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ただの村娘だった私が勇者さまに求婚されてこれから初夜を迎えます

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ただの村娘でしかない私に世界を救った勇者さまが求婚?!優しい彼と迎える甘い初夜。

R15相当とはいえ、初夜なのでやることはやっちゃいますので苦手な方はご注意ください。

※ムーンライトノベルズにて完全版(R18)を公開しています。
※私が書いた他のファンタジー作品とは特につながりのない独立した作品です。

 ***


 これから、私は結婚式の後の初めての夜を迎えようとしています。
 私を妻に選んでくださったのは、悪しき魔竜を討ち滅ぼし、世界を救った勇者さま、です。
 はっきり言ってしまうと、今でも信じられません。

 私と勇者さま達との出会いは、今から半年ほど前のことでした。なんの変哲もないただの農村に勇者さま御一行がお越しになられたのは、単に通り道だったからという単純な理由でした。

 お泊りになる宿屋の酒場には村じゅうの人が集まっていました。みんな、勇者さまの冒険譚を聞くのが楽しみだったのです。 翌朝早くに宿を発つとのことでしたが、皆さんは夜遅くまで村の人達との話やお酒に付き合って下さいました。

 事件が起きたのは夜明けでした。突然、魔物どもが村を襲ったのです。私が起きたときにはもう村の入口のあたりで戦いが始まっていました。ちょうど、家くらいの大きさがある巨人が勇者さまと戦士さまの剣で斬り倒されていました。

「おお! 勇者様だ!」

 誰かの声でみんな歓声をあげました。お二方の鎧は朝日に照らされて輝いており、それは美しい光景でした。

 しかし、その声はすぐに悲鳴に変わります。巨大な怪物の群れは勇者さま達にだけ襲いかかるわけではありませんでした。 逃げ惑う村の人たち。転んでしまった女の子に刃が迫るその瞬間、魔物は凍りつき、次の瞬間には粉々になっていました。

「なんとか間に合ったわね」

 上の方から声がするので見上げてみると、お連れの魔法使いの方が空に浮かんでいました。空中から魔法を放ったようです。私が魔法というものを見たのはこの時が初めてでした。

 魔物たちを一通り片付けて安心したのも束の間、倒れた魔物から不気味な影のようなものが染み出してきました。影はやがて人のような形を取り、それでいながら生き物とは思えないような不気味な動きで村の中に入ろうとしています。

 私は恐怖で声も出せず、足も動かず、せめて目を閉じて恐怖をやり過ごそうとしましたが、それすらも出来ませんでした。 今度こそ死を覚悟した私でしたが、後ろから暖かい光が降り注ぎました。

「死してなお呪いに囚われた哀れな魂よ、天に還りなさい」

 優しい祈りの声を発したのは、やはり勇者さまの仲間である女性の僧侶の方でした。

「怖かったでしょう。でももう大丈夫よ」

 彼女は倒れた女の子に駆け寄り、擦りむいた膝に手を当てると、たちまち傷が塞がりました。徳を積んだ僧侶だけが可能だといわれている神の奇跡による治療。その日の私が目にしたのは、初めてのものばかりでした。

 勇者さま達はその後もしばらく村にとどまり、怪我人の治療や、壊された建物の修復に手を貸していただきました。私にも何かできることがあればと、朝起きた時に洗濯物を預かったり、働いているところに食事を届けたりと、身の回りのお世話をしたのが出会いのきっかけでした。

 *

「ありがとう、今日も来てくれたんだね」

 ある日、勇者さまがそう言って微笑んでくださいました。顔を覚えていただけたことに感激しました。その時から私の心は彼のものです。朝になると誰よりも早く会いに行きました。

「君を見ていると故郷の幼馴染を思い出すよ。いつも一緒で、僕の世話を焼いてくれた」

 そう話すあの方の目はどこか寂しそうでした。

「そのお方というのは……」
「死んだよ。僕の家族もみんな、魔物に襲われてね。あの日から決めたんだ。僕がこんな乱れた世界を直してやる、って」

 勇者さまが過去を語ったのは、これが最初で最後でした。

 来る日も来る日も、あの方は建物を修理したり、腕っぷしの強い男衆に剣術を教えたり、そうかと思えば子供たちと無邪気に遊んでいました。村の人達はみんな勇者さまが大好きになりました。

