龍魂

ぐらんじーた

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ある一族

声と声

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レイズは一人、闇の中にいた。
小さく縮こまり、頭を抱え、ガタガタと震えていた。
震えにより、前歯がぶつかり、カツカツと音を立てている。

「寒い……!!暗い……!!深い……!!」

こうなっている理由は明白だ。
『ダークネス・スクリーム』をまともに受け、心が折れたのだ。


今まででも、良い意味でも悪い意味でも、様々な恐怖や絶望を経験した。
だが、今回のそれは、今までのものと根本的に種類が違う。

これが、本当の恐怖なのだ。

リゼルのため、他の仲間のためだの思ってここまで来たが、それも終わり。
自分の命が最優先。

目が覚めたら、一目散に帰る。騎士団ともオサラバだ。
レイを捉える?グランズの崩壊の解決策?知ったことか。

自分はとにかく、グリージで暮らす。
スレイも、何とかして移送してもらおう。

(無理……マジで無理……)

身体を抱き、震えていると、目の前に誰かの足元が現れた。
震えながら見上げると、そこには自分が立っていた。

「……無様だな」

もう一人の自分は、震える自分を見て、呆れるように言う。
その声は、耳に届いているのではなく、頭に響くような声だった。
前も似たようなことがあったが、いつだったかは思い出せない。

「…………」

自分を見下しているような視線。だが、恐怖でそれどころではない。
ただ、目の前にいるこいつは、恐怖を感じていない様子。心の奥底に潜む、勇敢な自分なのだろうか。

「……何とでも言え。俺は逃げる。死にたくない」

絞り出した声は、震えていて、みすぼらしい。
だが、そんなこと、死ぬことに比べれば、かすり傷である。

「そうか。だが、お前は逃げれるのか?」

自分の意思を否定することなく、周囲を見渡す勇敢な自分。

「ここは、意識の底だ。とにかく、リアルじゃない」
「分かってるさ。この震えが止まっ「止まるのか?それ」

言い終わる前に、遮られる。
そして、痛い指摘を受ける。

「う……」
「ま、俺もヤツの力を見た。ビビるのは……まぁ、分かる」
「…………」
「だが、俺の『相棒』はこんなことで『ここ』は折れないはずだ」
「…………」

そう言い、心臓部を親指で示す。
レイズはそれを直視できない。逃げるように視線を反らす。

「……勝手に言ってろ。買いかぶりだ」
「目を覚ませよ?ここにいるのはお前だけか?レイラは?バージルは?リルナはどうなる?」
「…………」

レイズは何も言えない。

「お前の戦いは一人じゃない。仮に、お前が逃げ切れても、そいつらが『代わり』になるだけだ」
「……『代わり』って」
「あいつのエネルギーにされて、死ぬってことだ」
「ッ!!」
「おい。『レイズ』はそれで良いのか?俺の知っている『レイズ』は、そんな男じゃないはずだが」

目の前にいる自分の語気が早口になり、荒くなる。そして、炎を纏っていく。
煽られる形となったが、不思議と力が湧いてくるようだ。
仲間を見捨てたくない。そんなんで助かっても、絶対に後悔する。

「あ゛~~~~~!!」

レイズは頭を掻きむしり、地面を何度も殴りつける。

(とまれ!!とまれとまれとまれとまれッ!!)

勇敢な自分の炎と、言葉の煽り。
恐怖に打ち勝つための無様な地面の殴打は、無駄ではない。

程なくして、ス、と身体が軽くなった気がした。

「!!」

その感覚に驚き、顔を上げ辺りを見回す。そこで見たのは、丁度、混沌とした闇が晴れていくところだった。
呆然とそれを見ていると、満足そうな勇敢な自分がこちらを見ていた。
見下すような視線ではなく、何かに期待しているような視線。

「震えは、止まったな」
「!」

気付けば、震えは止まっていた。手を離れたと思っていた剣も手元にある。
だが、レイズは下を向き、目を閉じた。

「けど……俺は……」

震えは止まった。
だが、何も問題は解決していない。再び『あの場所』へ戻っても、また同じ技を食らえば、心が折れてしまう。
レイズの態度に、勇敢な自分は若干苛立っている。

「ち……いい加減に「あなたたち!!」
「!」

突然、アルナの声が響く。
脳内に直接伝わる自分の声とは違い、耳から入ってくる。

「騎士団でしょ!?外では国を守ってたんでしょ!?だったら!!その力!!リルナに見せてみなさいよ!!!!」
「これは……」

それを聞き、勇敢な自分は更に煽ってくる。

「……どうする?リルナはまだ戦ってるぞ?今まで戦いに参加しなかったリルナが」
「…………」
「年下で、フルも使えないリルナが戦っている。お前は、どうするんだ?」

最後の確認をするように、もう一人の自分はゆっくり言う。

「あぁ、逃げるんだったか」
「……いや。ヤメだ」

逃げたい気持ちはあった。だが、あのリルナが戦っている。
そして、彼女の叫び。
自分に聞こえたということは、間違いなく他の二人にも聞こえている。保証はないが、そんな気がした。

なら、答えは一つだ。

「……デスを、殺す」

レイズは、目を開ける。目には炎。
その顔からは、恐怖が消えていた。
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