龍魂

ぐらんじーた

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新たなる龍

命令違反

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騎士団長クラッツ。そして、レイズたち一行は、とんでもないスピードで山を駆け降りている。
道なき道を走る。生い茂る木々や草花の合間。一瞬一瞬で、どこを駆け抜けたら良いのかを判断し、ひたすらに走る。

当然、四聖龍の姿はない。
自分たちを生かすために、四聖龍は犠牲になるのか。

そんなこと、許されない。
許されないが、どうにかできる実力がない。

最後尾を走りながらも、レイラは何度も振り返っている。
もう何度目か分からないくらい振り返ってきた。そして、今回の振り返りもその一回。

「ッ……!?」

に終わるはずだった。が、彼女は違和感を覚える。
そして、彼女は目を大きく見開いた。そして、一度目をこすり、再度後方を確認した。

後方を確認しているのは、レイラだけではない。ただ、彼女は一段とそれが多い。
よって、他のメンバーよりも遅れが出てしまう。

「レイラ!遅れてるぞ!!」

団長に言われ、彼女は慌てて前を向いた。

「ッ!」

別荘があったであろう位置からは、凄まじい龍力の衝突が幾度となく発生している。

レイズたちも龍魂に慣れてきたため、離れた場所からでも、龍力の大小が分かるようになってきた。
そして、『どちらが優勢なのか』も。

敵は五人。対する四聖龍は四人。
それに、ヒューズはウィーンとアレク二人を相手にし、勝っている。
シャレムとアリシアの実力が未知数とは言え、不利すぎる。

事実、押されているようだった。

「そんな……皆死んじゃう……!」

ミーネは泣きながら走っている。かと言って、自分があの場で戦うなんて想像できない。

「ッ……!!」

ミーネの悲痛な叫びに、誰一人『大丈夫』と口にできない。
そんな根拠のない気休めは不要だ。それに、他の仲間も少なからずそう思っている。

現王であるレイラや、団長。そして、自分たちを逃がすために、彼らは、彼女らは命を捨てる。
離脱の時間を稼ぐために。

だが、その先はどうなる。
ハーストのヒント。それに、レイが『ここだ』といったこと。それらから考えるに、グランズとの距離は目と鼻の先のはず。したがって、四聖龍が負けた後、彼らはグランズを見つけ、手に入れてしまうだろう。
そうなれば、二度とグランズと会うことはできなくなる。

「く……!!」

四聖龍とグランズを同時に失うことは、騎士団にとって、修復不可能な痛手になる。
いくら自分たちのレベルが底上げされたとはいえ、彼らの力には及ばない。
四聖龍は騎士団の陰の希望。英雄なのだ。
その上、やっと見つけた王まで敵に奪われたとなれば、国民に顔向けできない。
それに、グランズは真実を自らの口で言う必要がある。

どちらも、失う訳にはいかない。
かと言って、自分たちがノコノコ戻っていけば、現王及び、騎士団の表立った最高戦力は全滅する。
どれかを捨てなければ、本当に「先」がなくなるこの選択。

騎士団長は自分たちを生かす道を選んだ。
現王とはいえ、騎士団所属の身であるレイラは、その名に従うべきだ。
しかし。

「……皆さん」

レイラは、ついに足を止めた。

「レイラ!?」
「先に行っててください。私は、戻ります」
「は!?」
「……ふざけているのか?」

いつになく怖い顔で、クラッツがレイラに歩み寄る。

「……いいえ。本気です」
「そうか……だが、到底容認できない」
「容認できないから、何です?」

蒼い瞳の中の龍。
それに睨まれ、クラッツはたじろいでしまう。

「……命令違反だ。阻止する。と言ったら?」
「戦ってでも、行きます。今のあなたに、私は負けない」
「……!」

クラッツは、分かりやすく頭を抱えた。レイラがここまで言うとは。
彼が考えていた、恐れていた事態が起こってしまった。

上下関係において無視できない、騎士団内の実力。
(レイの部隊の例外を除き)団長が最も強く、以下、隊長クラス続き、小隊を率いる。
これが自然。

しかし、シャンバーレに行った辺りから『ねじれ』が生じている。
団内最強であるはずの団長が、いつの間にか一団員に追い抜かれているのだ。
もちろん、団長が弱いのではない。ただ、レイラたちの進化が速すぎるだけ。

普段の業務内容も関係しているだろう。
本部で指示を飛ばしたり、現地で隊長と打ち合わせをしたりしているクラッツ。
常に前線で戦い、自分の龍を磨いてきたレイラ。それも、ほとんどがギリギリの戦いだ。
どちらが伸びるかは、素人でも分かる。

「待て。お前が行くなら、僕も行く」
「!……なら、俺たちだって……」

しかし、レイラはその申し出をはっきりと断る。

「……いいえ。気持ちだけで十分です。絶対に来ないでください」

口ではそう言いながらも、「戻ってどうなる?」とレイラは自分に言い聞かせる。
しかし、もう気持ちの整理が追い付かない。それに、確認したいこともある。

「おい……!」
「大丈夫です。真正面からぶつかる気はありません」

戦闘のために戻るのではない、とレイラは念押しする。

「……!!」

レイズたちは口を開くが、言葉が出てこない。
口ではああ言っているが、黙って物陰から見ているなど、そんなことできるとは思えない。
が、彼女も理解しているはず。今の実力で、ヒューズたちに剣を向けることが、どれだけ無謀化を。

それでも「戻る」と言うのは、彼女の強すぎる責任感だろう。
探しているのは、自分の父。ある意味無関係な人間まで巻き込み、戦闘に参加させている。
なぜその当事者である自分が、早々に戦線離脱しているのか。
騎士団の希望を、英雄を置いて逃げようとしているのか。団長命令でも、現王としての自分がそれを許せない。

我慢の限界なのだろう。

「信じられるか。だから、僕も……」

リゼルが前に出ようとする。そこで、レイラは手を前に出した。
ヴン、と何かしらの龍力が発動している。

「通しません。と言うか、通れませんよね」
「な……!!」

レイラを中心に、否、ここら一体と、レイラを分断するような形式で展開された、神秘的に光るオーラの壁。
これは、光龍のオーラを壁状にしたものか。
いつかバージルが見せた、風の壁に似ている。が、規模も厚さも桁違いだ。

当然、誰一人壁の向こう側へと行くことができない。
彼女を上回る龍力があれば別なのだろうが、ここにそんな人材はいない。

「……では、後ほど」

レイラは光を纏うと、一瞬で姿を消した。
姿は消えたが、壁は消えていない。龍力者本人が離れた後も、堂々とそこに展開されている。

「くそ……レイラ……」

残された仲間は、何とも言えない気持ちに陥るのだった。
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