龍魂

ぐらんじーた

文字の大きさ
上 下
460 / 469
世界の変化

パワー・パワー・パワー

しおりを挟む
轟音が響き、雷の力が充満する。
それにぶつかるように、闇と炎の力が放たれている。

雷龍が空を翔けるような、巨大な圧と共に迫り来る大剣。

「「!!」」

二人は流石の身のこなしで避け、距離を取る。
刃は避けたはずなのに、龍力オーラを貫通して稲妻が身体に走った。

「ッ……!」
「……なるほど、ですね」

絶対に、大剣の攻撃は当たっていなかった。
これは、『見える範囲以上の攻撃』である。それほどの量の龍力を発現させ、大剣に込めている。

正直、龍力者でこの技術を行うのは、燃費が悪い。
なぜなら、常時必要以上の龍力を出し、武器の先、その空間まで龍力を充填させる必要があるのだから。
だが、得られるパワーは絶大。瞬間火力なら、ヒューズにだって届くだろう。
それだけで、スゼイの凄まじい龍力が理解できた。

(……ここまで脳筋な戦いをするとはな)
(それだけ力を引き出しているのでしょう。真似しようと思わないことです)

ウィーン、アレクも、スゼイの技術に驚嘆しながらも、同時に反面教師として見ていた。
技術としては素晴らしいが、教科書に載るような正攻法ではない。
下手な龍力者が真似すれば、えげつない程に体力・龍力は削られていく。
それを容易に可能としているスゼイが、例外なだけである。

「避けたか。良いぜ」

稲妻を走らせ、スゼイは満足そうにニヤつく。
その様子を見る限り、先程の攻撃は小手調べと見ていいだろう。

(厳密には、稲妻は食らったがな)
(……意識して範囲を広げていないのでしょうか?)

スゼイの言葉に、何か引っかかりを感じるアレク。
単に刃が当たらなかったことを言っただけなのか?ただ、あの口ぶりだと、『大剣が纏う龍力に触れたこと』には気付いていないように取れる。
だから、彼は知らず知らずのうちに、あの高等技術を身に付け、疲労感なく扱えているのか。
もし、そうなら……

「恐ろしい」
「アレク?」
「いえ、こっちの話です」

声に出してしまったか。
ハーストの別荘で死にかけてから、死ぬ気で特訓した。結果も出てきた。
先刻戦った感触からして、親玉さえ気をつけていれば、何とかなるレベルまで引き上げたと予測していた。
が、甘かった。

本気を出していなかったのか、この期間に敵も進化したのか。
敵のヤバさに脱帽する一方だ。

と、スゼイが動く。

「もっと動くぜ。頑張れよ?」
「あぁ。お前がな」
「いつまでも防戦一方だと思わないことです」

本格的に始まる、スゼイの猛攻。
しかも、範囲以上の大剣攻撃。龍眼さえ使えば、範囲自体を知ることは可能。
だが、この攻防を繰り広げながら、龍眼を切った後に正確な範囲を把握し続けることは難しい。

連戦の疲労感から、判断力も鈍っている。よって、全回避は不可能だ。

「おらァ!!」
「ぐッ!!」

ウィーンは、スゼイの大剣を双剣で受ける。
得物の大きさが明らかに異なる。それに、龍力も。
何とか受けたが、腕が千切れそうだった。

「~~~~~~~!!」
「ウィーンさん!」

黒く震える剣を構え、ウィーンのサポートに入るアレク。
珍しい得物に興味があるのか、スゼイはアレクの件を「わざわざ」大剣で受ける。

「!!」
「面白れェモン持ってんな」

……強い。
渾身の力で剣を振ったのに、ビクともしなかった。
得物の大きさの差だけで片付けるには、無視できない龍力レベルだ。

「見せてくれ」
「……!」

大剣越しに見えるスゼイは、本当に危険人物の顔だった。
戦闘狂。命を奪うことも、奪われることも何とも思っていない顔。

アレクが強引に剣を滑らせ、大剣をいなす。
そして、スゼイが構える直前、明らかに質が異なる龍力が風を翔けた。
風、光、氷。そして、雷。これは、レイラたちの力。

「……そっちだけ乱入はずりぃだろ?」
「あなたたち……」

バージルは精一杯の虚勢を張り、アレクたちの横に立った。
一応の助太刀ではあるのだが、さすがに四聖龍の前には立てなかった。

(言っちまった……!!)