 *

「守りの結界が完成したわ。これで月が一巡りするまでは並の魔物は襲ってこないはずよ」

 魔法使いの方が村人を集めてそう説明してくれました。御一行はこのために出発を一週間も遅らせてくれていたのです。

「どうして、そこまでしてくださったのですか?」
「これ以上、帰る場所をなくすのは嫌なんだ……それじゃ、行ってくるよ」

 見送る私の手を取ってそう言って下さいました。私は、いえ村のみんなは心の底から無事を祈っていました。魔竜を討ち倒す努めを果たして、必ずここに帰ってきて欲しい、と。

 そして、その思いは見事に届いたのです。

 *

 村に帰ってきた御一行。たちまち凱旋を祝う宴が開かれました。そして宴もたけなわとなってきた頃、勇者さまは私の横に座り、手を取ってこう言ったのです。

「もし、君が嫌じゃなかったら、僕と一緒にならないか?」
「……え?」

 私は信じられず、思わず聞き返してしまいました。

「僕は君のことを妻に迎えたいんだ」
「あ、あの、勇者さま」
「うん、返事はすぐでなくていい。ゆっくり考えてみてほしい」
「いえ、その、あの、そういうことではなくて」

 勇者さまはきょとんとした顔をされています。

「その、私、何もできないただの村娘なんですけど……本当によろしいのですか?」
「君は僕のことを勇者としてだけではなく、一人の人間として見てくれた」

 聞けば、何も知らない子供たちはまだしも、大人たちは勇者さまを神さまか何かのように扱っていたようなのです。

「そんな人は今までいなかったよ。そして、これからはもっと出会うのが難しくなると思う」
「でも……勇者さまには素敵なお仲間がいるじゃないですか」

 勇者さまは4人で冒険をしてきました。そして自分以外の戦士・僧侶・魔法使いの3人は全員女性の方です。私は彼女たちの誰か一人が勇者さまの想い人であるか、野卑な考えですがもしかしたら3人ともお手付きなのかと思っていました。

 *

「あの、戦士の方とは仲がよろしかったのではないでしょうか?」

 私が最初に見た勇者さまの戦い。戦士さまと抜群の連携で巨人を斬り伏せていました。戦士さまは腰や脚が露出した大胆な鎧を身にまとい、それに負けない立派な体をお持ちです。

 村の男性陣はいつも彼女のことを見ていました。このような農村では肉感のある逞しい女性が一番モテるのです。もし結婚すれば立派な働き手となり、丈夫な子を産み育てることを期待するのでしょう。また、同じ女性でありながら果敢に戦う姿に勇気づけられたという人も多かったと思います。

「ああ、彼女は騎士の身分だ。同じ騎士である国王の直属部隊長との縁談も既にまとまっている」
「そうなのですか?」
「うん。あんな派手な鎧を着ているけれど中身は保守的でね。家の決めた結婚には従うという話だよ」

 親の決めた相手との結婚。私もそうなるはずでした。隣村に住む母方の親戚筋に当たる方に嫁ぐことになっていました。……魔物による襲撃で彼が家族もろとも亡くなるまでは。

 もし彼が生きていたら私は勇者さまの申し出を断らなければならなかったでしょう。一瞬、彼が死んだことに感謝してしまいました。罪深い私をお許しください。

「その相手の騎士なんだが、僕も会ったことがあるし、なんなら仲間に連れて行きたかったんだけど、王都の守りが最優先だと言われてね。真面目で腕も立つ男だから、彼女が嫁ぐことには何の不安もないよ」

 そう語る勇者さまの目は、かつて私の父が男友達の結婚を心から祝う時と同じ目をしていました。長く冒険を続けた相棒は、もはや男女の関係ではなく、一人の盟友なのでしょう。

 *

「それでは、僧侶の方との関係はどうだったんでしょうか? とても親密そうに見えました」
「彼女は……そうだね、僕にとっては姉のような存在かな」
「……そう、ですか」

 彼女はとても美しく、それでいて勇敢で凛々しく、そしてとても慈悲深いお方です。村の若者達は決して手の届かない彼女のことを憧れの目で見ていました。

「例えばね。戦いで傷を負ったら、場合によっては治療のために服を脱いで、恥ずかしいところを見せないといけないこともあるんだ」
「確かに、そういうこともあるでしょうね」

 私は思わず、彼の下半身に目を落としてしまいました。

「そんな時も、彼女はまったく怯んだりせずに淡々と治療を行うんだよ。神に身を捧げたというのはそういうことなんだなって」

 そう、一生を神に捧げると誓った彼女は、生涯男性とは結婚はしないのです。もっとも、何らかの理由で還俗、つまり聖職者を辞めるという例がないわけでもないのですが。

「でも、今回の冒険で世界中を巡って新しい考えも生まれたんだと思う。今後は還俗も含めて身の振り方を考えたいって言ってたけど、それでも僕と結婚することはないんじゃないかな」
「そうですか……私はお似合いだと思ってたんですけどねぇ」

