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新たなる龍
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龍界に来た、噓偽りない理由。
リゼルはそれを伝え終え、まっすぐに月龍王を見つめる。
月龍王は、その真偽を見定めているのか、こちらを見たまま、動かない。
―ーーーーー震える。
足が、震える。しかし、リゼルは動かない。
ここでふらつけば、説得力が皆無となる。
伝えたのは、噓偽りはない事実だが、態度の問題。
数秒か、十数秒か、数分か――――――
永遠に思える時間の後、月龍王は口を開いた。
「……なるほど、な。嘘を言う顔ではないな」
「…………」
太陽龍王ソルの言葉を信じただけ。
リゼル本人は、当然龍界を犯しに来たつもりもなければ、今を生きるドラゴンについて調べに来たわけでもない。
純粋に、導きに従っただけ。その結果だ。
「……人間界の強大な力……それはこちらも把握している。前代未聞の力だ」
「!!」
ルーナの言っていたとおりだ。王はそのことを気にしていた。
レイかどうかは分からないが、十中八九、あいつだろう。
人間界を騒がしている、強力な龍力者。かつ、人間界が危機陥るほどの相手。
他に思い付かない。
「その戦いで主らが負け、どうなろうが関係ない」
「ッ!」
声にならない声が、リゼルの喉から漏れる。
歴史から見ても、協力が得られないのは当然とも言える。
しかし、話はそこで終わらなかった。
「……だが、その力……放置すれば、やがてここの世界に到達するだろう」
「それほどまで……なのか……」
龍王にそこまで言わせるほどの力。
人間界の外。龍界の王までが危険を察知しているとは。
その分だと、程度に差はあれど、他の龍王も彼らのことを認識しているだろう。
「……お主を人間代表として話をしよう」
「!!」
「良かったね」
自分を敵対視しているっぽかったルーナに微笑まれ、リゼルは小さく頷く。
どういうことだろう。
王にも受け入れられた(?)ことで、人類としてではなく、自分個人として見てくれるようになったのだろうか。
なんにせよ、風向きが良くなっていることは間違いない。
「試練はあくまで試練。この世界に踏み入ることが可能かの選別でしかない」
リゼルは頷く。
ルーナの口ぶりから、それは予想できた。
『あれ』を倒せない人間は、そもそもこの世界に到達することすらできないのだ。
ただ、だからといって、個々が抱えている龍力の問題が解決されるかは分からない。
「……それは、ある種の防衛線だ。一定の基準を定め、ここを越えた人間を、我らは試練を突破した者として認識する。したがって、主の今相手にしている敵の力量とは関係ない」
「あぁ。だろうな」
「試練を超える実力があったとしても、その力には対抗できないだろう」
「自覚している……嫌というほどにな」
フリアの実力。その他敵の実力。うんざりするほど味わった。
「試練の話は理解した。話を……」
ドラゴンサイドが決めた基準。それに興味はない。
それに、今の話を聞けば、深く追求する必要がないことはすぐに分かった。
「……試練とは別に、主らには超えなければならない『壁』と『その先』があるということだ」
「あぁ」
そう。試練はあくまで『世界の境目』を超えるためのもの。
『あれ』との戦いで龍力の使い方に学びはあったが、それだけで彼らの領域に到達できたとは思えない。
「……その『壁の先』にて我は待つ」
「…………」
少し意味が分からないかった。
つまり、今現在の強烈なパワーアップではなく、未来の可能性として、協力してもらえるのだろうか。
(まぁ、いい。自分で超えてこそ、だ)
無駄に聞き返して、流れを折ることもなかろう。
彼は「聞」に徹した。
「本来、人間界の事情に手を貸すことはない。だが、事が事だ」
