと出会った森のちょうど対岸に位置している。
鬱蒼とした森林は人々には気味悪がられているが、貴重な植物資源の宝庫であり、同時に魔物もよく確認されている。
それでも、怪鳥のような中型の魔物が現れることは『異変』後においてもめったに無いことであった。
「奴に出会ったのはこっちのほうよ」
身軽なライラが周囲を警戒しながら、メリナが道案内をする。斥候を目指しているだけあり、道を覚える能力に長けているようだ。
「頭上に気をつけろ。巣を作るなら木の上だからな」
作戦としては、奴を発見したら俺が最初に反転回復を撃ち込むことになっている。
弓使いを警戒する習性のため、ジャックはマントの下に弓矢を隠している。真っ先に奴を射程に捉えられるのは俺というわけだ。
そして、2発撃っても仕留められなかった場合はジャックが弓矢で攻撃、それでも倒しきれなければ(かつ、逃げるだけの力が奴に残っていなければ)白兵戦で止めを刺すという流れだ。
戦いに慣れていないポールの魔術による攻撃は味方を巻き込む不安があるので、接近戦において《硬身》で味方を支援するのに留めることになった。
*
「いたぞ」
ジャックが小声でささやく。指さした樹上には奴の影があった。パーティに緊張が走る。
「まだこちらに気づいてないな。撃てるか?」
俺は無言で、左手で見えない弓を構え、右手に法力を込めて見えない矢をつがえる。
その瞬間!奴が殺気や法力を察したのか、こちらに向かって飛びかかってきた。
奴の目には厄介な弓使いは見えていない。にわか仕込みの法術で無謀な攻撃を仕掛けようとするところを返り討ちにする算段なのだろう。
俺の放った反転回復の矢は、奴を真正面から捉えた。途端に力を失い、よろめきながら高度を落とした。
まだ息はあるようで、体勢を立て直して軟着陸を試みている。俺は容赦なく二の矢を打ち込んだ。
これによって怪鳥は完全に生命力を失い、地面にぐったりと倒れて動かなくなった。
「脈はない。完全に仕留めたようだな」
ジャックが怪鳥に触れ、死亡を確認する。新人たちが安堵の息をついた。
俺たちは改めてギルドマスターから説明を受けた。
怪鳥とは『異変』以来、人々の前に姿を現すようになった魔物の一種である。
文字通りに鳥のような化け物だが、牙や鱗といった鳥類にはありえない身体的特徴も持つ。
そもそも翼を始めとする骨格が大きく異なるので、分類上は鳥ではないという意見が大勢を占める。
また鱗などの特徴は竜を連想させ、俗に「竜鳥」などと呼ぶ者もいるのだが、やはり骨格は大きく異なっている。
過去の伝承にも似たような生物の記録は残されておらず、結局のところ怪しい鳥のような化け物としか呼びようがないので、ギルドにおいても「怪鳥」の呼び名が定着してしまった。
「お前ら、よく引き返して来られたな。お前らみたいな新米が舐めてかかって食い殺されることはよくあるんだぞ」
怪鳥は、直立したときの背丈は人間とさほど変わらない。そのため、素人でも武器さえあれば何とかなると錯覚してしまいやすい。
実際は空中からの素早い動きは予測が難しく、鱗で覆われた皮膚は並の一撃を軽く弾き返す。駆け出しの冒険者ではまともに勝負できる相手ではない。
弱い者を執拗に狙う一方で、敵わない相手とみるや即座に逃げ出す狡猾さも持ち合わせた憎らしい魔物である。
「ギルドとしては人里に降りてくる前に早急に討伐したいんだが、誰か名乗りを上げる奴はいないか?」
マスターは酒場の中にいる面々を見ながら行った。
熟練の冒険者は朝のうちに出払ってしまったようで、駆け出しに毛が生えたような者しか残っていないようだ。
「誰も行かねえって言うんなら俺が手柄をもらっちまうぜ?」
最初に声を上げたのはジャックだった。
「一人で片付けてもいいんだが、せっかくだから新人に色々教えてやらねえとな。……おい、オリバーとか言ったな?」
「あ、ああ」
突然名前を呼ばれた彼は、少し焦りながらも堂々と返事をした。
「怪鳥に出くわした場所に俺を案内しろ。隣りにいる斥候の姉ちゃんと魔術師の坊っちゃんも一緒にだ」
隣りにいた二人にも声をかける。息の合った仲間であることを見抜いたのだろう。
「わかったわ、私はメリナよ」
「ポールと申します。よろしくお願いします」
マスターの話に恐れをなしたかと思いきや、同行を即座に了承したのは少し意外だった。
「トムも来てくれるか。回復術はまだ使えるよな?」
「ああ、数回程度なら十分だ」
当然、俺も付いていくつもりでいたので、マスターに預けたメイスと盾を受け取っておいた。
反転回復の射撃訓練にだいぶ法力を費やしてしまったが、非常時の備えとして残しておいたのが役に立ちそうだ。
「それにライラだな。トムの話を聞いてお前さんに興味が出てきた。どんな戦いをするのか見せてくれ」
「うん!トムと一緒ならどこへでも行くよ!」
彼女は元気に返事をした。
「さてと、これで6人だな。トムとオリバー、それにライラが前を行け」
俺とオリバーが戦士として前衛を固める。徒手空拳のライラも少々毛色は違うが役割としては戦士であると見なしたのだろう。
経験則からパーティは6人構成が基本で、そのうちの3人が前衛を務めるのもまた基本とされている。
「斥候役は俺とメリナだな。魔術師のポールが一番不安だから守ってやらねえとな」
