龍魂

ぐらんじーた

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雷龍の悲劇

アンデッドとの遭遇

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人型の魔物。
元は、町の外で息絶えた人間。
魔物との戦闘で敗北し、そのまま死亡してしまった者や、遭難で誰にも知られることなく死亡してしまった者など、原因は様々である。

そのまま土に還ることなく、魔物の瘴気に当てられ続けた場合、歩く死体となって復活し、人間を襲う。
グール・ゾンビ系の魔物となって。

魔物なのだから、当然討伐対象。しかし、姿形は人間である。腐敗が進み、だいぶグロテスクだが。

今、レイズたちは、その魔物と遭遇しているところであった。
正確には、魔物の群れ。獣系や昆虫系の魔物を相手していた時、ゾンビの侵入を許してしまった。

「レイズ!!そっちに行ったぞ!!」
「ッ……!」

フラフラと身体を揺らし、近付いてくるゾンビ。
動きはノロいが、他の魔物と混戦していると、満足に回避できない。

声にならない声を上げ、腐った肉と血まみれの身体で近付いてくるのは、トラウマになりそうだ。
現に、動くことができない少年が一人。

(相手は魔物!!相手は魔物ッ……!!)

必至に言い聞かせるが、身体は動かない。
身体を支配しているのは、恐怖のみ。恐怖は震えを誘発し、上下の歯が激しくぶつかる。
「お漏らし」はしていないが、正直時間の問題だと思う。括約筋の随意支配まで意識が回らない。

今戦っている、獣系や昆虫系の魔物にはこんな感情抱かなかった。
相手は魔物。それなのに、グール・ゾンビは桁違いに怖い。

アンデッド系の魔物は、殆どが闇属性だ。
即ち、光龍使いのレイラがいれば、苦戦することはない。
だが、アンデッド系の魔物を全て彼女に押仕付ける訳にも行かないし、立ち位置や残体力の関係で自分が相手することもある。
だから、越えなければならない試練なのだが。

レイラ、バージルもそれぞれ別の魔物を相手しており、フォローが間に合わない。

リゼルに関しては、フォローする気があるのかすら謎レベル。レイラの近くで立ち回り、レイズとは距離が離れている。
龍術なら距離は重要ではないが、アンデッドもリゼルも闇属性。
怯ませるには、より大きい力を練る必要がある。それでも、仲間なのだから、動いてほしいが。

「ぁ……ぁ……」

その間にも、ゾンビとの距離が縮まっている。
腐り落ちた数本の指で、こちらを掴もうとしてくるのだから、本当に怖い。

全てが腐敗しているゾンビだが、魔物の瘴気のお陰で、立つことも歩くこともできるようになっている。
そして、肉を掴む力、噛みつき、引きちぎる顎の力も備わっている。

だから、掴まれたら、肉を食われる。
頭では分かっているのに、この人を剣で切り裂く勇気が湧かない。

「おい!!レイズ!!」

魔物と応戦しつつ、声を張るバージル。しかし、彼には届かない。
激しく動揺しているのも相まって、龍力も不安定になっている様子。

彼の剣を燃やしている炎。それが、平常時よりも小さくなっている。完全に潰えてはいないようだが、あの攻撃力では、仮に攻撃できても、ゾンビの力に押し負ける。

(クソ……!!)

魔物一体一体は弱くとも、数で来られると、だいぶ厳しい。
数を減らすので精一杯なバージルは、レイズのフォローができない。

と、次の瞬間、レイズの腕がゾンビに掴まれてしまった。

「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

腐った血のぬるりとした感覚と、乾いた肌の接触。鼻を突く腐敗臭。
今にも崩れそうな筋肉量なのに、跡が残りそうなほど強く握ってきた。

「ッ!やべぇ!!受け取れ!!」

もう限界。かつ、間に合わない。
バージルが、自分の転移珠を投げつけようとした瞬間、光の一閃が横切った。

「!!」

その一線は、器用にゾンビの腕だけを撃ち落とした。
耳を塞ぎたくなるような破壊音が響く。

「ひっ……」

破壊された腕の断面。
筋組織や、骨、血管が至近距離で意思表示している。
至近距離でショッキングな場面だが、食われるより数倍マシだろう。

「レイラ……!」

光龍の一撃。
彼女の周囲にいる魔物は全員地面に転がっていた。その脇には、当然のようにリゼルが立っている。
しかも、こちらに背を向けていた。
その光景に、バージルの動きが止まる。

(は……?)

あの様子だと、彼は動けたはず。それなのに、優しいレイラにその役目を押し付け、自分は休憩しているのか?
ブチぎれそうになる心の感情を抑え、目の前の魔物をぶった切るバージル。

「だぁぁぁあああッ!!」

風龍の力で魔物を切り裂き、そのまま体の向きを変える。

ゾンビは腕が千切れただけで、討伐はできていないのだ。
バージルがフォローに走ろうとした瞬間、また一閃。

今度は、ゾンビの頭を吹っ飛ばした。

「!!」

肉が爆ぜる音。飛び散る腐敗した血と肉片。
ショッキングすぎるその情景に、レイズは完全に龍とのリンクが切れ、腰が抜けた。
崩れるようにその場に座り込み、腕の力で姿勢を保つ。

「はぁ……はぁ……」
「レイズ!!大丈夫か!?」

彼は目を見開き、倒れたゾンビを凝視している。
歩かなくなった死体から転がり落ちる金品など、彼の目には入っていない。

「空気がわりぃ。離れるぞッ!!」

肉片血だまり。更に腐敗臭漂うこの場は、環境的に最悪。
バージルはレイズを引きずり、新鮮な空気を吸わせる。その間に、彼の状態をチェックしていた。

(怪我はねぇ……レイラのが間に合ったんだ……けど、アイツは……!!)

バージルは、その「アイツ」を睨む。彼は、相変わらず背を向けたまま。
よく見れば、抜刀すらしていないではないか。少し手前にいるレイラは、まだ抜刀状態。即ち、納刀で待機できるだけの時間はあった。フォローに入れるだけの充分な時間はあった。
それなのに、このボケはレイズを見殺しにしようとした。

「てめぇ!リゼル!!おい!!オメェだよ!!」

頭に血が上ったバージルは、試験でボコボコにされたことも忘れ、リゼルに詰め寄る。
正式な部隊ではないが、チームであり、仲間だ。その仲間を、コイツは見殺しにしようとしたのだ。
こんな事実、すぐ公表してこのボケをクビにすべきだろう。

しかし、間に入ったレイラに止められてしまう。

「待ってください!!」

一触即発のピリついた空気。
相手が王の肩書を持っていることも忘れるほど、彼は怒りに煮えたぎっていた。
止められる筋合いはない。

仲間であるのに、この空気感。いったい、どんな仁義があって、ボケは仲間を見捨てようとし、このボケを庇っているのか。
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