龍魂

ぐらんじーた

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ある一族

拭えない言葉

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「!!」

レイズは飛び起きた。
気温的には涼しいのに、汗びっしょりだ。それに、気分も悪い。
眠っていたはずなのに、なぜか物凄く疲れている気がする。

朝か、とも思ったが、外はまだ暗い。

「うわ……まだ三時かよ……」

時計を見て、レイズはため息をつく。
午前三時。こんな時間に目覚めてしまうとは。

「水だけ飲んで……寝るか……くそ……ねみぃ」

ギシ、と音を立て、立ち上がるレイズ。
起きたついでに、外の様子を見てみる。当たり前だが、人通りはなく、建物の明かりも少ない。
ただ、個人宅に明かりがちらほら見える。こんあ時間に、いったい何をしているのだろうか。

(さ、水水……)

当初の目的を思い出し、台所へ移動する。
水を一口含み、濯ぐ。その後、水を飲む。

(変な夢……だったのか?)

水を飲みながら、眠っていた時のことを考えていた。
なんだか、長く重要な夢を見ていた気がする。ただ、どんな夢だったのかは全く思い出せない。

「忘れちまったな……」

レイズは思い出すことを諦め、横になった。
中途半端な時間に目覚めたため、眠れるかどうか少し心配だったが、意識はすぐになくなった。

翌朝、レイズはいつもより遅い時間に目が覚めた。
夜中の覚醒が効いていたのか、いつもの時間に起きられなかった。

(ま、いいか)

遅い分には、病院から文句は言われないだろう。レイズはいつも通り、病院へ向かう。
ただ、移動中も、ずっと違和感があった。

このまま同じように一日を過ごすのか?今行くべき場所は、病院ではないのではないか?と。

そんな違和感を抱えたまま、病院に着いた。
慌ただしく院内を駆け回るナースを一瞥し、スレイの病室へと向かう。
彼の部屋の扉に手を掛けたとき、何かがレイズを止めた。

「……?」

この扉を開いてはダメだ。
自分にはやることがあるんじゃないのか。
彼が心配だし、見舞いも大事ではあるが、今その優先度は低いのではないのか。
それに、ここを開けるのは、裏切りになるのではないのか。

(ッ……誰の裏切りだよ……)

見舞いに来ただけで、誰を裏切ると言うのか。
バカバカしい、とその考えを捨て、開けようとする。しかし、手が動かない。
手が震えるだけで、力が入らない。

(なん……で……?)

別に、誰かから攻撃を受けているとか、痺れがあるとか、そういう感覚ではない。
ただ、自分がブレーキをかけている。なぜだ。いったい、どうして。

「す……すめ……?」

ふと、レイズの頭にその言葉が浮かんできた。
どうにかしてその言葉を振り払おうとするが、消えない。



ススメ。
すすめ。
進め。



その言葉が繰り返し脳内に響いてくる。思えば思うほど、強く。

(消えない……これは……)

今日見た夢。内容が思い出せなかった夢。それに関連しているのだろうか。
夢の中で、誰かと会話していた気がする。

(ッ……思い出せねぇ、けど……)

『進め』との言葉が頭に浮かんできたのは、そのせいか?無関係ではないように思う。
確かに、病院でお見舞いと称して時間を使うのは、停滞だ。
だから、自分や、仲間のために、進め。と。夢に出てきた人物が、自分に告げたのだろうか。

「~~~~~!!」

レイズは目を閉じ、天を仰ぐ。

「……行こう。スレイは、大丈夫だ」

ゆっくりと扉から手を離し、レイズは踵を返す。
向かうは、仲間の所。このまま院内に居ても、何も変わらない。
だったら、スレイのそばに居たい欲求は一度捨て、彼が起きたときに、更なる成長が見せられるよう、精進しよう。

(だから、起きろよ。スレイ……)

最後に一度だけ病室を振り返り、願うように強く目を閉じる。
そして、今度こそこの場を離れるレイズ。
決意を新たに、歩みを進めるのだった。


彼が去った後、病室内。

(いった……か……)

カーテンが半分だけ空いた病室内で、スレイは薄く開けていた目をゆっくりと閉じた。
彼の顔は、心の底から安心したように、穏やかだった。
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