龍魂

ぐらんじーた

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世界の変化

身代わり

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戦闘が始まり、数十分、否十何分、否、何分経過しただろうか。
リゼルたちは、最大限の力を解放し、戦い続けている。

問題であった、獣臭と血の臭い。不愉快さは消えないが、これらにも慣れてきた。それでも、臭いが濃い場所にうっかり足を踏み入れると、どうしても呼吸が乱れる。
今まさに、マリナがその場所に入ってしまい、苦痛の表情を滲ませる。

「ッ……」
「マリナ!(そこから)離れて!」

追い打ちされないよう、レイラが敵の注意を引こうと光龍の紋章を簡易的に描く。
ダメージは期待できないが、鬱陶しいと感じるだけの光球を放たれた。

「ゴメン!!ありがと!!」

呼吸を止め、サッサと場所を変えるマリナ。

「えぇ!任せてください!」

分かりやすく顔に出て、息も乱れるため、フォローも可能。
気配りの鬼のレイラがいて良かった。まだまだ戦える。

臭いに関しては、今後マシになる可能性が高かった。それは、移動が可能だと分かったからだ。
エリアを固定化しないタイプで、非常に好戦的。魔物を一口齧りで次の標的を探している辺り、何となく予測はついていたが、対人間でも例外ではなかった。

上手く立ち回れば、死体から離れることが可能だ。ただ、背中を向けれるほど余裕ではないため、三人の状況判断能力が試される。

「はぁッ!」
「だぁッ!」

小技で攻撃を繰り出し、一瞬で他二人の位置及び環境を確認。
すぐさま空気が綺麗そうな場所を察知し、じわりと陣形を寄せる。
声掛けも有効であるが、状況は都度変わる。個々の状況判断で、常時移動先を変えている。
よって、互いの位置を把握して立ち回る方が自然で、楽と感じた。

(あれ、臭いが……)

その自然さが功を奏してか、徐々にではあるが、死体の道から離れている。
『フル・ドラゴン・ソウル』で消費が激しく、呼吸量も上がる。だから、空気の質は大きい要素だ。

(新鮮な空気になれば、マシです!)
(分かっている。急かすな)

目配せだけで、互いに会話しているレイラとリゼル。
一々声に出さなくても分かるのは、戦闘においてメリットである。
対魔物であれば変わらないかも知れないが、作戦が相手に伝わるリスクがないためだ。

さて、ここまで引き上げて、かつ、三人がかりで、ようやく互角(のように見える)戦いだ。
ただ、慣れない環境で、更に、限界に近い力で動き回っているリゼルたちの方が、分が悪い。

「ッ……!」

一発一発の攻撃・防御に全身全霊故に、力の消費が激しい。
いくら龍脈に気を遣い、龍力ロスを低減させたとしても、常時全力疾走レベル。
節約しないよりマシであるが、目に見えて楽にはなっていない。
コントロール能力を鍛える余地ありと言ったところだが、今はそんな場合ではない。

(クソ……消費が……)

前髪を舞わせながら、リゼルはレイラを見る。そして、マリナも。

(二人共、か……いや、レイラは……)

二人共、きつそうな表情をしている。ただ、レイラの方は、まだ継戦能力がありそうな感じ。
龍魂に慣れているし、早々に『声』が聞こえていた彼女。

(……余裕ではない、が、余力あり、か。さすがだな)

高龍力の『フル・ドラゴン・ソウル』負担が大きいことに変わりはないが、それでキャパオーバーにならないくらいの技量は身についている様子。
間近で見ていて思うが、彼女は順当に強くなっているように感じる。当然、それ相応の努力の結果ではあるのだが。

「光連斬!!」

素早く、力強いウォルフ・ルーラーに果敢に攻めていく。
その動きにも追いつけているが、『フル・ドラゴン・ソウル』の負担が大きい故に、応用技を出す頻度が落ちた。
威力や動きを落としてでも、継戦を優先している。

「もう一度です!!」

厚い毛皮を斬り裂きながら、剣を振るレイラ。
ウォルフ・ルーラーの毛皮が裂け、血が舞うが、少量だ。身体の大きさから考えて、かすり傷程度だろう。
敵の動きは全く遅くならないし、力も弱まらない。

「黒双月」
「襲龍雷ッ!!」

リゼル、マリナも攻めるが、雀の涙程度のダメージだろう。
通じていない訳ではないが、決定打にもならない。

(はぁ、はぁ……どれくらい戦ったの……?)

こんなにも長時間、かつ、練度の高い『フル・ドラゴン・ソウル』を維持したのは初めてだ。
体感、かなり時間は経過したと思うが、実際は数分だ。

「マリナ!!避けて!!」

と、レイラの危険度高めの声。
ウォルフ・ルーラーが爪を光らせ、襲い掛かってきた。

「ッ!!」

腕の猛攻を回避し、マリナは雷を纏いながら舞う。
龍界に行ったお陰か、倒れてしまいそうなほどエネルギーを使っても、まだ身体は動くし、集中力は墜ちていない。
だが、疲労感が全くないわけではなく、徐々に積み重なっているのも感じている。

(それでも!!止まるわけにはいかないのよ!!)

