395 / 469
新たなる龍
ドラゴン
しおりを挟む
ドラゴンとの邂逅。
それ自体は十二分に理解できている。が、頭が回っていない。
時間が止まったように感じる。
「…………」
規模感は桁違いだが、身体は、トカゲや蛇に近い。
ただ、ドラゴンの名に恥じない、超強力な佇まいだ。
何の攻撃も通しそうにない鱗。色は真っ赤だ。筋肉隆々な腕や足。剣のように大きな爪。
背中からは、飛行艇の倍はある翼がある。これも赤い。
そして、恐ろしい顔。小さく口を開けているだけの状態だが、それだけで視認できるほどの牙。
それは、当然鋭く、巨大。死を連想されるには十分だ。
萌えるような赤い目が動き、レイズを捕える。
「ッ……!」
睨まれるまで何秒かかったのか、全くカウントしていなかったが、相当な時間が経過していたように思えた。
時間が止まったように感じてから、ずっと呼吸を忘れていたレイズは、慌てて空気を肺に入れる。
「はぁ……ッ……」
ドラゴンが近くにいるからか、焼けるように空気が熱いが、全く気にならない。
それよりも、ドラゴンと目が合ったことの方がよっぽど重要だ。
生物の頂点に立つドラゴン。眉唾物の目撃情報がある、と聞かされた程度で、大多数の人間と同じように「滅んだ」と聞かされていた存在。
目の前に、その生きたドラゴンがいる。
周囲の環境変化とも相まって、情報が膨大に膨れ上がっている。
レイズのIQが高いとは言えない脳では、処理に時間がかかる。
その結果、時間がかかりすぎ、思考が停止したように自分でも感じてしまう。
「あ……あ……」
声を出そうにも、喉が閉じており、上手く発声できない。
「ニン……ゲン……」
「!?」
ドラゴンが、喋った。
低く、しゃがれた声。
「ニンゲンが……」
顔や口の大きさからしても、大して開けていない口。
それなのに、海の底のように深さと恐怖を感じた。
「……!」
だが、悠長に恐怖を感じている場合ではない。
ドラゴンの口元に、炎が見える。
本物の、ドラゴンが吐く火炎。小さなそれだが、空気が焦げる。
「ここは、シンセイなるドラゴンのチ……」
怒りが籠っているような声。
思考は相変わらず停滞しているが、自分がドラゴンの逆鱗に触れたことだけは理解できた。
「タチサレ……!!」
そう言い放ち、ドラゴンは強大な火の玉を吐いた。
だが、レイズは動けない。脚が震え、呼吸は止まったままだ。
玉が、直撃する。
「ッ……!!」
レイズは反射的に目を閉じる。
火の玉が何かに直撃する音、弾ける音が周囲に響く。
しかし、火の玉はレイズに当たることはなかった。
「…………!?」
レイズは恐る恐る目を開ける。
すると、そこには、もう一体のドラゴンが自分を守るように間に入っていた。
火の玉を吐いたドラゴンより一回り小さいが、それでも大きい。
「……待って」
その小さいドラゴンは、図体に似合わない、高い声だった。
しかも、最近聞いた声。質感は、異なるが。
「この声……」
レイズはハッとする。聞き覚えのある声に、彼の思考が働き始める。
先ほどまでよく耳にしていた、小さい少女の声によく似ている。
「ジャマをするな!サン!!」
「サン……こいつが……!?」
人間の姿だった少女。それが、今はドラゴンの姿になり、あのドラゴンの攻撃から自分を守った。
いや待て、そもそも、人間がドラゴンになった?いや、ドラゴンだった少女が人間に変身している?
