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新たなる龍
適応
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座り込み、しばらく動けなくなるレイズ。
サンの存在、周囲の熱さ、お漏らししてしまいそうな膀胱の高ぶりも忘れ、ただ呆けている。
心臓の音が、全身に響いているが、彼にはその音すら、入ってこない状態だ。
「はぁ……はぁ……」
時間にして数分の出来事だが、本当に密の濃い時間だった。
遺跡に来てから、信じられないことばかりだ。
「……平気?」
「ぁ……」
ドラゴンに変身したサンは、今は子供の姿になっている。
いや、本来なら『人間の姿になっていたドラゴン』と言うのが正しいだろう。
「さっきのは番龍ね。『歪み』を察知してやってくるの」
「そ、そう、か……」
改めて、まじまじとサンを見つめるレイズ。
本当に、どこをどう見ても、少女の見た目。「龍が変身している」と言われても、信じる人間はいないだろう。
ドラゴンは、人の姿に変身する能力まで有しているらしい。
「……なぁ、ドラゴンは全員、人の姿に変身できるのか?」
「ううん、全員じゃないみたい。『その必要性がある龍だけ』なれるって。難しいことは分かんない」
苦い顔で表情を曇らせるその姿は、年相応の子供だ。
そのことに若干の微笑ましさを感じながら、レイズは続ける。
「そうか……で、『歪み』って?」
「この世界は広いの。現状『人間界』と『龍界』に分かれてるのね。当然、人間はその境界を超えてはならないって。約束?がどうとか……」
「あぁ……そうらしいな……」
これも、バージルから聞いている。
人間の世界と龍の世界は互いに干渉しない、と。ソルも似たようなことを言っていた気がする。
ただ、人間『は』と言うことは、ドラゴン側がその境界を越えてしまうのは、オーケーと言う決まりなのか。
だから、『龍の目撃情報』が数少ないながらも報告されているのか。
「それらは、不用意に越えてはいけないラインなの。龍は、独自にその境界を定めて、監視してるの。人間が過去の約束を破らないか」
「それは……何も言えないな……」
昔はお互いが同じ環境で生活していたが、人間の事情で龍を追いやった。
全ての根源は、人間だ。
よって、何とコメントしていいかレイズには分からない。例え、その時代に生きていなかったとしても、だ。
「その境界を人間が越えると、『歪み』が生じるの。それを感じたから、彼は来たの」
「そうか……」
レイズは話をつなぎながら、他の仲間のことを思う。
「…………」
もし、自分と同じように試練をクリアし、境界を越えたのだとしたら、同じようにドラゴンに会い、案内人の巫女がドラゴンだと知るだろう。
「ちいせぇ世界で生きてたな……」
分かりやすく頭を抱えるレイズ。
「レイズ?」
「あぁ……俺らは、何にも知らなかったんだな、って」
人間界とて広い。
しかし、『本当の意味での世界』は、レイズが想像しているよりも数倍、数十倍大きいのだろう。
人類は、その一部でしか生きていない。その中で、醜い争いが繰り返されている。
「……そうね。世界は広い。それに、今は人間が固まって暮らしているわ。だから、他の世界を知る機会がないのかも」
「そうだな……」
「そもそものきっかけは、人間側が共存を望まなかったこと。今は知らないけど、関係ない」
「!」
レイズは唾を飲み込む。
ソルの、明らかな怒りの感情。
歴史は、間違いなく伝えられている。幼いながらも、そこに感情移入しているのだろう。
「うん。分かってる」
「だから、試練を設けて、実力もある、龍の理解もある人間だけがここに来ることができるようにしたの。『歪み』の調整は、できなかったけれど」
「へぇ……」
それが、鏡の試練。
そこで、龍力者はふるいにかけられるのだ。
ただ、試練を突破した人間だからと言って、歪みが生じないようにはできずに、ドラゴンと邂逅する。
「私は生まれてまだ50年くらいだから、色々役目を与えられるの。修行中って感じかな」
「ごじゅうねん!?俺の4倍近いぞ……」
「龍は人間の何倍も生きるから……」
幼い龍、幼龍と言ったところか。
50年でこの大きさということは、先ほどのドラゴンは、200年くらい生きているのだろうか。
少なくとも、大きさは倍あった。よって、100年選手であることは違いないと言える。頭の悪い憶測だが。
そして、サンの役割。
突破者を連れて、龍界へと案内することも、そのうちの一つだろう。
そのために、人間に変身する必要性がある、ということか。
「……で、俺はどこまで行けばいいんだ?」
ようやく、気持ちも落ち着き、下肢に力が入るようになった。
気合を込める意味でも、レイズは太ももを叩き、立ち上がる。
「もうちょっと待ってね。会わせたい龍がいるから」
「…………」
長い年月を生きたサンの「もうちょっと」に若干の不安を覚えるレイズ。
「あぁ、行こうか」
「うん」
サンは微笑み、紅蓮の世界を軽々と歩き始める。
その後を必死で追いながら、彼はある考えを思いつく。
(まて。ここは龍の世界だ……試してみるか)
通常、戦闘中以外で龍力を使うことなどない。
しかし、龍力を使えば生身の人間を超越した力と、龍の属性に応じた特性が得られる。
自分は太陽龍。そして、ここは太陽龍が住む世界。
この環境も、太陽龍が固まっているからこそ、起きている変化だとしたら。
試してみる価値は十分にある。
「ふぅ~……よし」
ソルに敵意を感じさせないよう、コッソリ龍力を高めてみる。
この龍魂発動は、龍を攻撃するものではない。身を守るためのもの。
(対象は、俺。薄く、膜を張るイメージか……)
龍力オーラに包まれるレイズ。
力の流れを意識し、龍力漏れが最小限になるようコントロールしていく。
戦闘中にここまでの気配りは難しいが、徒歩程度の運動量なら、できないこともない。
(お、悪くないのでは……?)