攻撃を回避したその流れで、マリナは下肢に力を込める。
今すぐベッドに潜り、沈むように寝たい気持ちを振り払い、龍力を引き出す。

そして。

「瞬雷閃!!」

居合斬りをイメージした、高速移動しながらの一撃。
彼女の軌跡を、雷が駆ける。二段構えの攻撃である。

「~~~~~~!!」

かすり傷程度でも、傷は傷。その合間から、体内へ雷が駆け巡る。
流石のウォルフ・ルーラーも怯んだ。一瞬だが。

それでも、二人にとって、充分な時間。お互いが、同じ場所を見ていた。

「レイラ!!」
「えぇ!!」

一番傷が開いていそうな場所目掛け、同時に斬りかかる。

「!!」

鮮血が舞い、更に傷が大きくなる。
徐々にだが、ダメージを与えられている感覚になる三人。
これは、精神的にもプラスに働く要素だ。無意味に延々と殴らされるよりも、段違いで精神衛生上よろしい。

と、突然、鼻の空気が良くなった感覚になるマリナ。
瞬雷閃により、大きく移動した先。空気がよりクリアになる。

(激クサゾーン抜けたかも!)

ウォルフ・ルーラーから発せられる獣臭と血があるため、劇的には変わらないが、ピーク時よりは非常に楽になった。

肺一杯に空気を入れるマリナ。流れがこちらに来ている。
体力的に余裕はないが、まだ舞える。

「まだまだッ!!」

息を切らしながら、戦場を駆け回っている三人。
ウォルフ・ルーラーも三人相手に、非常によく戦っている。
しかも、息が上がっているようには見えない。

それに対し、こちらは全員が肩で呼吸をしているレベル。

「……平気か?」
「……えぇ」
「当たり前でしょ」
「……そうか」

愚問だったな。と思いながら、リゼルは剣を握り直す。

口ではああ言っているが、実際、マリナはかなり厳しそう。
『あの日』の被害者な上、『フル・ドラゴン・ソウル』という、未知な領域へと踏み込んでいる。
救ってくれたレイラへの想いから、ここまでしがみついてきてくれているが、退いてもいいレベルまで体力・龍力を消費している。

(……さっさと終わらせるべきだな)

塵積だが、ダメージは稼げているはず。だから、希望はある。

「レイラ」
「!」

一瞬だけマリナを見た後、レイラの方を向き直すリゼル。
当然、レイラも彼女体力消費に気付いている。お互い、小さく頷き合う。

その直後、同時に走り出す二人。
わざと派手に動き、ヘイトを稼いでいる。

「黒双月」
「光龍閃!!」

闇色の軌跡を描く連撃と、光龍の軌跡を残像として残す一閃。
黒と白の間反対カラーのオーラが弾ける。

出遅れたと判断してしまったマリナは、間合いを詰めるためにも速度を上げた。
そして。

「瞬雷閃!!」

高速移動しながらの一撃をお見舞いする。
彼女の軌跡を、雷が駆け、ウォルフ・ルーラーの傷口から雷が侵入する。

本来であれば、マリナはそのまま駆け抜け、敵の間合いから離れる予定だった。
しかし、体力・龍力を減らしていた今、駆け抜ける距離が短くなっていることに、技を出した後に気付いた。
それは、ケアレスミスではなく、「出遅れた」と判断した焦りが大きい。

「あ……」

思わず、声が漏れる。

走れた距離が短い。
もう少し先まで行ける予定だったのに。ここは、間合いの中である。
しかも、背中を見せている状態。

(動いて!動けよ!!足!!)

役に立たない足を睨みつけるが、動かない。
地面に映る巨影が動く。やばい。敵は、動いている。
太陽光に反射し、光る牙と爪。

ぞく、と背筋が凍る。

(終わった……)

そう全細胞が判断し、死への恐怖を感じた直後。

「退け!!」

リゼルに突き飛ばされ、こけるマリナ。
直後、彼が割り込んだであろう場所から「ごり……」と嫌な音がした。
そして、彼の呻き声も。

「リゼ……!」

振り返ると、そこには左肩を噛まれたリゼルがいた。
剣を肩に滑り込ませ、ダメージをある程度逃がしたようだが、そもそものダメージ量が多すぎる。
両腕は、ウォルフ・ルーラーの前脚に掴まれている。食い込ませているのか、その場所からも血が滴る。
肩と超腕。大量に血を流し、彼は項垂れる。長い前髪で、目が隠れる。気絶してしまったのだろうか。

――――――ヘマした自分を守るために。
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