龍魂

ぐらんじーた

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新たなる龍

月の王

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リゼルが龍の世界に来て、どのくらい経過しただろうか。
巫女ルーナ。そして、合格者のリゼルもだが、口数は多くない方だ。故に、無言で二人は歩いている。
時折聞こえるドラゴンの咆哮や、戦っているであろう音が聞こえてくるくらいで、明るいとは言えない空気が二人を包んでいる。
景色も大きく変わらないため、龍界の空気感に慣れてしまえば、普通の旅路となってしまう。

(……何を話せばいい)

無口ではあるが、流石にこの空気が気まずくなっているリゼル。
合格者とは言え、歴史上の過ちから、ルーナの評価は高くない。だから、友好的に話しかけられることもない。
必至に頭を回すが、話題が全く出てこない。

(……あのバカ二人なら、言葉が出るんだろうな)

レイズとバージルの顔を思い浮かべ、僅かに口角を上げる。
良くも悪くも何も考えていなさそうに見える二人。こんな殺伐とした空気になる前に、色々と口を開き、コミュニケーションを取っていただろう。

自分も、レイラが相手であれば、色々と喋る。が、彼女以外はどうでもよすぎて、適当に流して生きてきた。
そのツケが、今になってやってきたのだろう。

それほどまでに、彼女の優先度は高く、その他を無視していた。
最近は、丸くなった方だ。ただ、急にスラスラと言葉が出てくる訳もなく、こうして沈黙の移動をすることになっている。

(……はぁ。クソ……)

分かりやすく頭を抱えるリゼル。いい加減、きついぞ。
そう思っていた矢先のことだ。

アテもなく歩いていたように見えていたルーナだが、ふと足を止めた。
そして、何もない虚空を見上げる。

「……着いたよ」
「!」

リゼルは、つい身構える。

周囲は相変わらずの月面のような大地。そして、夜のように暗い空。
風景に変化はない。

だが、分かる。
空を切る音、巨大な力。

(近づいている……!!凄まじい気配!!)

つ、とリゼルの頬を汗が流れる。
最初に出会ったドラゴンの力とは、比にならないレベルの力。それが、猛スピードで近づいている。

「来たよ。上」

ルーナの指先。それに気付き、リゼルは目を見開く。
数秒前まで何もなかった空間に、一つの影。

(あれか!!)

その影は、一瞬のうちに大きくなった。そして、突然の暴風。
リゼルの頭上に、超巨大なドラゴンが現れた。

(これが……王!?)

ルーナの元の姿よりも、出会ったドラゴンよりも、更に大きい。
そして、心に重くのしかかる重圧感。
図体だけ大きく、力は大したことなかった魔物はいるが、この王にそれはない。
本当に、本当に強い。

(く……!!)

頭の中で状況を目まぐるしく整理していると、そのドラゴンはリゼルの目の前に降り立った。
翼を羽ばたかせると同時に生まれる風。下手な風龍使いよりも、凄まじい風量だ。

前腕で顔を守りながら、リゼルはそれが落ち着くのを待った。
吹き飛ばされないように、下肢にも力を込めるのを忘れない。加え、生身では耐えられないと無意識に察し、龍力を発動させていた。

「ちょっと待ってね」

ポ、とルーナが指先に明かりを集める。
ここら辺一帯が、更に明るくなる。

「…………」

お互いの姿がハッキリ分かるようになり、互いが互いを見つめ合う形となる。
グルル、と喉を鳴らしながら、こちらを見下ろしているドラゴン。
リゼルは、静かにその目を見つめている。それだけで、吸い込まれてしまいそうな感覚になる。

鱗は灰色で、翼は更に色が薄い。白色とまではいかないが、グレーや黄色に近い色だった。


(山……だな……)

それくらいの大きさはあった。
当然だが、今までに会ったどの魔物よりも大きく、筋肉質で、途轍もない重圧を感じさせた。

「ニン……ゲン……」
「!」

低い声。
プレッシャーはあるが、敵意はあまり感じない。ピリピリとした空気はあるが。

「王。彼は試練を突破したリゼルです」
「リゼル……」
「…………」

名を言われ、リゼルは軽く頭を下げる。

「人間よ……我々の世界に、何の用だ……」
「…………」

返答次第では、食われる。威圧感は凄まじいが、敵意は感じない。

それなのに、いつ攻撃されてもおかしくないと意識を植え付けられてしまった。
そのくらい、心がビビっていた。

同じ強大な力を相手にするのでも、それが人の姿をしているか、そうでないかで感じるプレッシャーは桁違いだ。

「用……と言えるかは分からないが、僕た「用もなく来たのか」
「!」

突然の大声。大気が震える。話を遮られ、リゼルは口が止まる。
何を話そうとしたのか、一瞬飛ぶ。

(……回りくどいのは、ダメだ)

合格者とはいえ、人間とドラゴンの間に、絆はない。
ダラダラ経緯を説明している暇はない。が、目的を問われても、いまいち説明できるものでもない。

「……いや、用事はあるはずだ」
(……はず?)

ルーナはその言葉に反応する。しかし、口は開かない。

「僕たち人間界は、ある戦いが行われている。僕たちは、その戦いに勝つために特訓をしているのだが……」
「……勝てない」
「あぁ……敵は僕たちのずっと先を走っている。僕たちの強さも頭打ちになってきた。そんなとき、仲間の一人が太陽龍王の意見を聞くことができた」
「太陽龍王だと……?」

ゴゴ、と山が動く。

「あぁ。いや……正確には、すでに亡くなっている、昔の太陽龍王の声だ。知っていると思うが……僕たち人間は龍魂として、ここに宿している者がいる」

「ここに」のタイミングで胸に手を当てるリゼル。
別に心臓部に龍魂がいる訳ではないが、便宜上そう伝える。

「フン、人間が我が同胞をそのように扱っているのは知っている。舐められたものだ」
「…………」

そう言えば、『龍魂』のことを、今を生きるドラゴンはどう思っているのだろうか。
歴史上の行いで、すでに嫌われているだろう。その上、死後の魂を使役しているのだ。
怒り?(使われて)情けない?個々の自由?考えたこともなかった。

「……仲間の一人が、あるきっかけで太陽龍王を宿している。彼女が伝えてきたんだ。自分の龍とゆかりの地に行けば、何か見つかるかも、と」

リゼルはドラゴンを見る。

「そして……ここに来た。これが、理由だ」

それ以上でも、以下でもない。純粋な、龍王の導きに従って来た。
噓偽りのない、まっすぐな目。ドラゴンは、どう受け取るか―ーーーーー
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