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世界の変化
強制退場
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血みどろの中、横たわるスゼイ。
微かに生命エネルギーを感じるが、起き上がってくることはない。
これは、勝負に勝ったことを意味している。
初めて収めた勝利。
その現実に、全員が身震いしている。
「初めて……勝った……!!」
レイラ含め、全員が先刻までの状況を忘れ、喜びを噛みしめていた。
何とも言えぬ高揚感。敗北が当たり前。絶対に勝てないと思っていた相手である。
それが、四聖龍による削り込みとは言え、勝てたのだ。
お互いの表情が緩んでいるのが分かる。顔を見合わせ、頷き合うレイラたち。
しかし、次の一言で一気に現実に戻されてしまう。
「……ようやく終わったか」
「「!!」」
そちらを見ると、レイが立っていた。
服や身体に汚れや血痕が見られるが、大ダメージを受けている様子ではない。
ということは。
「ッ……!」
レイラは鳥肌が立つのを感じながら、レイの後方を見る。
彼よりも更に奥。激しい戦闘が行われていたであろう場所。
シャレム、アリシア、レイズ、リゼルがボロボロで転がっているのが見えた。
彼女たちの姿を見た瞬間、血液が沸騰したかのような怒りが湧き上がった。
今までにないくらい高速で、龍魂ードラゴン・ソウルーを発現させる。
とは言え、力を使い過ぎており、引き出せる力も知れている。
「く……!!」
攻撃しようと踏み込むレイラだったが、進めない。
自分が思っているより力が残っていないこともあるが、彼から発せられているであろう、この龍圧。
自分たちが出遅れたのも、この圧が原因である。
今すぐに撤退したいくらいの龍圧。
立っているだけで精一杯の、力の壁。
「進めないだろ?どうだ?あ?」
圧が強すぎて、本能的に身体が拒否っているのもある。
問題なのは、パートナーも同じように感じていることだ。龍も恐怖を感じているのか、いつになくシンクロが難しい。
こんな状況、初めてだ。
「……素晴らしい戦いだった。だが、もう限界だろ?」
「何を……!!」
続きを言いかけたレイラだが、後方で聞こえた、どさ、という音に口が止まる。
「ミーネ!?」
マリナが彼女に駆け寄る。
ぐったりしているが、息はある。
「大丈夫……生きてるわ……」
龍力を使いきり、身体を起こしているのが精一杯だったのだろう。
加え、この龍圧。意識がある方がおかしいレベル。
程なくして、バージルの身体も揺れ始める。
「くそ……」
「バージル?」
このメンバーでは龍魂歴が長い彼までも、足元がふらつき始める。
初勝利で気分がハイになっており、すっかり忘れていた。自分が限界であることを。
一度冷静になってしまえば、身体が思い出す。戦闘の疲労を。ダメージを。
「すまね……おれ、も……」
「バージル!」
一人、また一人と倒れていく仲間。
立っているのは、レイラとマリナ、そしてレイの三人だけとなった。
それでも倒れない王と、その仲間に、レイは心底感心している。
「頑張るねぇ。スゼイ一人にこんなボロボロで……だが、殺せていない」
「「…………」」
全身全霊のキメラドラゴン。
勝負の最中、殺す殺さないまで頭は回っていないが、間違いなく『勝つ』気でいる。
勝ちはしたが、命を狩るまでの攻撃力には到達していなかったらしい。
レイは、スゼイの様子を確認する。
「……こいつはタフだからな。ほっとけば回復する」
「!?」
あんなにボロボロなのに!?とマリナは思う。
「殺さないと……!」と脳は信号を送るが、現実がそれを止める。
ボスの前で?力も残っていないのに?