すると、劣悪だった環境が緩和された気がした。
龍の世界を生きるには、はやり龍力が必須。
ただ、生き抜くための力の『質』は分からないままだ。それぞれに対応した龍の力が必要なのか、龍力であれば何でも良いのか。それはレイズが太陽龍である以上、永遠に分からないだろう。
何故なら、レイズは他の龍の遺跡や神殿に行っても、鏡を抜けることができないからだ。
(ま、今はここだな)
レイズは考えを止め、ソルについて行く。
そもそも、先ほどの考えは考えるだけ無駄だ。
自分が他の遺跡の深部に足を踏み入れることはないだろうし、他の仲間が太陽龍遺跡の深部にくることもないだろうから、だ。
(……早く着かないかな)
龍魂により、環境に適応しつつあるレイズ。
ただし、人間にとってキツイ環境であることに変わりはないため、心は休まらない。
精神科にも辛い状況と戦いながら彼はサンの後に続くのだった。
サンの存在、周囲の熱さ、お漏らししてしまいそうな膀胱の高ぶりも忘れ、ただ呆けている。
心臓の音が、全身に響いているが、彼にはその音すら、入ってこない状態だ。
「はぁ……はぁ……」
時間にして数分の出来事だが、本当に密の濃い時間だった。
遺跡に来てから、信じられないことばかりだ。
「……平気?」
「ぁ……」
ドラゴンに変身したサンは、今は子供の姿になっている。
いや、本来なら『人間の姿になっていたドラゴン』と言うのが正しいだろう。
「さっきのは番龍ね。『歪み』を察知してやってくるの」
「そ、そう、か……」
改めて、まじまじとサンを見つめるレイズ。
本当に、どこをどう見ても、少女の見た目。「龍が変身している」と言われても、信じる人間はいないだろう。
ドラゴンは、人の姿に変身する能力まで有しているらしい。
「……なぁ、ドラゴンは全員、人の姿に変身できるのか?」
「ううん、全員じゃないみたい。『その必要性がある龍だけ』なれるって。難しいことは分かんない」
苦い顔で表情を曇らせるその姿は、年相応の子供だ。
そのことに若干の微笑ましさを感じながら、レイズは続ける。
「そうか……で、『歪み』って?」
「この世界は広いの。現状『人間界』と『龍界』に分かれてるのね。当然、人間はその境界を超えてはならないって。約束?がどうとか……」
「あぁ……そうらしいな……」
これも、バージルから聞いている。
人間の世界と龍の世界は互いに干渉しない、と。ソルも似たようなことを言っていた気がする。
ただ、人間『は』と言うことは、ドラゴン側がその境界を越えてしまうのは、オーケーと言う決まりなのか。
だから、『龍の目撃情報』が数少ないながらも報告されているのか。
「それらは、不用意に越えてはいけないラインなの。龍は、独自にその境界を定めて、監視してるの。人間が過去の約束を破らないか」
「それは……何も言えないな……」
昔はお互いが同じ環境で生活していたが、人間の事情で龍を追いやった。
全ての根源は、人間だ。
よって、何とコメントしていいかレイズには分からない。例え、その時代に生きていなかったとしても、だ。
「その境界を人間が越えると、『歪み』が生じるの。それを感じたから、彼は来たの」
「そうか……」
レイズは話をつなぎながら、他の仲間のことを思う。
「…………」
もし、自分と同じように試練をクリアし、境界を越えたのだとしたら、同じようにドラゴンに会い、案内人の巫女がドラゴンだと知るだろう。
「ちいせぇ世界で生きてたな……」
分かりやすく頭を抱えるレイズ。
「レイズ?」
「あぁ……俺らは、何にも知らなかったんだな、って」
人間界とて広い。
しかし、『本当の意味での世界』は、レイズが想像しているよりも数倍、数十倍大きいのだろう。
人類は、その一部でしか生きていない。その中で、醜い争いが繰り返されている。