「……助かる」
「だが、誓え。今後その力を、どの龍の世界にも向けないと。そうなれば、問答無用で我々は人間を滅ぼそう」
「!!」
全身に走る緊張。重圧が増した気がする。
最後の言葉は、声の質、そして、読みにくいが表情が変わっていた。
それだけ王も本気だということだ。
「…………」
リゼルは剣を取り出し、母指の腹に刃を食い込ませる。
チク、と痛みが走る。皮膚が切れ、血が滴る。
その様子を見て「痛!」とルーナは表情を濁らせた。
「誓おう」
滴る鮮血。これくらいでしか、覚悟を伝えられない。
実際、口約束よりは覚悟は伝わるだろう。
「フン……安い血だ」
月龍の王は、やや呆れたように笑い、翼を広げる。
全身を銀色のオーラが包む。これが、月の……月龍王の力か。
「ッ……!!」
神聖なるこの空間に、ビリビリと力が充満する。
空間が騒ぎ、大地が鳴く。
凄まじい力の乱気流なのに、ルーナは涼しい顔をしたまま立っている。
銀色のオーラが月龍王の腕に集まる。
城のような腕が、こちらに伸ばされる。
「ッく……!!」
途轍もない重圧。
敵意こそ感じないが、龍力の圧力が凄まじく、身体が回避しようとしている。
が、堪える。ここで引けば、王を呆れさせてしまうかもしれない。
王のオーラが、目の前まで来た。
なるほど。フリア達が、相当弱く感じるレベルだ。
これが、今を生きるドラゴンの頂点に君臨する力。
「受け取れ……我が一部を……」
「!!」
オーラが自分へと移動していく。
力・量ともに、今まで見たことがないオーラだ。
そのオーラは、輝きを保ったまま、身体を包んでいく。
「く……!」
ただ、強力過ぎだ。力が充満するにつれ、リゼルは立っていられなくなる。
下肢に力が入らない。視界が歪む。
(ッ……くそ、何だ……?)
力の乱気流に耐えられなかったのか、リゼルの意識は、そこで途絶えた。
「……片付けておけ」
「……はい」
直後に発された二つの声。
その声は、リゼルの耳には届かない―ーーーーー
リゼルはそれを伝え終え、まっすぐに月龍王を見つめる。
月龍王は、その真偽を見定めているのか、こちらを見たまま、動かない。
―ーーーーー震える。
足が、震える。しかし、リゼルは動かない。
ここでふらつけば、説得力が皆無となる。
伝えたのは、噓偽りはない事実だが、態度の問題。
数秒か、十数秒か、数分か――――――
永遠に思える時間の後、月龍王は口を開いた。
「……なるほど、な。嘘を言う顔ではないな」
「…………」
太陽龍王ソルの言葉を信じただけ。
リゼル本人は、当然龍界を犯しに来たつもりもなければ、今を生きるドラゴンについて調べに来たわけでもない。
純粋に、導きに従っただけ。その結果だ。
「……人間界の強大な力……それはこちらも把握している。前代未聞の力だ」
「!!」
ルーナの言っていたとおりだ。王はそのことを気にしていた。
レイかどうかは分からないが、十中八九、あいつだろう。
人間界を騒がしている、強力な龍力者。かつ、人間界が危機陥るほどの相手。
他に思い付かない。
「その戦いで主らが負け、どうなろうが関係ない」
「ッ!」
声にならない声が、リゼルの喉から漏れる。
歴史から見ても、協力が得られないのは当然とも言える。
しかし、話はそこで終わらなかった。
「……だが、その力……放置すれば、やがてここの世界に到達するだろう」
「それほどまで……なのか……」
龍王にそこまで言わせるほどの力。
人間界の外。龍界の王までが危険を察知しているとは。
その分だと、程度に差はあれど、他の龍王も彼らのことを認識しているだろう。
「……お主を人間代表として話をしよう」
「!!」
「良かったね」
自分を敵対視しているっぽかったルーナに微笑まれ、リゼルは小さく頷く。
どういうことだろう。
王にも受け入れられた(?)ことで、人類としてではなく、自分個人として見てくれるようになったのだろうか。
