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新たなる龍
劣化の理解
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そういえば、マリナとミーネはどうしているだろうか。
王都についてすぐに医務室に籠ったため、彼女たちの状況が分からない。
彼女たちにもこの情報をいち早く共有したいのだが、もう少し後になりそうだ。
それに、今は夜。こんな時間に悪いニュースを伝えてしまっては、彼女たちに余計な心配をかけてしまう。
「う……」
と、ベッドで寝ていたレイズの顔が歪んだ。
「レイズ?起こしてしまいましたか……」
先程(と言っても報告書を欠き始める前)眠りに就いたばかりだ。
ただ、本格的に寝るには、まだ早い時間。レイラが立てた物音で目が覚めてしまったのか。
「あ……あぁ……ここは……」
レイズは目を開け、周囲を確認する。
「城の医務室です。騎士団だと目立つので、ここへ」
「城……帰ってきた、か……」
「えぇ。とにかく、今は休んでください」
「あぁ……」
口ではそう言ったが、『劣化』は、休んで解決する問題でもない。
レイラは胸が痛む。彼は大人しく横になる。しかし。
「……スレイ!!」
「!」
がば、とレイズは乱暴に飛び起きる。
そのままふらふらと立ちが上がり、靴を履こうとしている。
「ちょ……どこへ行く気です!?」
「病院だよ!スレイの様子が気になる!!」
「ダメです!!休んでいてください!!それに、もう夜ですよ!?」
慌てて止めるレイラ。
彼には体力や気力を消費して欲しくない。劣化のスピードと体力温存の関係性は定かではないが、可能性は少しでも上げておきたい。
「もう休んだって!行かないと!」
口ではそういうが、顔色はよくない上に、靴も全然履けていない。
スレイの様子が気になるのは分かるが、もう、見ていられない。
「レイズ!!」
「!」
心を鬼にし、叫ぶ。
「な、んだよ……急に……」
「あなたは、『劣化』しています」
「ぁ……へ……?」
本人は気付いていない。
それもある意味当然だ。龍を失うきっかけに覚えがなければ、龍力を使えないのを「疲れ」だと勘違いする。単なるエネルギー切れだ、と。
帰路の場では、そう誤魔化していたが、そろそろ現実と向き合わなければならない。
「理由は分かりません……ですが、レイズ。あなたは今、龍魂を失っています。よって、劣化が進んでいるのです」
「……え?……おい?」
レイズの動きが止まる。そして、徐々に震えが始まる。
自分の手を見つめ、震えている。
「嘘だ!俺は禁忌を犯してない!!」
「嘘ではありません!!その証拠に、あなたは今、龍力を使えないではありませんか!?」
それに、禁忌は関係ありません……と、小さい声でレイラは続ける。
「え……?だったら、疲れてるからで……!!」
「……なら、龍力を見せてから出ていってください。もう時間は十分経ちましたよね。それに、小さな力で結構です」
「くそ……」
ち、と一度だけ舌を打ち、靴も履かずに構えるレイズ。
だが、待てど暮らせど、龍力が全く高まらない。と言うか、内に秘める龍の気配がない。
自分の置かれた状況が段々と理解できて来た様子。
「え……?」
焦ったような表情になり、身体をしきりに動かしている。
手を握ったり開いたり、肩を回したりしても結果は同じだ。
そもそもの龍魂が宿っていないのだから。
「……分かりましたか?」
「いや、違う!ちょっと待て!」
「……無駄です。横になってください」
「ッ!!」
いつもなら待ってくれるレイラ。
しかし、今回は嫌に冷たい。と同時に、リゼルが医務室内に入ってきた。
「静かにしろ。何の騒ぎだ」
医務室の壁は厚く、防音性に優れている。
それなのに、何か騒いでいるのが聞こえてきた。
「……今から、龍魂を見せてくれるそうです」
レイラは視線や顔を動かすことなく、力なく言った。
騒ぎと、この状況。リゼルは何で揉めているのか理解した。
「……そうか。好きにしろ」
自分の場合は、自らの意思で『禁忌』を犯した。
しかし、レイズは違う。具体的な理由は不明だが、龍魂を失っている。
だから、否定したい。受容ができていないのだ。
「見てろよ?マジで……!」
龍力を失ったことを否定したい。自分は健康体だ。劣化などしないと証明したい。
それを第三者に認めさせるには、龍魂を使えばいい。
「う~~~~!!ふん!!ふん!!」
「……無駄に力んでも共鳴しませんよ。お忘れですか?」
「ッ……」
見るのも辛い状況だ。だから、レイラは敢えて冷たく言い放つ。
龍力を高めるには、自分の龍と波長を合わせ、調整していく必要がある。
レイズにはその龍がないのだから、波長を合わせる相手がいない。
それに、通常時であっても、ただ単に力んだだけでは、龍は応えてくれない。
「……もう……満足ですか?」
数分後、項垂れているレイズの姿があった。