脚の震えは止まったが、心臓の鼓動がうるさい。
手汗が滲み、剣が滑る。

「お前は……」
「……!!」

半端ない威圧感で、バージルを見下ろすスゼイ。
思わず「巨人かよ」と心の中で突っ込んでしまった。
それほどまでに、スゼイの圧は凄まじい。

「ウィーンさん!!大丈夫ですか!?」

ウィーンに駆け寄り、簡易的な治癒術を掛けるレイラ。
その様子を横目で見ていたアレクは、小さく呟く。

「……自分もいるのですが」

明らかに意識はしていただろうに、スゼイはわざとらしく驚いた顔を見せる。

「あぁ?お前ら。いたのか」
「……眼中になし、ですか」

レイラは唇を噛む。

「良いのか?現王サマがここにいて」
「……どういう意味です」
「……勘の鈍いヤツだな」

ガリガリと頭をかくスゼイ。
乱入で少し落ち着いていた龍力。それが、じわじわと龍力が上昇し、稲妻が彼の周囲を駆け巡る。

「ここで死ぬぞって意味だよ。バカガキ」
「!!」

スゼイの巨大な龍力が解放される。
相変わらず馬鹿でかい龍力だ。それに、自分たちにはない爆発力もある。
徐々に龍の波長を調整するのではなく、龍の波に自身の波を最初から当てはめるようなやり方だ。

パートナーを理解しているからできる芸当だ。
爆発的な力の解放が良いか悪いかは別問題として、彼はそれができるほどの龍力者なのだ。

凄まじい龍力に場は荒れているが、一人だけ冷めている龍力者が一人。

「ち……」

スゼイの後ろで、ヒューズは半分、否、ほとんど白けていた。
二対一で負けかけた事実は変わらないが、スゼイの乱入により、明確な力の差が分からなくなった。
ここで、スゼイと共にこいつらを潰すのは容易いが、スゼイの手を借りたみたいで、なんか腹が立つ。しかし、ここで退けば尻尾を巻いて逃げるようで、それはそれで腹が立つ。

(筋肉馬鹿が……)

ギリ、とヒューズは歯を鳴らす。
どの道を選んでも、心はスッキリしない。
スゼイに見つかった時点で、ヒューズは詰んでいた。
ただ、レイはこの雑魚共(特に今入ってきた連中)を生かしておきたい雰囲気を出していたし、自由時間は終わりなのかもしれない。

「……スゼイ。勝手にしろ。俺は気が失せた」
「!」

彼は、退くことを選んだ。
やはり、レイの力は脅威だ。彼の計画がどんなものかは想像すらしていないが、あの力が自分に向けられると、流石にキツい。
ここで貯まった鬱憤は、グランズに支払ってもらえばいい。

「へいへい。負け犬は帰ってくだせぇ」
「負けていない」
「へいへい。分かりましたよ~」

一々腹が立つ野郎だ。本当に嫌なタイミングで見つかってしまった。
スゼイはヒューズをからかい終わると、バージルたちに向き直る。

「行くぜ!!雷龍!!」
「来るぞ!!」

荒々しい稲妻を纏い、巨大な雷龍が戦場を駆ける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中】魔法のトランクと異世界暮らし

猫野美羽
ファンタジー
※書籍化進行中です。  曾祖母の遺産を相続した海堂凛々(かいどうりり)は原因不明の虚弱体質に苦しめられていることもあり、しばらくは遺産として譲り受けた別荘で療養することに。  おとぎ話に出てくる魔女の家のような可愛らしい洋館で、凛々は曾祖母からの秘密の遺産を受け取った。  それは異世界への扉の鍵と魔法のトランク。  異世界の住人だった曾祖母の血を濃く引いた彼女だけが、魔法の道具の相続人だった。  異世界、たまに日本暮らしの楽しい二拠点生活が始まる── ◆◆◆  ほのぼのスローライフなお話です。  のんびりと生活拠点を整えたり、美味しいご飯を食べたり、お金を稼いでみたり、異世界旅を楽しむ物語。 ※カクヨムでも掲載予定です。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ

秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」  ワタクシ、フラれてしまいました。  でも、これで良かったのです。  どのみち、結婚は無理でしたもの。  だってー。  実はワタクシ…男なんだわ。  だからオレは逃げ出した。  貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。  なのにー。 「ずっと、君の事が好きだったんだ」  数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?  この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。  幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

処理中です...