レイズの頭の中はぐちゃぐちゃだ。
「ドケ……!」
「だから待って。彼は、『合格者』よ。それに、『彼女』もいる。感じないの?」
「ナニ……?」
サンはドラゴンを説得(?)してくれているらしい。
「私が証明」だの言っていたのは、コレのことか?レイズは状況を把握することで精一杯だ。
「…………」
サンの言葉に、攻撃的だったドラゴンが動きを止めた。
火炎も収まり、口が完全に閉じられる。
彼女越しに、自分を見るように首を動かしている。
見られているだけで、その瞳に吸い込まれそうだ。
「…………」
「く……」
グルル、と機嫌悪そうに喉を鳴らすドラゴン。
「ホントウだな?……ナニもカンジナイが」
「……今は怯えているだけ」
それを聞き、ドラゴンは鼻を鳴らした。
「フン……コモノにしかミエンがな」
「それでも、私が証明する。この命に誓って」
ドラゴンの小言に、何も言えないレイズ。「コモノ」の小言を、否定できない。
実際、現れたドラゴンよりも小さい上に、龍力も劣っている。
龍魂を使える人間と比較したとて、自分は弱い部類に入るだろう。
「でも、試練は突破してる。『歪み』じゃなくて、正常よ」
「……なら、いい」
そう言い残し、ドラゴンは真っ赤な空へ飛び立った。
翼の羽ばたき一回で生まれる風量。大地を蹴った時の重量感。飛び去った後に残る残存龍力。
全てが『龍力者』を超越している。
人類は、この力の片鱗を扱っているのか。
道理で、厳しい試練を課している訳だ。
「…………」
嵐のような時間だった。
その状況に開いた口が塞がらないレイズ。ただ一つ言えることは、とりあえず自分は助かったらしい。
へな、と、レイズは腰から力が抜けるのを感じながら、座り込む。
助かったその現実に、激しい感動を感じながら。
それ自体は十二分に理解できている。が、頭が回っていない。
時間が止まったように感じる。
「…………」
規模感は桁違いだが、身体は、トカゲや蛇に近い。
ただ、ドラゴンの名に恥じない、超強力な佇まいだ。
何の攻撃も通しそうにない鱗。色は真っ赤だ。筋肉隆々な腕や足。剣のように大きな爪。
背中からは、飛行艇の倍はある翼がある。これも赤い。
そして、恐ろしい顔。小さく口を開けているだけの状態だが、それだけで視認できるほどの牙。
それは、当然鋭く、巨大。死を連想されるには十分だ。
萌えるような赤い目が動き、レイズを捕える。
「ッ……!」
睨まれるまで何秒かかったのか、全くカウントしていなかったが、相当な時間が経過していたように思えた。
時間が止まったように感じてから、ずっと呼吸を忘れていたレイズは、慌てて空気を肺に入れる。
「はぁ……ッ……」
ドラゴンが近くにいるからか、焼けるように空気が熱いが、全く気にならない。
それよりも、ドラゴンと目が合ったことの方がよっぽど重要だ。
生物の頂点に立つドラゴン。眉唾物の目撃情報がある、と聞かされた程度で、大多数の人間と同じように「滅んだ」と聞かされていた存在。
目の前に、その生きたドラゴンがいる。
周囲の環境変化とも相まって、情報が膨大に膨れ上がっている。
レイズのIQが高いとは言えない脳では、処理に時間がかかる。
その結果、時間がかかりすぎ、思考が停止したように自分でも感じてしまう。
「あ……あ……」
声を出そうにも、喉が閉じており、上手く発声できない。
「ニン……ゲン……」
「!?」
ドラゴンが、喋った。
低く、しゃがれた声。
「ニンゲンが……」
顔や口の大きさからしても、大して開けていない口。
それなのに、海の底のように深さと恐怖を感じた。
「……!」
だが、悠長に恐怖を感じている場合ではない。
ドラゴンの口元に、炎が見える。
本物の、ドラゴンが吐く火炎。小さなそれだが、空気が焦げる。
「ここは、シンセイなるドラゴンのチ……」
怒りが籠っているような声。
思考は相変わらず停滞しているが、自分がドラゴンの逆鱗に触れたことだけは理解できた。
「タチサレ……!!」
そう言い放ち、ドラゴンは強大な火の玉を吐いた。
だが、レイズは動けない。脚が震え、呼吸は止まったままだ。
玉が、直撃する。
「ッ……!!」
レイズは反射的に目を閉じる。
火の玉が何かに直撃する音、弾ける音が周囲に響く。
しかし、火の玉はレイズに当たることはなかった。
「…………!?」
レイズは恐る恐る目を開ける。
すると、そこには、もう一体のドラゴンが自分を守るように間に入っていた。
火の玉を吐いたドラゴンより一回り小さいが、それでも大きい。
「……待って」
その小さいドラゴンは、図体に似合わない、高い声だった。
しかも、最近聞いた声。質感は、異なるが。
「この声……」
レイズはハッとする。聞き覚えのある声に、彼の思考が働き始める。
先ほどまでよく耳にしていた、小さい少女の声によく似ている。
「ジャマをするな!サン!!」
「サン……こいつが……!?」
人間の姿だった少女。それが、今はドラゴンの姿になり、あのドラゴンの攻撃から自分を守った。
いや待て、そもそも、人間がドラゴンになった?いや、ドラゴンだった少女が人間に変身している?
