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新たなる龍
女の正体
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女から事情を聞くため、バージルは仲間を呼び出した。
問題の侵入者騒ぎは、「怪しい人物が出ていった」と嘘の情報を流し、女が城から出やすいように働きかけた。
この短期間に、バージルは規約違反を重ねている。念願の騎士団で、こんなにも裏切り行為をすることになるとは思わなかった。
が、こちらにもやむを得ない事情がある。苦渋の決断である。胃がキリキリ痛むが、仕方ない。
「さて……」
彼らは、レイグランズを離れてすぐの街道に来ていた。
王都の喫茶店や、城の応接室も考えたが、周囲に人がいない方が良いだろうと思い、ここにした。
移動の最中も、女は暴れるようなそぶりを見せなかった。現地に着いてからも、大人しくしている。
バージルが呼んだのは、いつものメンバーだ。
団長及び、それ以外の団員は呼ぶ気になれなかった。
レイズは車イスに座っている。眠っていたところを叩き起こされて不機嫌そうにしているが、文句は発せられなかった。外に出れることが大きいのだろう。
事情を知らないレイラたちからすれば、ぽっと出の女が不思議で堪らない。
が、フライングすることなく、揃うまで待ってくれていた。
揃ったタイミングで、彼らは木陰に入り、草むらの上に座った。
「それで……あなたは……」
レイラは恐る恐る尋ねる。
バージルに「仲間だけを集めて外に来て欲しい」と言われたときは驚いた。
来てみれば、見知らぬ異様な雰囲気の女と一緒に居るではないか。しかも、城への侵入者で、捜索対象のそれだ。
レイズまで連れ出して、一体どうしたというのか。
「そうね……ソルファ=ヴリリアント。龍力者よ」
「ソルファさん……ですね」
レイラは記憶を探るが、当然初見だ。
名前も聞いたことがない。
「まずは、話を聞いてくれてありがとう。追い返されてもおかしくなかったけど」
「……さっさと要件を言え」
微笑みながら礼を言うソルファを無視し、リゼルは話を急かす。
得体の知れない女だ。リゼルはピリピリしている。
隙あらば攻撃、とかそういうのは大丈夫そうだが、穏やかでないのは確かだ。
「ねぇ……そこの彼。本当は『病気』ではないわよね」
ソルファはレイズを示し、はっきりと言った。
「!」
バージルは彼女を見る。
病人がいると嘘(ではないが)をつき、彼女の捜索を阻止しようとした。が、見抜かれていたとは。
他の仲間は、「病気?」という顔をしているが、伝えた張本人であるバージルには通じた。
「かと言って、本調子でもない……イメージ的には、大事な半身がすっぽり抜け落ちてしまったかのような……」
「「…………」」
仲間たちは顔を見合わせる。
ソルファが『劣化』を知っているのかは定かではない。しかし、本人や周囲の人間しか知らないであろう『劣化』のイメージを的確に導き出した。
「ソルファさん……あなたは、いったい……?」
「……少しは信じてくれた?」
『何に対して』が抜けた、大雑把な質問。
だが、レイラの答えは決まっている。もちろん、他の仲間の答えも。
「はい。私たちは、あなたを信じます」
「ここから話すのは、絶対に内緒。あなた達の上司にも」
「……はい」
こくりと頷き、唾をのむ。
大丈夫。ここなら人もいないし、魔物や人間の気配もない。盗聴されている可能性はゼロだ。
「……『この身体』はソルファ=ヴリリアント。でも、今ここに居る『私』は、ソル」
「?」
妙な言い回しに、「?」が頭の上に浮かんでしまう。が、どこかで聞いたことがあるようなシチュエーションだ。
仲間たちは、ちら、とリゼルを見る。
視線が集まるのが分かったのか、リゼルは一度ため息をつく。そして、口を開いた。
「あんたは……『龍』か……?」
話の理解が早いことに多少驚いた顔を見せるソル。
が、すぐに表情が戻る。そして。
「そゆこと」
「……なるほど、な……」
今、目の前にいる彼女が、龍。
しかし、レイズたちのイメージするそれとはかけ離れすぎている。
唯一知るサンプルが『ゼル』だったため、ギャップが大きい。
ソルは穏やかで、ゼルのときのような凶暴さが感じられないのだ。
ただ、バージルが最初に感じた、彼女の『独特な雰囲気』の正体は分かった。
(人の姿の龍……それが、レイズに何の用だ……?)
