龍魂

ぐらんじーた

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新たなる龍

最低条件

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「何言ってんだこいつ」状態の空気が一転。シン、と周囲は静まり返る。
仲間内の時間も止まり、直前の言葉を繰り返した。ただ、スッと入ってこない。

「…………」

突拍子もない言葉に、開いた口が塞がらない。
それもそのはず。知る者はごく一部なのだから。

(龍の声……?幻聴なんかじゃ、ない……?)

脳内でリフレインされる言葉。
『あの現象』は間違いなく、リアルでの出来事。
極限状態が作り上げた幻聴ではない。

その現象を、四聖龍であるシャレムは、真剣な眼差しで『龍の声』と言い切った。
レイズが予想した、自分を俯瞰している、もう一つの人格でもなく、バージルが言う幻聴などでもなく、『龍の声』と。

「え……?」
「ねぇ……マジっぽいけど……」

『龍の声』が聞こえていないバージル、マリナ、ミーネはお互いをチラ見する。
リゼルだけは、首をやや曲げ、前髪で表情を隠した。その髪の下は、何とも言えない感情で恐ろしい形相をしていただろう。

(どの口が、あいつを守るなど……!!)

腸が煮えくり返る思いだ。
レイラだけでなく、龍魂歴が浅いレイズですら聞こえているらしい。
それなのに、彼女と肩を並べる自分は、その兆しすらなかった。

ただ、可能性があるとするなら、『龍の声』を聞くのに、歴は関係ない、と言ったところか。

「シャレムさん。彼らが言うのは、本当(?)だと?」

レイラたちを疑うつもりは全くないが、クラッツは確認を取る。
彼女たちを不憫に思ったシャレムの助け舟、という可能性も小さいながら、あると思ったためだ。

「えぇ。ねぇ?アリシア。それと、二人も、でしょ?」
「うん」
「……だな」
「……『聞く力』があったとしても、それだけでは、ですけど」

三人は、当然だ、とでも言いたげに頷く。

「そう、ですか……」

クラッツは長く息をつく。

(新たな力?……いや、それ自体に能力アップする訳ではなく、通過点の一つ、か……)

腕を組み、考え込む団長。
四聖龍までもが言うなら、間違いない。
強さのレベルではないようだが、一つのステップアップのカギであることは変わりないらしい。
元々力の差はあったが、更に広がりそうだ。

団長だけではなく、仲間たちも、密かに悔しさを滲ませる。

「ち……」

中でも、リゼルは悔しさが人一倍だ。
何とか自分を抑制し、顔を上げても大丈夫なくらい表情を戻したつもりだ。
が、心の中は荒れに荒れている。

『龍の声』が幻聴ではないことは分かったが、レイズは言いそびれていたことを思い出した。

(あー……でも、炎龍はもういないしな……)

気になっていた『龍の声』のことを言えたのは良かったが、それは炎龍での話。
レイズの最初のパートナーであった炎龍は、いなくなってしまった。

そういう意味では、仲間内で最も先を歩いているのは、レイラということになる。

「龍の声は、自分のパートナーに認めてもらった証よ」
「パートナー……認めてもらった……証……」

ソルも、似たようなことを言っていた気がする。
最高のパートナーだったとか、好きだとか。

龍力を高めれば、その分、宿主の意識をぶん取ろうと龍の意識も強まる。
用は、ある種の阻害因子だと考えていたし、考えられていただろう。
それすらも超えていける可能性が、自分たち龍力者にはあるのだ。

「常に話しかけられる訳でもないし、最適解をくれる訳でもないわ。けど、『境界線』を超えるには、聞こえてた方がラクかもね」

龍の見解まで教えてくれるとは、最強じゃないか、とバージルは思っていたが、どうやらそういう訳でもないらしい。
必須ではないが、聞こえていた方がベターなスキル(?)なのだろうか。

「龍魂の深みを目指すなら、龍の声が聞こえてマイナスになることはないでしょうね。十中八九、敵メンバーも聞こえてるでしょう。だから、二人とも、誇っていいわ」
「はい……!」

四聖龍に認められ、レイラは胸が熱くなる。

「……聞こえるきっかけは人それぞれ。彼の言う限界ギリギリの時に冴える人もいるわ。もちろん、そうじゃない人も……ね。焦らなくても良いけど……そんな状況が状況だけにね……」

龍の声が聴こえる四聖龍ですら、ヒューズに勝てなかった。
つまり、彼らは更に上のステージを行っている。そのためには、自分のパートナーに認めてもらえることが最低条件なのだ。

「龍の声……更に知らなかったことだが……簡単なことではないことは分かっている。こちらは、引き続き戦力強化の道筋を探ろうと思う」

クラッツは、そうまとめた。

『フル・ドラゴン・ソウル』で一喜一憂しているレベルでは、到底適わない。
まさかここまで奥が深く、力の可能背を秘めているとは。
自分が地の技を得たときには想像もつかなかった。

「疲れているところ、済まなかった。ゆっくり休んでくれ。しばらく依頼は入れないでおく」
「はい」
「……解散だ」

一人、また一人と部屋を後にする。
最後に残ったのは、四聖龍の四人。珍しく、アレクも残っている。

「……シャレムさん」
「何?」
「いえ……」

アレクの何とも言えない返答。話しかけておいて、それはいかがなものか。

「ハッキリ言いなさいよ。いつもみたいに」
「……うまくぼかしましたね、と」
「はぁ?」
「『龍の声』は、確かに気まぐれです。ペアで戦うように常に声をかけてくる訳でも、当然何かしらの答えをくれるものでもない」
「で?」
「ですが、『次の領域』に行くには、最低条件のスキル」

なぜ、こうも繰り返すのか。
三人とも分かっているが、敢えて喋らせる。『龍の声』が聞こえる者同士が、それについて話せる場はそうそうない。

「なぜなら、その頃から『意識が持っていかれそうな感覚がなくなってくる』から」
「その通り」
「……彼らに言わなくても良かったのですか?あなたなら、言ってしまいそうですが」
「全部喋っちゃうのもつまんないのよ。それに、仲間同士での発見の方が、青春!!って感じがして良いわ」

青春!!のところで、拳に力を込めたシャレム。
龍魂と向き合い、特訓し、進化を実感したときのことを、噛み締めているかのようだ。

「それに、あんまり追い込んでも意味ないわ。リゼルの顔、おっそろしかったわよ」
「確かに……」

アリシアは、心の底から同意した。
本人は上手く隠したつもりで部屋を去ったのだろうが、四聖龍は全員知っている。

「……仲間同士で盛り上がるのは青春だけれど、色々デリケートな問題もある。だから、ある程度はぼかさないと、ね」

そう言い、窓の外へと視線を移すシャレム。
空は蒼。しかし、今後の国模様は、全く快晴ではないのが実情なのだった。
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