龍魂

ぐらんじーた

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新たなる龍

相性最悪

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マリナ対ソルは、ソルの勝利で幕を閉じた。
四聖龍との特訓で地力が上がったマリナだったが、それでもソルには届かなかった。

ソルは次の戦いに備えて準備体操をしているところだ。それに対し、マリナの方は、完全に力を使い果たしたために、座ったまま項垂れている。

「…………」

考えているのは、先ほどの戦闘のこと。
戦闘終盤、黄色い稲妻から蒼い稲妻へと龍力が変化した。その瞬間、自分の中の力が呼び起こされた気がしていた。
あれは、四聖龍との特訓で見え隠れしていた『先』の力だと思う。
ただ、それを発揮し、コントロールするには、あまりにも遅すぎた。
戦闘終盤だったし、シンプルに「蒼い稲妻状態」のエネルギー消費量が大きすぎる。

その状態で数回剣を交え、一見互角に戦えていたようにも見えていたが、それも僅かな時間だけ。
エネルギー切れにより、ピークが過ぎれば、あっという間に劣勢。
そして、力も引き出せなくなり、負けた。

(最ッ低の気分だわ……)

頭を抱えるマリナ。戦闘で傷んだ髪が、指の間を流れる。
数日前に「勝ち筋が見える」などと思った自分を、本気でビンタしたい。思い上がるな、バカが。と。
ただ、成長を実感できる点はあった。初戦の、ソルの力は超えることができていたためだ。
成果がなかったわけではない。が、精神的ダメージは計り知れない。

深くダメージを受けているであろうマリナを見つめているミーネ。

「…………」

声をかけるべきか?と一瞬思ったが、自分には戦闘が控えている。目の前のことに集中すべきだ。
多分、話しかけても怒られるだけだ。それに、かける言葉も見つからない。

(見てて。マリナ。『やるだけやってみる』から)

きゅ、と唇を固く結び、ソルと向き合ったミーネ。

「次はあなたね」
「…………」

あれだけの戦闘をこなした後なのに、もう呼吸が落ち着き、龍力も整っている。
それを見て、素直にミーネは思う。

「自分も確実に負ける」と。

それでも、自分は、自分たちはできるだけのことをやった。
その結果だ。

二人とも負け、レイズが龍魂を得られずに劣化するなら、自分は彼らの前から姿を消そう。
その代わり、太陽龍王の力をレイラたちのために使ってはくれないか、と願おう。
恩返しのための入団なのに、恩を返す相手を救えなかったのだから、身を引いてでも懇願するべきだろう。どんなに見苦しくても、彼らがいなければ、自分たちは今も、闇の中だったのだから。

勝てないだろうが、深手くらいは負わせてやろうか。
ミーネは細く、長く息を吹く。

「……うん。やろう」

あれこれ考えるのはヤメだ。ここまで来たら、全力をぶつけ、散るだけだ。
恐怖はあるが、目の前の戦いに集中しよう。

「……氷龍。少しだけの勇気を貸して」

彼女を中心に、気温が下がる。淡い蒼い龍力オーラが、彼女を包む。
龍力をベストまで高めるミーネ。それに伴い、少量の粉雪が舞う。

環境変化を感じ、マリナは顔を上げる。

「ミーネ……」

これが、先程までミーネが見ていた光景なのか。
龍力レベルは確実に上がっている。それなのに、纏うオーラの総量が、ソルよりも少ない。

(そんな……力の差が……それに……)

ミーネは氷龍。ソルは、太陽龍。
相性は最悪だ。先日の戦いでは、相性など関与する前に決着がついたため、相性がどうとか不利だとか喚く余裕はなかったが、今は思う。

(一番初心者が……一番不利な戦いって……)

彼女はこの中で龍魂の経験が一番浅い。とはいえ、自分も大して差はないのだが。
それでも、戦いに歴は考慮されない。だから、ミーネは戦う。

「絶氷!!龍剣!!」

剣に氷を纏わせ、突撃する。

だが、無駄だ。
ソルに近づくにつれ、纏う氷が溶けていく。
彼女を纏う龍にもその影響が現れており、舞う粉雪の数がどんどん減っていく。

「……!!」

分かっていた。
地力も違えば、龍の力量も違う。
自分の技が届かないことは、分かっていた。

「だからッて……!!」

止まる理由にはならない。
激しい熱に肌や喉を焼かれながらも、ミーネは走る。

その間、龍力を激しく充満させる。
溶けるスピードと、龍力で精製するスピード。
精製するスピードが勝てば、氷は溶けない(ように見える)。

「氷結刃!!」

物凄い精製スピードだが、ソルに近づくにつれ、どうしてもそのスピードが負ける。
彼女に辿り着くころには、薄い氷が残っている程度まで龍力が落ちていた。

「まだまだ!!ブリザード!!」

だが、ミーネは諦めない。全身全力で龍術を唱え、ぶつける。
氷龍の紋章が描かれ、氷の嵐がソルに向かって放たれる。
しかし、ソルには届かない。彼女が放つ龍力及びその熱が、氷をみるみる溶かしてしまう。

「……なら!!」

ミーネは地面に剣を刺し、亀裂を彼女まで走らせる。
異空間でも、地面が抉れたりするのは、戦闘で理解済みだ。

そして。

「アイスコフィン!!」

氷の棺桶。
氷の紋章を描き、放出する。亀裂から冷気が噴き出し、それを精製した。
地下からの強襲。足元の龍力レベルは低かったのか、初めて、龍術が届いた。

力は届いたものの、熱が干渉し、思うように発動しない。

「~~~~!!」

歯を限界まで噛み締めながらも、力の放出を続けるミーネ。

(すごい熱……!!でも、ここで止めたら……!!)

二度と立ち上がれない気がする。
だから、涙を堪え、渾身の龍力を放つ続ける。

龍の紋章を通じて伝わってくるソルの温度。
精製するスピードを最速にしても、彼女の温度により溶かされるスピードの方が速い。

「あ゛ぁ゛~~~~~~ッ!!」

全てを捨てて出している、年頃の女性らしからぬ声。
耐えろ。耐えるんだ、とミーネは自分に言い聞かせる。

だが。

ピシ、と何かが割れる音が周囲に響く。

「!!」

それは次第に感覚が短くなり、音も大きくなる。
そして、四方八方に、一気に亀裂が入り、氷の棺桶は割れてしまった。

「……溶かすだけだと思った?」

びしょ濡れのソルは、いたずらに微笑んだ。一度は氷漬けにされたというのに、なんという余裕の表情。
それだけでなく、ソルの剣に龍力が集まっている。反撃の準備が整っている証拠である。

「ミーネ!!逃げて!!」
「遅い!!紅蓮閃!!」
「!!」

龍力の調整に使ったブリザードに、最大冷力のアイスコフィン。

ミーネに残っている龍力は、残りわずかだ。
迫り来る太陽の力を前に、彼女は立ちすくんでいる。

「ぁ……」

瞳に映るは、紅蓮の炎。
彼女の意識は、そこで途切れる――――――
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