龍魂

ぐらんじーた

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新たなる龍

太陽と月

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互いの力が充分に充填されたと同時に、二人は走り出した。
フォームは違うが、お互いほぼ同時に剣を振る。
龍力の軌跡を描きながら、太陽の力と月の力がぶつかった。

「「!!」」

衝突の衝撃に耐えきれず、レイズは体勢を崩し、数歩後退してしまう。
対して、リゼルは安定した姿勢を崩していない。
戦闘技術の優劣もあるだろうが、ここでの後退は龍力差によるものが大きい。

「……そんなものか?」

今すぐ止めても良い、とでも言いたげに、彼は剣をしまう素振りを見せる。

「く……!!」

たった一発。されど一発だ。
実際の戦闘では、この一発がきっかけとなり、戦況が変わることだって普通にある。

ドラゴン・ソウルレベルの戦闘ならば過度に反応するレベルではないかもしれない。
だが、自分たちが挑もうとしている領域は、ドラゴン・ソウルとは別次元だ。

初手でこけると、一気に勝負が決まってしまう。

(腕力に頼んな!!バカが!!)

全体の筋肉量的には、明らかにレイズの方が有利だ。同程度の鍔迫り合いならば、押し返せる自信があった。
だが、それは炎龍時代の妄想。いい加減、目覚めろ。

「まだまだッ!!」

地面を蹴り、大きく跳ぶレイズ。
太陽龍のオーラを放ち、剣と共にリゼルにぶつかる。

「「!!」」

二度目の衝突。
今度は吹っ飛ばされなかった。しかし、押されている。
刃同士が音を立て、相手の肉を裂こうと機会を窺っている。

(やっぱ仕上げえてやがる……!!)

自分とほぼ同時期に龍魂がリセットされたのに、リゼルは這い上がってきている。
『自ら捨てた者』と、『原因不明で不本意な者』とでは、状況を受容するまでに差はあるだろう。
その背景がある故に、レイズは鍔迫り合いに耐えながらも、口を開く。

「病み上がりに、容赦ねぇな……?」
「……お前の要望だ」

そりゃそうだ、と納得するレイズ。
『これ』がやりたくて、自分はリゼルに頼んだのだ。

「それに、未来は手加減しない」
「ッ!」

リゼルの目の色が変わる。
髪の色と同じく、闇色の瞳が、更に濃くなった。

「黒月閃」

月の影の部分をイメージした、弧を描くような剣技。
非力なリゼルだが、龍力の腕は本物だ。技を使うだけでなく、その安定感も桁違い。
闇龍の時と、何ら遜色がない。

「…………」

静かに口角を上げるレイズ。

さすがリゼルだ。闇龍時代の龍力に、ここまで追いついているとは。
それに、ソルと戦った時より、龍力が綺麗になっている。これは、身体・精神面での影響を最小限に抑え、龍力を使えている証拠である。

(負けるか!!)

自分も負けていない。

レイズは敢えて、炎龍の時のような心を燃やすような鍛錬ではなく、ソルやソルファを思い描きながら穏やかに龍を高めるという方針へシフトした。

以前の自分なら、身体に負荷をかければかけるほど良いと勘違いし、下手な特訓をしていただろう。
しかし、今は違う。身体の鍛錬は必要だが、龍力はそれと比例しない。
よって、自分と龍にあった方法が必要となる。

奮い立たせるように大きく剣を振り、龍力を充填する。
そして、また走り出す。

「おらぁ!!」
「!」

龍力と龍力。
刃と刃。
技と技。

激しくぶつかり合いながら、戦いは続く。
その最中、レイズは思う。自分が求めていたのは、『これ』だと。

リゼルを相手に選んだのは、理由がある。
似た時期に龍の属性が変わってしまった者同士、という理由で彼に頼んだこの勝負。
蓋を開けてみて確信したが、彼は自分より強く、そして……

(手合わせとは言ったけど……やっぱそうだ!!リゼルは本気で倒しに来る……!!)

そう。
彼は、騎士団試験の時ですら、全力だったとバージルから聞いている。
だから、殺しはしないだろうが、死ぬ直前位のダメージは負わせる気でぶつかってくるだろう。
だから、彼を選んだのだ。

(これで、『限界の戦い』ができる……!!)

レイズの思考を呼んだのか、リゼルは吠える。

「考え事か?ナメるな!」
「っせぇよ!」

戦場を舞う火の粉と、月龍のオーラの結晶。月の欠片とでも言うべきなのか。
それらが舞う中、二人は息つく暇もなく何度もぶつかっている。

規模感としては、『フル・ドラゴン・ソウル』には届かない。しかし、身体に感じる感覚は、その領域に踏み入れたと錯覚するレベルで、充実していた。

(『直結』するかは分かんねぇ……!けど、それとは無関係に悪くねぇ!!)

四聖龍が言っていた、龍の声。それが聞こえるということは、龍に認められたということ。
自分は、炎龍には認めてもらった。レイラだって、光龍に認めてもらっている。

声が聞こえる聞こえないの境目は完全に不明だし、きっかけも分からない。
だが、声が聞こえることで共通しているのは、限界の時や、限界を超えそうな時だ。

これは、命の危険を感じたときとも言い換えられる。
この勝負でそこまで再現するのは難しい。だが、レイラ以外にクソ厳しいリゼルなら、遠慮なく叩き潰しにくる。

(リゼル……頼むぜ)

考え事をしているか否か。それもバレているらしい。
だから、この思いを最後に、ごちゃごちゃ考えるのは止そう。

(……糧になってもらうぞ)

その瞬間、レイズは全ての雑念を捨て、リゼルに剣を振った。

「だぁッ!!」
「ッ!」

新調した刃にぶつかる剣。非常に重たい一撃だ。筋肉に緊張が走り、骨が軋む。
ここで初めて、リゼルが下がった。

「……ほぅ」
「へいへーい。『下がった』な?」
「図に乗るな」

久しぶりの戦いであることもそうだが、リゼルもかなり進化している。
彼もまた、適した鍛錬法を見つけたのだろう。

力の使い方を忘れたとはいえ、闇龍で龍魂の『経験』はある。
属性が変わり、技構成や龍術の構成も、全てが変わってしまった。だが、身体に刻まれた『経験』は無駄にならないようだ。

自分も、リゼルも。
素人が一から鍛えていくのとは、スピードが桁違いである。

「「…………」」

二人は剣を構え、静かに笑う。そして、同時に思う。

((こいつには、負けない))

と。
太陽と月の衝突は、もうしばらく続く。
片方が、倒れるまで。
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