 *

「最後にもうひとり、魔法使いの方とはどうだったんですか?」
「あの子はね、逆に僕の妹みたいなものかな」

 戦いのときは冷静で、時には非情なまでの力を発揮する魔法使いも、勇者さまと一緒にいるときは一人の女の子でした。彼におねだりしたり、時には体を擦り寄せて甘えたり、とても無邪気でかわいらしい子でした。これは決して男性に媚びているというわけではなく、老若男女の誰に対しても当たり前のように距離を詰められる才能を持っているようでした。

 例えば子供たちと遊ぶ場合、他の方は大人として遊んであげるという雰囲気でしたが、彼女は対等に遊びに混じり、負ければ本気で悔しがっていました。

「例えば、僕がいる前でも平気で着替えたり、お風呂にも気にせずに入ってきたりするんだよ」
「そ、それはむしろ誘っているのでは……?」

 村の共同浴場でご一緒したことがありますが、体が小さいから子供のように見えても、体つきは大人になりかけています。さすがに男の人に肌をさらすことの意味くらいはわかっていると思うのですが。

「いや、そういうつもりはないみたいだよ。本当に好きになった人がいたら自分からアプローチするくらいだし。……ここだけの話、夜中に宿を抜け出して男に会いに行ったりすることもあったんだ」
「……!」

 驚きました。あの子は私が想像していたよりも、ずっと大人だったみたいです。そういえば魔女に伝わる儀式には、男女の交歓とともに行われるものもあると聞いたことがあります。

「寒い日なんかは僕のベッドに潜り込んでくるんだけどね、一緒に寝ていても何もしてこないもの。男として見られていないんだよ」
「そうなのですか……なんだかちょっとかわいそうに思えてきました」

 年頃の女の子が無防備な姿を晒しているのに手を出せないというのは、男の人にとっては辛いのではないでしょうか。

「だから、僕から見ても妹みたいなものなんだ。最初はびっくりしたけどもう慣れちゃったよ」

 *

「……よくわかりました。つまりお仲間との恋愛はもともと考えられない関係だったわけですね。

 でも、勇者さまがお会いした方々は他にも何人もいらっしゃるでしょう?」

 世界を股にかけて冒険をするからには、各地の貴族や王族の力を借りることも多かったでしょう。美しい女性と舞踏会で踊ったりして、恋に発展することもあったのではないでしょうか。

「いや、平民出身で何の後ろ盾もない僕と親密な関係を持とうなんていう王侯貴族なんてどこにもいなかったさ」

 一息にそう言うと、彼はぶどう酒をぐいっと一口飲みました。思い出したくない嫌なことでも思い出してしまったのかも知れません。

「僕らのために船を提供したりするのも、数ある投資話のうちの一つに過ぎなかったんだ。航路さえ開拓できればそれだけでも儲けものだからね」

 そう言いながら、残っていたタンブラーの中身を一気に飲み干しました。

「まさか本当に魔竜を倒すなんて思っていなかったんだろうな」
「そんな……」
「それが、いざ本当に魔竜を討ち倒したと聞いたら手のひら返しだ」

 優しい彼が、小さな舌打ちを入れたのを私は聞き逃しませんでした。

「僕はそんな人々を信じることはできない。ずっと変わらない態度で接してくれた女性は、仲間たちの他には君くらいのものだ」

 そこまで言うと、彼は私の手を取りました。

「お願いします。僕と結婚して下さい」
「は……はい!私なんかでよろしければ、喜んで!」

 *

 あとはとんとん拍子にことが進みました。両親も、本来嫁ぐべき家がなくなった私の処遇に困り果てていたのです。故郷のない勇者さまはこの村に住むことになりました。空き家を譲り受け、二人で少しずつ直しながら住むことにしたのです。


 村の人たちもこの結婚に大賛成でした。これからは勇者さまと毎日遊べると子供たちも喜んでいます。……もちろん、遊んでばかりではいられないのですけれどね。

 そして、ささやかながら結婚式が行われ、これから私たちは初めての夜を迎えようとしています。

 ***

「私、あなたに何度も聞いちゃいましたよね。どうして私を選んでくださったのですか、って」

 あの夜、彼が私に告げたのは間違いなく本心だったのでしょう。でも、口に出した言葉だけが全てだとは思えなかったのです。一介の村娘に過ぎない私と結婚することで、厄介な政治に巻き込まれるのを避けるという意図もあったのではないか、と。