「恐縮です……」
「気にするな、これがパーティの役割分担ってやつなんだからな。……それじゃマスター、行ってくる」
ジャックは改めて全員の役割を確認し、出発を告げた。
「おう、幸運を祈ってるぜ!」
そして俺たちは、マスターに見送られてギルド宿を後にした。
**
「ポールと言ったな。朝はオリバーたちと一緒に文字を習ってたのか?」
道すがら、俺は気になっていたことを訪ねた。
「はい。魔術師といえば学院出身だと思われるんですが、私の魔術は自己流というか、生まれつきのもののようでして」
彼の言う通り、魔術師の多くは学院の出身なので、彼のように読み書きが出来ない者は珍しいのである。
魔術や法術は、理論体系の学習や訓練によって習得するのが一般的だが、稀に誰から教えられたわけでもないのに使える者が現れる。
「ギルドに入ったのは自分の力を活かせると思ったのと、同じように魔法を使える方々に会えることを期待したんです」
魔法という超自然的な力を持って生まれた子供は、狭い社会においてはしばしば忌み嫌われる。
彼の穏やかすぎる物腰はその生い立ちから、つまり少しでも人に嫌われまいとする思いから来ているものではないかと俺は想像した。
もちろん勝手な推測であり、本人に聞くつもりもないのだが、いずれにせよこのギルドで良い出会いがあることを願う。
「トムさんの話はオリバー君たちから伺いました。伝説的なパーティに所属しておられたのですよね」
所属していた、と過去形で言われたことに改めて自分の立場を実感するが、顔には出さないように心がけた。
「ああ、学園出身のすごい魔術師もいるぞ。ポールみたいな生まれつきの魔術師は珍しいから、きっと興味を持つんじゃないかな」
エレナは既知の魔術体系を一通り習得し、未知の魔術への探究に挑みつつある。
ポールのような体系から離れた魔術師のような存在は、彼女の知的好奇心の対象になるだろう。
「氷雷のエレナさんのことですね。いずれこの地に戻って来られるんですよね?ぜひお会いしたいなぁ」
彼は偉大なる先達に対して憧憬の眼差しを浮かべた。
しかし、彼女にも俺たちの知らないところで二つ名が付いていることがわかり、思わず俺は苦笑してしまった。
「期待してるところ悪いけどよ、エレナのやつにはもう男がいるって話だぜ」
「ちょ、ちょっと!そういう意味で会いたいんじゃないんですってば!」
ジャックの飛ばした軽口を受け、ポールは慌てて取り繕う。
「ま、若いうちはそういうのに憧れるもんだ。俺も師匠に恋してたっけなぁ」
「お、その話は初耳だな」
「女だてらに村の狩猟頭をやっててよ……まあ色恋話はまた後だ。森に入るぞ、静かにしろ」
**
中央都市から見て東にある森。大陸を南北に貫く川に沿って広がっている。俺がライラと出会った森のちょうど対岸に位置している。
鬱蒼とした森林は人々には気味悪がられているが、貴重な植物資源の宝庫であり、同時に魔物もよく確認されている。
それでも、怪鳥のような中型の魔物が現れることは『異変』後においてもめったに無いことであった。
「奴に出会ったのはこっちのほうよ」
身軽なライラが周囲を警戒しながら、メリナが道案内をする。斥候を目指しているだけあり、道を覚える能力に長けているようだ。
「頭上に気をつけろ。巣を作るなら木の上だからな」
作戦としては、奴を発見したら俺が最初に反転回復を撃ち込むことになっている。
弓使いを警戒する習性のため、ジャックはマントの下に弓矢を隠している。真っ先に奴を射程に捉えられるのは俺というわけだ。
そして、2発撃っても仕留められなかった場合はジャックが弓矢で攻撃、それでも倒しきれなければ(かつ、逃げるだけの力が奴に残っていなければ)白兵戦で止めを刺すという流れだ。
戦いに慣れていないポールの魔術による攻撃は味方を巻き込む不安があるので、接近戦において《硬身》で味方を支援するのに留めることになった。
*
「いたぞ」
ジャックが小声でささやく。指さした樹上には奴の影があった。パーティに緊張が走る。
「まだこちらに気づいてないな。撃てるか?」
俺は無言で、左手で見えない弓を構え、右手に法力を込めて見えない矢をつがえる。
その瞬間!奴が殺気や法力を察したのか、こちらに向かって飛びかかってきた。
奴の目には厄介な弓使いは見えていない。にわか仕込みの法術で無謀な攻撃を仕掛けようとするところを返り討ちにする算段なのだろう。
俺の放った反転回復の矢は、奴を真正面から捉えた。途端に力を失い、よろめきながら高度を落とした。
まだ息はあるようで、体勢を立て直して軟着陸を試みている。俺は容赦なく二の矢を打ち込んだ。
これによって怪鳥は完全に生命力を失い、地面にぐったりと倒れて動かなくなった。
「脈はない。完全に仕留めたようだな」
ジャックが怪鳥に触れ、死亡を確認する。新人たちが安堵の息をついた。
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「《獣使い》と呼ばれる俺は今日も相棒の狼っ娘とともに冒険と夜の戦いに精を出す」(注:R18)の前日譚に相当する物語です。
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