これは、レイラも同じ。この状況で、彼を殺せる手段がない。
「さて、と」
「「!!」」
レイは二人に向き直る。ビク、と身体が硬直する。
今を生きるドラゴンに睨まれたように、完全に動きが止まる。
少しでも動けば、殺される。それだけの殺気を、彼から感じている。
「頑張ってるが……強制的に落ちてもらうか」
「!?」
そい言い放ち、レイが手をかざす。属性を感じない龍力オーラが彼を包む。
次の瞬間、ずん、と身体に重いものがのしかかったような感覚になる二人。
もう、立っていられない。遠のく意識。折れる膝。
「ッくぅ……」
「く……ッ……」
心は抵抗しているが、身体は正直だ。崩れるように、地面に雪崩れる。
騎士団の最高戦力は、レイを前に全滅した。
微かに生命エネルギーを感じるが、起き上がってくることはない。
これは、勝負に勝ったことを意味している。
初めて収めた勝利。
その現実に、全員が身震いしている。
「初めて……勝った……!!」
レイラ含め、全員が先刻までの状況を忘れ、喜びを噛みしめていた。
何とも言えぬ高揚感。敗北が当たり前。絶対に勝てないと思っていた相手である。
それが、四聖龍による削り込みとは言え、勝てたのだ。
お互いの表情が緩んでいるのが分かる。顔を見合わせ、頷き合うレイラたち。
しかし、次の一言で一気に現実に戻されてしまう。
「……ようやく終わったか」
「「!!」」
そちらを見ると、レイが立っていた。
服や身体に汚れや血痕が見られるが、大ダメージを受けている様子ではない。
ということは。
「ッ……!」
レイラは鳥肌が立つのを感じながら、レイの後方を見る。
彼よりも更に奥。激しい戦闘が行われていたであろう場所。
シャレム、アリシア、レイズ、リゼルがボロボロで転がっているのが見えた。
彼女たちの姿を見た瞬間、血液が沸騰したかのような怒りが湧き上がった。
今までにないくらい高速で、龍魂ードラゴン・ソウルーを発現させる。
とは言え、力を使い過ぎており、引き出せる力も知れている。
「く……!!」
攻撃しようと踏み込むレイラだったが、進めない。
自分が思っているより力が残っていないこともあるが、彼から発せられているであろう、この龍圧。
自分たちが出遅れたのも、この圧が原因である。
今すぐに撤退したいくらいの龍圧。
立っているだけで精一杯の、力の壁。
「進めないだろ?どうだ?あ?」
圧が強すぎて、本能的に身体が拒否っているのもある。
問題なのは、パートナーも同じように感じていることだ。龍も恐怖を感じているのか、いつになくシンクロが難しい。
こんな状況、初めてだ。
「……素晴らしい戦いだった。だが、もう限界だろ?」
「何を……!!」
続きを言いかけたレイラだが、後方で聞こえた、どさ、という音に口が止まる。
「ミーネ!?」
マリナが彼女に駆け寄る。
ぐったりしているが、息はある。
「大丈夫……生きてるわ……」
龍力を使いきり、身体を起こしているのが精一杯だったのだろう。
加え、この龍圧。意識がある方がおかしいレベル。
程なくして、バージルの身体も揺れ始める。
「くそ……」
「バージル?」
このメンバーでは龍魂歴が長い彼までも、足元がふらつき始める。
初勝利で気分がハイになっており、すっかり忘れていた。自分が限界であることを。
一度冷静になってしまえば、身体が思い出す。戦闘の疲労を。ダメージを。
「すまね……おれ、も……」
「バージル!」
一人、また一人と倒れていく仲間。
立っているのは、レイラとマリナ、そしてレイの三人だけとなった。
それでも倒れない王と、その仲間に、レイは心底感心している。
「頑張るねぇ。スゼイ一人にこんなボロボロで……だが、殺せていない」
「「…………」」
全身全霊のキメラドラゴン。
勝負の最中、殺す殺さないまで頭は回っていないが、間違いなく『勝つ』気でいる。
勝ちはしたが、命を狩るまでの攻撃力には到達していなかったらしい。
レイは、スゼイの様子を確認する。
「……こいつはタフだからな。ほっとけば回復する」
「!?」
あんなにボロボロなのに!?とマリナは思う。
「殺さないと……!」と脳は信号を送るが、現実がそれを止める。
ボスの前で?力も残っていないのに?
これは、レイラも同じ。この状況で、彼を殺せる手段がない。
「さて、と」
「「!!」」
レイは二人に向き直る。ビク、と身体が硬直する。
今を生きるドラゴンに睨まれたように、完全に動きが止まる。
少しでも動けば、殺される。それだけの殺気を、彼から感じている。
「頑張ってるが……強制的に落ちてもらうか」
「!?」
そい言い放ち、レイが手をかざす。属性を感じない龍力オーラが彼を包む。
次の瞬間、ずん、と身体に重いものがのしかかったような感覚になる二人。
もう、立っていられない。遠のく意識。折れる膝。
「ッくぅ……」
「く……ッ……」
心は抵抗しているが、身体は正直だ。崩れるように、地面に雪崩れる。
騎士団の最高戦力は、レイを前に全滅した。
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