レイズの頭の中はぐちゃぐちゃだ。
「ドケ……!」
「だから待って。彼は、『合格者』よ。それに、『彼女』もいる。感じないの?」
「ナニ……?」
サンはドラゴンを説得(?)してくれているらしい。
「私が証明」だの言っていたのは、コレのことか?レイズは状況を把握することで精一杯だ。
「…………」
サンの言葉に、攻撃的だったドラゴンが動きを止めた。
火炎も収まり、口が完全に閉じられる。
彼女越しに、自分を見るように首を動かしている。
見られているだけで、その瞳に吸い込まれそうだ。
「…………」
「く……」
グルル、と機嫌悪そうに喉を鳴らすドラゴン。
「ホントウだな?……ナニもカンジナイが」
「……今は怯えているだけ」
それを聞き、ドラゴンは鼻を鳴らした。
「フン……コモノにしかミエンがな」
「それでも、私が証明する。この命に誓って」
ドラゴンの小言に、何も言えないレイズ。「コモノ」の小言を、否定できない。
実際、現れたドラゴンよりも小さい上に、龍力も劣っている。
龍魂を使える人間と比較したとて、自分は弱い部類に入るだろう。
「でも、試練は突破してる。『歪み』じゃなくて、正常よ」
「……なら、いい」
そう言い残し、ドラゴンは真っ赤な空へ飛び立った。
翼の羽ばたき一回で生まれる風量。大地を蹴った時の重量感。飛び去った後に残る残存龍力。
全てが『龍力者』を超越している。
人類は、この力の片鱗を扱っているのか。
道理で、厳しい試練を課している訳だ。
「…………」
嵐のような時間だった。
その状況に開いた口が塞がらないレイズ。ただ一つ言えることは、とりあえず自分は助かったらしい。
へな、と、レイズは腰から力が抜けるのを感じながら、座り込む。
助かったその現実に、激しい感動を感じながら。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
黄金蒐覇のグリード 〜力と財貨を欲しても、理性と対価は忘れずに〜
黒城白爵
ファンタジー
とある異世界を救い、元の世界へと帰還した玄鐘理音は、その後の人生を平凡に送った末に病でこの世を去った。
死後、不可思議な空間にいた謎の神性存在から、異世界を救った報酬として全盛期の肉体と変質したかつての力である〈強欲〉を受け取り、以前とは別の異世界にて第二の人生をはじめる。
自由気儘に人を救い、スキルやアイテムを集め、敵を滅する日々は、リオンの空虚だった心を満たしていく。
黄金と力を蒐集し目指すは世界最高ランクの冒険者。
使命も宿命も無き救世の勇者は、今日も欲望と理性を秤にかけて我が道を往く。
※ 更新予定日は【月曜日】と【金曜日】です。
※第301話から更新時間を朝5時からに変更します。
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる