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新たなる龍
過剰龍力
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気合十分のバージルとソル。異空間に充満する龍力で空気が震えているようだ。
そんな中で行われている剣劇。ぶつかり合う龍力が、どんどん高まっていく。
(ッ……!!暇がねぇ!!)
目じりを走る汗を拭う暇も、鼻の頭に張り付いた髪の毛を払う暇もない。
そして、自分が最も「やりやすい」技の型を取っている時間もないし、取らせてくれる相手でもない。
一瞬一瞬の判断が命取り。そんな戦闘だ。
ただ、今までも強敵との戦闘はそうだったし、ここから先はそんな戦闘が当たり前になってくるだろう。
「これはどう!?」
「ッ!!」
ソルは、様々な体勢から技を繰り出してくる。柔軟な身体である、ソルファの身体能力を存分に活かしているのだろう。
どんな体勢からでも技が繰り出されるため、本当に余裕がない。バージルはそれをギリギリのところで避けたり、受け流したりしている。
今こそそれができているが、いつ読み切れなくなるかは本当に分からない。
「だぁっ!」
「!」
バージルの渾身の斬り。防いだように見えるソルだったが、ノーダメージではなかった様子。
つ、と口から一筋の血液が垂れる。
(手ごたえアリか!っ……けど、キチィな……!!)
戦闘開始後に比べ、バージルの動きも良くなっている。が、限界を超えた戦いで、身体と龍の呼吸が合っていない。
よって、龍力を過剰に消費している。
ソルは血を拭い、走り出す。
すぐさま剣劇が再開し、荒々しい龍力が空間を揺らす。
(惜しいわね……本当に……)
当然、彼女はバージルの龍魂のことを見抜いている。
このままでは、こちらが大して大技を打たなくても、勝手に自滅する。
ならば、こちらも力をセーブできる。
「くそ……!」
「効かないわ」
一回一回の攻撃に無駄がありすぎる。
必要以上の力をそこに込め、力を消費している。
もちろん、ある程度の力を込めなければ自分と対等には戦えないのだが、その『ある程度』の見極めができていないようだ。
「そんなものかしら!!?」
「く……!!」
バージルの顔に、焦りの色が見れる。
ここまでくれば、もう終わりだ。
過剰な龍力の消費と、焦りの心。崩れるのは、一瞬。
戦闘が進むにつれ、ぶつかり合う力も徐々に弱まってくる。
龍力の限界は近い。
「……終わりよ」
ド、とバージルの腹に蹴りを入れるソル。
「ごふ……!!」
腹を押さえ、崩れるバージル。
「……努力賞、かしら?」
努力賞でもあげすぎなくらいだ。参加証でも構わないレベルの戦いだった。
だが、短期間で応用力を上げてきた事実は評価できる。
「…………」
剣を高く上げるソル。もちろん、当たらないように振り下ろすつもりだ。形式上、勝負はついた感じにしておきたい。
だが、彼女の剣は止まったままだ。
「え……?」
突然、バージルの龍力が完全に途絶えたのだ。
ピークは過ぎたものの、荒れ狂っていた風も、ピタリと止まる。
しまった、やりすぎたか、と一瞬思うソル。しかし、そうではなかった。
「……よぉ、太陽龍王。俺が死んだと思ったか?」
バージルは呟き、顔を上げる。
その表情は、「してやったり」だった。
「ウインド・プレス!!」
「!?」
彼が叫ぶと同時に、頭上に凄まじい龍力の気配を感じるソル。
見上げると、見えるか見えないかギリギリの高さに、風龍の紋章が描かれていた。
しかも、かなり大きい。
(あんな高いところ!!いつの間に!?)
脅しの龍力ではなく、しっかりと攻撃に使える龍力だ。
距離がある分、威力は衰える。だが、それを計算に入れた十分な力を感じる。
風龍の圧力が、殺意をもって振ってくる。
(受けるしか……!!)
掻き消せる力は今持ち合わせていない。力を使いすぎた部分もあるし、何より動揺してしまった。
あんな大きな紋章を、いつの間に。
腕を十字に頭上で組み、腰を落とすソル。
衝撃に耐えうる龍力をなら、まだ残っている。
「……!!」
感じる。凄まじい龍圧。
ずん、と下肢に重力が重くのしかかっていく。
だが、肝心の龍術は振ってこなかった。
それだけでなく、頭上の龍力の気配がパッタリと途絶えた。
「え……?」
ソルは上を見上げるが、何もない空間が広がっている。
大きな龍の紋章も、迫り来る風の圧力もない。
「まさか!」
ソルはバージルを見る。
彼はすでに倒れており、通常状態に戻っていた。
「ちょっと……!?」
駆け寄り、抱き起こす。
「……気絶……してる」
心臓の鼓動、血管の動きはある。生きている。
力を使い果たし、倒れてしまったのだろう。
「……もう少し力が残っていれば……私は……」
倒されていたかは分からないが、あの龍術を食らっていたのは間違いない。
しかし、どうやって気付かれないように龍の紋章を描いたのか。詠唱している素振りもなかった。
違和感といえば、『出鱈目な龍の使い方』くらいだが。
(え……まさか……?)
上にゆっくり描いていることを悟られぬよう、わざと出鱈目な龍力で戦っていた?
確かに、龍力の一部をそちらに割くほどの余裕と集中力があれば可能だ。
紋章を崩さず、精密に書き上げていく力と、目の前の自分と戦う力。
現実に実行できるかはまた別問題だが、彼はそれをやって見せた。
力配分が上手くいかなかったのか、最後の直撃までは至らなかったが。
「滅茶苦茶な戦い方ね……もっと自分を大事にしなさい。体は資本よ……?」
ソルは呆れたような表情で、可能性の塊の風龍使いを見つめるのだった。
そんな中で行われている剣劇。ぶつかり合う龍力が、どんどん高まっていく。
(ッ……!!暇がねぇ!!)