「劣化……俺が?これが……劣化……なんで?意味わかんね……」
焦点の定まらない瞳で、レイズは繰り返し呟いていた。
王都についてすぐに医務室に籠ったため、彼女たちの状況が分からない。
彼女たちにもこの情報をいち早く共有したいのだが、もう少し後になりそうだ。
それに、今は夜。こんな時間に悪いニュースを伝えてしまっては、彼女たちに余計な心配をかけてしまう。
「う……」
と、ベッドで寝ていたレイズの顔が歪んだ。
「レイズ?起こしてしまいましたか……」
先程(と言っても報告書を欠き始める前)眠りに就いたばかりだ。
ただ、本格的に寝るには、まだ早い時間。レイラが立てた物音で目が覚めてしまったのか。
「あ……あぁ……ここは……」
レイズは目を開け、周囲を確認する。
「城の医務室です。騎士団だと目立つので、ここへ」
「城……帰ってきた、か……」
「えぇ。とにかく、今は休んでください」
「あぁ……」
口ではそう言ったが、『劣化』は、休んで解決する問題でもない。
レイラは胸が痛む。彼は大人しく横になる。しかし。
「……スレイ!!」
「!」
がば、とレイズは乱暴に飛び起きる。
そのままふらふらと立ちが上がり、靴を履こうとしている。
「ちょ……どこへ行く気です!?」
「病院だよ!スレイの様子が気になる!!」
「ダメです!!休んでいてください!!それに、もう夜ですよ!?」
慌てて止めるレイラ。
彼には体力や気力を消費して欲しくない。劣化のスピードと体力温存の関係性は定かではないが、可能性は少しでも上げておきたい。
「もう休んだって!行かないと!」
口ではそういうが、顔色はよくない上に、靴も全然履けていない。
スレイの様子が気になるのは分かるが、もう、見ていられない。
「レイズ!!」
「!」
心を鬼にし、叫ぶ。
「な、んだよ……急に……」
「あなたは、『劣化』しています」
「ぁ……へ……?」
本人は気付いていない。
それもある意味当然だ。龍を失うきっかけに覚えがなければ、龍力を使えないのを「疲れ」だと勘違いする。単なるエネルギー切れだ、と。
帰路の場では、そう誤魔化していたが、そろそろ現実と向き合わなければならない。
「理由は分かりません……ですが、レイズ。あなたは今、龍魂を失っています。よって、劣化が進んでいるのです」
「……え?……おい?」
レイズの動きが止まる。そして、徐々に震えが始まる。
自分の手を見つめ、震えている。
「嘘だ!俺は禁忌を犯してない!!」
「嘘ではありません!!その証拠に、あなたは今、龍力を使えないではありませんか!?」
それに、禁忌は関係ありません……と、小さい声でレイラは続ける。
「え……?だったら、疲れてるからで……!!」
「……なら、龍力を見せてから出ていってください。もう時間は十分経ちましたよね。それに、小さな力で結構です」
「くそ……」
ち、と一度だけ舌を打ち、靴も履かずに構えるレイズ。
だが、待てど暮らせど、龍力が全く高まらない。と言うか、内に秘める龍の気配がない。
自分の置かれた状況が段々と理解できて来た様子。
「え……?」
焦ったような表情になり、身体をしきりに動かしている。
手を握ったり開いたり、肩を回したりしても結果は同じだ。
そもそもの龍魂が宿っていないのだから。
「……分かりましたか?」
「いや、違う!ちょっと待て!」
「……無駄です。横になってください」
「ッ!!」
いつもなら待ってくれるレイラ。
しかし、今回は嫌に冷たい。と同時に、リゼルが医務室内に入ってきた。
「静かにしろ。何の騒ぎだ」
医務室の壁は厚く、防音性に優れている。
それなのに、何か騒いでいるのが聞こえてきた。
「……今から、龍魂を見せてくれるそうです」
レイラは視線や顔を動かすことなく、力なく言った。
騒ぎと、この状況。リゼルは何で揉めているのか理解した。
「……そうか。好きにしろ」
自分の場合は、自らの意思で『禁忌』を犯した。
しかし、レイズは違う。具体的な理由は不明だが、龍魂を失っている。
だから、否定したい。受容ができていないのだ。
「見てろよ?マジで……!」
龍力を失ったことを否定したい。自分は健康体だ。劣化などしないと証明したい。
それを第三者に認めさせるには、龍魂を使えばいい。
「う~~~~!!ふん!!ふん!!」
「……無駄に力んでも共鳴しませんよ。お忘れですか?」
「ッ……」
見るのも辛い状況だ。だから、レイラは敢えて冷たく言い放つ。
龍力を高めるには、自分の龍と波長を合わせ、調整していく必要がある。
レイズにはその龍がないのだから、波長を合わせる相手がいない。
それに、通常時であっても、ただ単に力んだだけでは、龍は応えてくれない。
「……もう……満足ですか?」
数分後、項垂れているレイズの姿があった。
「劣化……俺が?これが……劣化……なんで?意味わかんね……」
焦点の定まらない瞳で、レイズは繰り返し呟いていた。
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