龍魂

ぐらんじーた

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新たなる龍

ドラゴン

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ドラゴンとの邂逅。
それ自体は十二分に理解できている。が、頭が回っていない。
時間が止まったように感じる。

「…………」

規模感は桁違いだが、身体は、トカゲや蛇に近い。

ただ、ドラゴンの名に恥じない、超強力な佇まいだ。
何の攻撃も通しそうにない鱗。色は真っ赤だ。筋肉隆々な腕や足。剣のように大きな爪。

背中からは、飛行艇の倍はある翼がある。これも赤い。
そして、恐ろしい顔。小さく口を開けているだけの状態だが、それだけで視認できるほどの牙。
それは、当然鋭く、巨大。死を連想されるには十分だ。

萌えるような赤い目が動き、レイズを捕える。

「ッ……!」

睨まれるまで何秒かかったのか、全くカウントしていなかったが、相当な時間が経過していたように思えた。
時間が止まったように感じてから、ずっと呼吸を忘れていたレイズは、慌てて空気を肺に入れる。

「はぁ……ッ……」

ドラゴンが近くにいるからか、焼けるように空気が熱いが、全く気にならない。

それよりも、ドラゴンと目が合ったことの方がよっぽど重要だ。
生物の頂点に立つドラゴン。眉唾物の目撃情報がある、と聞かされた程度で、大多数の人間と同じように「滅んだ」と聞かされていた存在。

目の前に、その生きたドラゴンがいる。
周囲の環境変化とも相まって、情報が膨大に膨れ上がっている。
レイズのIQが高いとは言えない脳では、処理に時間がかかる。
その結果、時間がかかりすぎ、思考が停止したように自分でも感じてしまう。

「あ……あ……」

声を出そうにも、喉が閉じており、上手く発声できない。

「ニン……ゲン……」
「!?」

ドラゴンが、喋った。
低く、しゃがれた声。

「ニンゲンが……」

顔や口の大きさからしても、大して開けていない口。
それなのに、海の底のように深さと恐怖を感じた。

「……!」

だが、悠長に恐怖を感じている場合ではない。
ドラゴンの口元に、炎が見える。
本物の、ドラゴンが吐く火炎。小さなそれだが、空気が焦げる。

「ここは、シンセイなるドラゴンのチ……」

怒りが籠っているような声。
思考は相変わらず停滞しているが、自分がドラゴンの逆鱗に触れたことだけは理解できた。

「タチサレ……!!」

そう言い放ち、ドラゴンは強大な火の玉を吐いた。
だが、レイズは動けない。脚が震え、呼吸は止まったままだ。

玉が、直撃する。

「ッ……!!」

レイズは反射的に目を閉じる。

火の玉が何かに直撃する音、弾ける音が周囲に響く。
しかし、火の玉はレイズに当たることはなかった。

「…………!?」

レイズは恐る恐る目を開ける。
すると、そこには、もう一体のドラゴンが自分を守るように間に入っていた。
火の玉を吐いたドラゴンより一回り小さいが、それでも大きい。

「……待って」

その小さいドラゴンは、図体に似合わない、高い声だった。
しかも、最近聞いた声。質感は、異なるが。

「この声……」

レイズはハッとする。聞き覚えのある声に、彼の思考が働き始める。
先ほどまでよく耳にしていた、小さい少女の声によく似ている。

「ジャマをするな!サン!!」
「サン……こいつが……!?」

人間の姿だった少女。それが、今はドラゴンの姿になり、あのドラゴンの攻撃から自分を守った。
いや待て、そもそも、人間がドラゴンになった?いや、ドラゴンだった少女が人間に変身している?
レイズの頭の中はぐちゃぐちゃだ。

「ドケ……!」
「だから待って。彼は、『合格者』よ。それに、『彼女』もいる。感じないの?」
「ナニ……?」

サンはドラゴンを説得(?)してくれているらしい。
「私が証明」だの言っていたのは、コレのことか?レイズは状況を把握することで精一杯だ。

「…………」

サンの言葉に、攻撃的だったドラゴンが動きを止めた。
火炎も収まり、口が完全に閉じられる。

彼女越しに、自分を見るように首を動かしている。
見られているだけで、その瞳に吸い込まれそうだ。

「…………」
「く……」

グルル、と機嫌悪そうに喉を鳴らすドラゴン。

「ホントウだな?……ナニもカンジナイが」
「……今は怯えているだけ」

それを聞き、ドラゴンは鼻を鳴らした。

「フン……コモノにしかミエンがな」
「それでも、私が証明する。この命に誓って」

ドラゴンの小言に、何も言えないレイズ。「コモノ」の小言を、否定できない。
実際、現れたドラゴンよりも小さい上に、龍力も劣っている。
龍魂を使える人間と比較したとて、自分は弱い部類に入るだろう。

「でも、試練は突破してる。『歪み』じゃなくて、正常よ」
「……なら、いい」

そう言い残し、ドラゴンは真っ赤な空へ飛び立った。
翼の羽ばたき一回で生まれる風量。大地を蹴った時の重量感。飛び去った後に残る残存龍力。
全てが『龍力者』を超越している。

人類は、この力の片鱗を扱っているのか。
道理で、厳しい試練を課している訳だ。

「…………」

嵐のような時間だった。
その状況に開いた口が塞がらないレイズ。ただ一つ言えることは、とりあえず自分は助かったらしい。

へな、と、レイズは腰から力が抜けるのを感じながら、座り込む。
助かったその現実に、激しい感動を感じながら。
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