彼女の『探し物』も、彼に関連するものだった。
この『物語』は、いつ、どこから繋がっているのだろうか。
本題はここからだろう。バージルは、一人唾を飲み込むのだった。
問題の侵入者騒ぎは、「怪しい人物が出ていった」と嘘の情報を流し、女が城から出やすいように働きかけた。
この短期間に、バージルは規約違反を重ねている。念願の騎士団で、こんなにも裏切り行為をすることになるとは思わなかった。
が、こちらにもやむを得ない事情がある。苦渋の決断である。胃がキリキリ痛むが、仕方ない。
「さて……」
彼らは、レイグランズを離れてすぐの街道に来ていた。
王都の喫茶店や、城の応接室も考えたが、周囲に人がいない方が良いだろうと思い、ここにした。
移動の最中も、女は暴れるようなそぶりを見せなかった。現地に着いてからも、大人しくしている。
バージルが呼んだのは、いつものメンバーだ。
団長及び、それ以外の団員は呼ぶ気になれなかった。
レイズは車イスに座っている。眠っていたところを叩き起こされて不機嫌そうにしているが、文句は発せられなかった。外に出れることが大きいのだろう。
事情を知らないレイラたちからすれば、ぽっと出の女が不思議で堪らない。
が、フライングすることなく、揃うまで待ってくれていた。
揃ったタイミングで、彼らは木陰に入り、草むらの上に座った。
「それで……あなたは……」
レイラは恐る恐る尋ねる。
バージルに「仲間だけを集めて外に来て欲しい」と言われたときは驚いた。
来てみれば、見知らぬ異様な雰囲気の女と一緒に居るではないか。しかも、城への侵入者で、捜索対象のそれだ。
レイズまで連れ出して、一体どうしたというのか。
「そうね……ソルファ=ヴリリアント。龍力者よ」
「ソルファさん……ですね」
レイラは記憶を探るが、当然初見だ。
名前も聞いたことがない。
「まずは、話を聞いてくれてありがとう。追い返されてもおかしくなかったけど」
「……さっさと要件を言え」
微笑みながら礼を言うソルファを無視し、リゼルは話を急かす。
得体の知れない女だ。リゼルはピリピリしている。
隙あらば攻撃、とかそういうのは大丈夫そうだが、穏やかでないのは確かだ。
「ねぇ……そこの彼。本当は『病気』ではないわよね」
ソルファはレイズを示し、はっきりと言った。
「!」
バージルは彼女を見る。
病人がいると嘘(ではないが)をつき、彼女の捜索を阻止しようとした。が、見抜かれていたとは。
他の仲間は、「病気?」という顔をしているが、伝えた張本人であるバージルには通じた。
「かと言って、本調子でもない……イメージ的には、大事な半身がすっぽり抜け落ちてしまったかのような……」
「「…………」」
仲間たちは顔を見合わせる。
ソルファが『劣化』を知っているのかは定かではない。しかし、本人や周囲の人間しか知らないであろう『劣化』のイメージを的確に導き出した。
「ソルファさん……あなたは、いったい……?」
「……少しは信じてくれた?」
『何に対して』が抜けた、大雑把な質問。
だが、レイラの答えは決まっている。もちろん、他の仲間の答えも。
「はい。私たちは、あなたを信じます」
「ここから話すのは、絶対に内緒。あなた達の上司にも」
「……はい」
こくりと頷き、唾をのむ。
大丈夫。ここなら人もいないし、魔物や人間の気配もない。盗聴されている可能性はゼロだ。
「……『この身体』はソルファ=ヴリリアント。でも、今ここに居る『私』は、ソル」
「?」
妙な言い回しに、「?」が頭の上に浮かんでしまう。が、どこかで聞いたことがあるようなシチュエーションだ。
仲間たちは、ちら、とリゼルを見る。
視線が集まるのが分かったのか、リゼルは一度ため息をつく。そして、口を開いた。
「あんたは……『龍』か……?」
話の理解が早いことに多少驚いた顔を見せるソル。
が、すぐに表情が戻る。そして。
「そゆこと」
「……なるほど、な……」
今、目の前にいる彼女が、龍。
しかし、レイズたちのイメージするそれとはかけ離れすぎている。
唯一知るサンプルが『ゼル』だったため、ギャップが大きい。
ソルは穏やかで、ゼルのときのような凶暴さが感じられないのだ。
ただ、バージルが最初に感じた、彼女の『独特な雰囲気』の正体は分かった。
(人の姿の龍……それが、レイズに何の用だ……?)
彼女の『探し物』も、彼に関連するものだった。
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