「でも、今はもうそんなこと、どうでもいいんです。あなたが私を選んでくれたこと、それが全てです」

 私はカップの蜂蜜酒――今日のために私が手ずから仕込んだもので、まだ新しく泡立っています――を飲み干し、その甘い香りに身を任せるかのように、初めて私のほうから彼に口づけをしました。

「今夜は私から言わせて下さい。私があなたを選びます。生涯で出会った男の人のなかで、あなたは私の一番です」

 そして、私は部屋着の帯に手をかけました。自分から服を脱ぐのは恥ずかしかったですが、そうすることで私の決意を見せたかったのです。

 部屋着の下は、今日のために新調した純白のシュミーズです。そして、その下には何もつけていません。魔法のランタンの青白く冷たい光に、私の体がうっすらと透けていることでしょう。

「……綺麗だ」

 彼は優しく微笑みました。ですが、その瞳の奥にある欲望の炎は私にもわかります。私は今、自分の体を使って彼の感情を操れるのです。少し背徳的な嬉しさを感じました。

 彼にかかれば、私を力任せに押し倒して欲望を解き放つことはたやすいことでしょうが、決して彼はそうしないでしょう。……そう、私が許すまでは、ずっとお預けすることができるのです。

 世の女性たちの中には、男性を手玉に取るのが楽しくてたまらないという不貞な者もいると聞きます。私には関係のない話だと思っていましたが、今の私なら彼女たちの気持ちが少しだけわかる気がします。

 ……でも、我慢できないのは私のほうだって同じです。初めて彼にお会いした日から、いつかこの日が来ることを夢に見ていました。

 彼のことを想いながら、いけない遊びに耽ってしまったことも一度や二度ではありません。きっと彼の目にも、私の瞳の奥にある欲望は見えているのでしょうね。

 ……だから、少しでもあなたの心を弄ぼうとした、このいけない私にいっぱいお仕置きをして下さい。そう思いながら、私はシュミーズをゆっくりと脱いでいきました。これで私は、左薬指に彼がはめてくれた指輪の他は、生まれたままの姿になりました。

「……驚いたな、君がこんなに積極的になってくれるなんて」

 そうです。私はもう流されるだけの女ではないのです。彼は私の覚悟を確認して安心したのか、息を荒げながら服を脱いでいきました。その体は服の上からは想像もできないほど逞しく、しかし薄明かりの元でもわかるほどに傷だらけでした。

「こういうことするのって、実は初めてだから。上手にできずに痛くしちゃったらごめんね」

 私の手を取って、優しくベッドに横たえながら彼は言いました。

「大丈夫です。女の体というのは赤ちゃんを産む痛みにも耐えられるようにできてるんですから」

 私は彼の胸にある、ひときわ大きな傷跡にそっと手をかざしながら言いました。体だけでなく、心にもたくさんの傷を負ったのでしょうね。

「それに、あなたが味わった痛みや苦しみを思えば、いくらでも我慢できます」

 魔法でも治せない傷を癒やすために私ができることがあるとしたら、すべてを差し出すことしかありません。私は彼の手を取って引き寄せ、その大きな背中に両手を回しました。

「ありがとう。でも、無理はしないでね」

 彼は私に口づけをし、まずは優しく体に触れました。
 やがて、その手付きは徐々に激しくなり……。

 そして、幸せな痛みとともに私たちは一つになりました。

 **

「おはよう。……ごめん、起こしちゃったかな?」
「ふぁ……?」

 私は、先に起きた彼が身支度する音で目を覚ましました。外はまだ薄暗く、夜明けの少し前のようです。

「早起きは癖になっていてね。君はまだ寝ていてもいいよ」

 私は寝ぼけた頭で彼のことを見ながら昨夜のことを思い出しました。あれは夢だったのでしょうか。

 いいえ。濡れたシーツが、腰や太ももの心地よい痛みが、そして私の中からこぼれだす雫が、愛の一夜のれっきとした証です。これから何度も……もしかしたら次の朝も?私はこうやって目覚めを迎えるのでしょう。

「あなた、大好きです」

 私はそれだけつぶやくと、彼の名残がある毛布にくるまり、重いまぶたを閉じました。
 そして夜が明けるまでの束の間、再び甘く幸せな夢の中へと落ちていくのでした。
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