「……そうね。世界は広い。それに、今は人間が固まって暮らしているわ。だから、他の世界を知る機会がないのかも」
「そうだな……」
「そもそものきっかけは、人間側が共存を望まなかったこと。今は知らないけど、関係ない」
「!」
レイズは唾を飲み込む。
ソルの、明らかな怒りの感情。
歴史は、間違いなく伝えられている。幼いながらも、そこに感情移入しているのだろう。
「うん。分かってる」
「だから、試練を設けて、実力もある、龍の理解もある人間だけがここに来ることができるようにしたの。『歪み』の調整は、できなかったけれど」
「へぇ……」
それが、鏡の試練。
そこで、龍力者はふるいにかけられるのだ。
ただ、試練を突破した人間だからと言って、歪みが生じないようにはできずに、ドラゴンと邂逅する。
「私は生まれてまだ50年くらいだから、色々役目を与えられるの。修行中って感じかな」
「ごじゅうねん!?俺の4倍近いぞ……」
「龍は人間の何倍も生きるから……」
幼い龍、幼龍と言ったところか。
50年でこの大きさということは、先ほどのドラゴンは、200年くらい生きているのだろうか。
少なくとも、大きさは倍あった。よって、100年選手であることは違いないと言える。頭の悪い憶測だが。
そして、サンの役割。
突破者を連れて、龍界へと案内することも、そのうちの一つだろう。
そのために、人間に変身する必要性がある、ということか。
「……で、俺はどこまで行けばいいんだ?」
ようやく、気持ちも落ち着き、下肢に力が入るようになった。
気合を込める意味でも、レイズは太ももを叩き、立ち上がる。
「もうちょっと待ってね。会わせたい龍がいるから」
「…………」
長い年月を生きたサンの「もうちょっと」に若干の不安を覚えるレイズ。
「あぁ、行こうか」
「うん」
サンは微笑み、紅蓮の世界を軽々と歩き始める。
その後を必死で追いながら、彼はある考えを思いつく。
(まて。ここは龍の世界だ……試してみるか)
通常、戦闘中以外で龍力を使うことなどない。
しかし、龍力を使えば生身の人間を超越した力と、龍の属性に応じた特性が得られる。
自分は太陽龍。そして、ここは太陽龍が住む世界。
この環境も、太陽龍が固まっているからこそ、起きている変化だとしたら。
試してみる価値は十分にある。
「ふぅ~……よし」
ソルに敵意を感じさせないよう、コッソリ龍力を高めてみる。
この龍魂発動は、龍を攻撃するものではない。身を守るためのもの。
(対象は、俺。薄く、膜を張るイメージか……)
龍力オーラに包まれるレイズ。
力の流れを意識し、龍力漏れが最小限になるようコントロールしていく。
戦闘中にここまでの気配りは難しいが、徒歩程度の運動量なら、できないこともない。
(お、悪くないのでは……?)
すると、劣悪だった環境が緩和された気がした。
龍の世界を生きるには、はやり龍力が必須。
ただ、生き抜くための力の『質』は分からないままだ。それぞれに対応した龍の力が必要なのか、龍力であれば何でも良いのか。それはレイズが太陽龍である以上、永遠に分からないだろう。
何故なら、レイズは他の龍の遺跡や神殿に行っても、鏡を抜けることができないからだ。
(ま、今はここだな)
レイズは考えを止め、ソルについて行く。
そもそも、先ほどの考えは考えるだけ無駄だ。
自分が他の遺跡の深部に足を踏み入れることはないだろうし、他の仲間が太陽龍遺跡の深部にくることもないだろうから、だ。
(……早く着かないかな)
龍魂により、環境に適応しつつあるレイズ。
ただし、人間にとってキツイ環境であることに変わりはないため、心は休まらない。
精神科にも辛い状況と戦いながら彼はサンの後に続くのだった。
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