なんにせよ、風向きが良くなっていることは間違いない。
「試練はあくまで試練。この世界に踏み入ることが可能かの選別でしかない」
リゼルは頷く。
ルーナの口ぶりから、それは予想できた。
『あれ』を倒せない人間は、そもそもこの世界に到達することすらできないのだ。
ただ、だからといって、個々が抱えている龍力の問題が解決されるかは分からない。
「……それは、ある種の防衛線だ。一定の基準を定め、ここを越えた人間を、我らは試練を突破した者として認識する。したがって、主の今相手にしている敵の力量とは関係ない」
「あぁ。だろうな」
「試練を超える実力があったとしても、その力には対抗できないだろう」
「自覚している……嫌というほどにな」
フリアの実力。その他敵の実力。うんざりするほど味わった。
「試練の話は理解した。話を……」
ドラゴンサイドが決めた基準。それに興味はない。
それに、今の話を聞けば、深く追求する必要がないことはすぐに分かった。
「……試練とは別に、主らには超えなければならない『壁』と『その先』があるということだ」
「あぁ」
そう。試練はあくまで『世界の境目』を超えるためのもの。
『あれ』との戦いで龍力の使い方に学びはあったが、それだけで彼らの領域に到達できたとは思えない。
「……その『壁の先』にて我は待つ」
「…………」
少し意味が分からないかった。
つまり、今現在の強烈なパワーアップではなく、未来の可能性として、協力してもらえるのだろうか。
(まぁ、いい。自分で超えてこそ、だ)
無駄に聞き返して、流れを折ることもなかろう。
彼は「聞」に徹した。
「本来、人間界の事情に手を貸すことはない。だが、事が事だ」
「……助かる」
「だが、誓え。今後その力を、どの龍の世界にも向けないと。そうなれば、問答無用で我々は人間を滅ぼそう」
「!!」
全身に走る緊張。重圧が増した気がする。
最後の言葉は、声の質、そして、読みにくいが表情が変わっていた。
それだけ王も本気だということだ。
「…………」
リゼルは剣を取り出し、母指の腹に刃を食い込ませる。
チク、と痛みが走る。皮膚が切れ、血が滴る。
その様子を見て「痛!」とルーナは表情を濁らせた。
「誓おう」
滴る鮮血。これくらいでしか、覚悟を伝えられない。
実際、口約束よりは覚悟は伝わるだろう。
「フン……安い血だ」
月龍の王は、やや呆れたように笑い、翼を広げる。
全身を銀色のオーラが包む。これが、月の……月龍王の力か。
「ッ……!!」
神聖なるこの空間に、ビリビリと力が充満する。
空間が騒ぎ、大地が鳴く。
凄まじい力の乱気流なのに、ルーナは涼しい顔をしたまま立っている。
銀色のオーラが月龍王の腕に集まる。
城のような腕が、こちらに伸ばされる。
「ッく……!!」
途轍もない重圧。
敵意こそ感じないが、龍力の圧力が凄まじく、身体が回避しようとしている。
が、堪える。ここで引けば、王を呆れさせてしまうかもしれない。
王のオーラが、目の前まで来た。
なるほど。フリア達が、相当弱く感じるレベルだ。
これが、今を生きるドラゴンの頂点に君臨する力。
「受け取れ……我が一部を……」
「!!」
オーラが自分へと移動していく。
力・量ともに、今まで見たことがないオーラだ。
そのオーラは、輝きを保ったまま、身体を包んでいく。
「く……!」
ただ、強力過ぎだ。力が充満するにつれ、リゼルは立っていられなくなる。
下肢に力が入らない。視界が歪む。
(ッ……くそ、何だ……?)
力の乱気流に耐えられなかったのか、リゼルの意識は、そこで途絶えた。
「……片付けておけ」
「……はい」
直後に発された二つの声。
その声は、リゼルの耳には届かない―ーーーーー
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