龍魂

ぐらんじーた

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ある一族

帰路

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真っ暗な世界と、揺れる身体。そして、人肌の温もり。
それらの刺激を感じられるようになったのは、全てが終わった後だった。

「う……」

長く気を失っていた気がする。
レイズは、うめき声と共にゆっくりと目を開ける。

「……起きたか」
「バー……ジル……?」

そこは、バージルの背中の上だった。
背負われる形で、レイズは運ばれていた。自分を背負っているせいか、歩みはゆっくりである。

「あいつは……!!」

彼の背中の上で、レイズは周囲を警戒する。
だが、レイはおろか、魔物の陰もない。というか、そもそも遺跡が見えない。

「え……ここは……?」
「俺たちが先に目が覚めてな。今、ヨルムンヘルに帰ってるところだ」
「そう、か……」

あの戦闘及び、レイの正体。夢ではない、リアルな話。レイズは、まだ混乱している。
フリアたちの上にヒューズがいて、そのボスがアレイン。
自分たち家族を置いて王都に行った、実の父親だったとは。

「……起きたときは、誰もいなかったよ」
「え……?」
「……なぜ殺さなかったんでしょう」

敵だっていうことは分かっているはずなのに、とレイラは呟く。

「知るか。そんなこと……」

レイズは力なく答える。
なぜ、レイやヒューズは自分たちにトドメを刺さなかったのか。
気にはなるが、今は本当に身体が重い。試練がどうとか言っていた気がするが、口を開く気になれなかった。

「……起きたんなら、下ろしたいんだが」
「すまねぇ……歩けそうにない」
「……休もうぜ」

戦闘をしていないとはいえ、バージルの体力も限界だ。
力が抜けた男性一人を背負い、歩いているのだから。

レイズを座らせ、自分たちも適当に座る。

「……お前だけだよ。戦えたのは」
「けど、負けた」
「あぁ。俺たちは、戦うことすらできなかったけどな……その差はでかいぜ。実際」

バージルは膝を抱くように腕を組み、ため息をつく。
その隣で、レイラは顔を伏せた。金色の髪で顔が隠れ、彼女の表情が見えなくなる。

「…………」

唇を噛み締めるレイラ。悔しい。本当に、本当に動けなかった。
『フル・ドラゴン・ソウル』を多少使えるようになったことや、団内で実力が上になっていることで、多少なりとも自信があった。
もちろん、フリアやスゼイなど強敵がいることは分かっていたため、調子に乗ったり己惚れたりすることはない。
が、積み重ねてきた全てを、敵が軽く超えていった事実。追いつきそうだと思った矢先、引き離された。
終わりがなく、更に勝ち目のない出来レースをさせられている気分だ。

(剣を……離すなんて……)

しかも、恐怖で武器から手を離すという醜態を晒した。
戦闘中に武器から手を離すことは、通常であれば死に直結する。
それは、騎士団員・龍力者として、勝敗以前の問題だ。

(言い訳に聞こえます……けど、あの『圧力』は……)

当たり前だが、レイラも気を抜いていたわけではない。
感じた気配から、タダものではない雰囲気を感じていた。よって、敵の力量や力の差は想像がついていた。
それなのに、レイ(アレイン)から感じたあの圧に屈してしまった。

レイを倒す。

(気持ちは揺らぎつつあるが)その意志は変わらない。
だが、勝敗以前に、彼と戦うためには、もっともっと力をつけなければならない。

暗い雰囲気が辺りを包む。
環境の暗さもあり、お通夜状態である。

その中で、リルナは何も言えず、彼らの様子を見守っていた。

「…………」

否、見守っていたのではなく、何も言えないでいた、の方が正しい。
ドラゴン・ソウルを超えた力を発揮した彼ら。その力を、遺跡にいた龍力者は軽く超えていた。
彼らも意気消沈しているが、リルナも例外ではなかった。

(……月の力は、最強じゃない)

月龍であることの誇り。驕り。『龍力』がないくせに、他を見下していた。
龍魂の限界を超えた戦いをする彼ら。本当に凄いと思ったし、今までの自分は(親の教育のせいだが)視野が狭いと思った。
その矢先、そんな彼らをも軽く凌駕する敵の出現。

『レイ』や『アレイン』と呼ばれていた男。
そして、ヒューズとかいう男。彼も、龍魂の限界を超えた力を扱いそうである。
外界には、そんな龍力者が、ゴロゴロいるのか。

月龍であり、珍しい属性に違いはないだろう。
だが、発揮可能な力は、その他の属性及び龍力者と大差ないのではないか。

(……強くなりたい)

肩書だけで威張り散らすことのない龍力者になりたいと、リルナは強く思うようになる。
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