目じりを走る汗を拭う暇も、鼻の頭に張り付いた髪の毛を払う暇もない。
そして、自分が最も「やりやすい」技の型を取っている時間もないし、取らせてくれる相手でもない。
一瞬一瞬の判断が命取り。そんな戦闘だ。
ただ、今までも強敵との戦闘はそうだったし、ここから先はそんな戦闘が当たり前になってくるだろう。
「これはどう!?」
「ッ!!」
ソルは、様々な体勢から技を繰り出してくる。柔軟な身体である、ソルファの身体能力を存分に活かしているのだろう。
どんな体勢からでも技が繰り出されるため、本当に余裕がない。バージルはそれをギリギリのところで避けたり、受け流したりしている。
今こそそれができているが、いつ読み切れなくなるかは本当に分からない。
「だぁっ!」
「!」
バージルの渾身の斬り。防いだように見えるソルだったが、ノーダメージではなかった様子。
つ、と口から一筋の血液が垂れる。
(手ごたえアリか!っ……けど、キチィな……!!)
戦闘開始後に比べ、バージルの動きも良くなっている。が、限界を超えた戦いで、身体と龍の呼吸が合っていない。
よって、龍力を過剰に消費している。
ソルは血を拭い、走り出す。
すぐさま剣劇が再開し、荒々しい龍力が空間を揺らす。
(惜しいわね……本当に……)
当然、彼女はバージルの龍魂のことを見抜いている。
このままでは、こちらが大して大技を打たなくても、勝手に自滅する。
ならば、こちらも力をセーブできる。
「くそ……!」
「効かないわ」
一回一回の攻撃に無駄がありすぎる。
必要以上の力をそこに込め、力を消費している。
もちろん、ある程度の力を込めなければ自分と対等には戦えないのだが、その『ある程度』の見極めができていないようだ。
「そんなものかしら!!?」
「く……!!」
バージルの顔に、焦りの色が見れる。
ここまでくれば、もう終わりだ。
過剰な龍力の消費と、焦りの心。崩れるのは、一瞬。
戦闘が進むにつれ、ぶつかり合う力も徐々に弱まってくる。
龍力の限界は近い。
「……終わりよ」
ド、とバージルの腹に蹴りを入れるソル。
「ごふ……!!」
腹を押さえ、崩れるバージル。
「……努力賞、かしら?」
努力賞でもあげすぎなくらいだ。参加証でも構わないレベルの戦いだった。
だが、短期間で応用力を上げてきた事実は評価できる。
「…………」
剣を高く上げるソル。もちろん、当たらないように振り下ろすつもりだ。形式上、勝負はついた感じにしておきたい。
だが、彼女の剣は止まったままだ。
「え……?」
突然、バージルの龍力が完全に途絶えたのだ。
ピークは過ぎたものの、荒れ狂っていた風も、ピタリと止まる。
しまった、やりすぎたか、と一瞬思うソル。しかし、そうではなかった。
「……よぉ、太陽龍王。俺が死んだと思ったか?」
バージルは呟き、顔を上げる。
その表情は、「してやったり」だった。
「ウインド・プレス!!」
「!?」
彼が叫ぶと同時に、頭上に凄まじい龍力の気配を感じるソル。
見上げると、見えるか見えないかギリギリの高さに、風龍の紋章が描かれていた。
しかも、かなり大きい。
(あんな高いところ!!いつの間に!?)
脅しの龍力ではなく、しっかりと攻撃に使える龍力だ。
距離がある分、威力は衰える。だが、それを計算に入れた十分な力を感じる。
風龍の圧力が、殺意をもって振ってくる。
(受けるしか……!!)
掻き消せる力は今持ち合わせていない。力を使いすぎた部分もあるし、何より動揺してしまった。
あんな大きな紋章を、いつの間に。
腕を十字に頭上で組み、腰を落とすソル。
衝撃に耐えうる龍力をなら、まだ残っている。
「……!!」
感じる。凄まじい龍圧。
ずん、と下肢に重力が重くのしかかっていく。
だが、肝心の龍術は振ってこなかった。
それだけでなく、頭上の龍力の気配がパッタリと途絶えた。
「え……?」
ソルは上を見上げるが、何もない空間が広がっている。
大きな龍の紋章も、迫り来る風の圧力もない。
「まさか!」
ソルはバージルを見る。
彼はすでに倒れており、通常状態に戻っていた。
「ちょっと……!?」
駆け寄り、抱き起こす。
「……気絶……してる」
心臓の鼓動、血管の動きはある。生きている。
力を使い果たし、倒れてしまったのだろう。
「……もう少し力が残っていれば……私は……」
倒されていたかは分からないが、あの龍術を食らっていたのは間違いない。
しかし、どうやって気付かれないように龍の紋章を描いたのか。詠唱している素振りもなかった。
違和感といえば、『出鱈目な龍の使い方』くらいだが。
(え……まさか……?)
上にゆっくり描いていることを悟られぬよう、わざと出鱈目な龍力で戦っていた?
確かに、龍力の一部をそちらに割くほどの余裕と集中力があれば可能だ。
紋章を崩さず、精密に書き上げていく力と、目の前の自分と戦う力。
現実に実行できるかはまた別問題だが、彼はそれをやって見せた。
力配分が上手くいかなかったのか、最後の直撃までは至らなかったが。
「滅茶苦茶な戦い方ね……もっと自分を大事にしなさい。体は資本よ……?」
ソルは呆れたような表情で、可能性の塊の風龍使いを見つめるのだった。
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