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崩壊龍
初めての決断
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イクサスの提案。
それは、もう一度『彼』と戦うこと。勝利すれば、『彼』が帰ってくる。
「もう分かってると思うが、俺らの標的はグランズだ。そのためなら、何でもする」
「…………」
「今は『アイツ』の指示でこうしているが、今のところ一般人を襲うつもりはない」
「アイツ……?」
『アイツ』とは?レイラは反応するが、答えてくれるだろうか。
否。話は進む。
「今日はその指示のついでに、こいつの試運転で来たんだ」
「それと何の関係が……?」
「まぁ聞けよ。本来、この作戦ではイングヴァーを使うつもりだった。が、別に強けりゃ誰でも良いと思ってた。だから、代わりはいる」
だから、敵はイングヴァーを狙っていたのか。だが、代わりになりそうな現地で人間が見つかった。
現場判断で回収対象を変えたが、現実はうまくいかなかった。
イクサスはゼルを見る。
「……いると思っていた」
単純な戦闘力だけで言えば、イングヴァーよりもゼルは強い。
フリア達はそう判断したから、こいつを連れて帰った。
だが、龍魂はそんな単純なものではない。
「…………」
レイラは何も言えないでいる。
まず、話が見えない。彼なりに順を追って説明しているのだろうが。
再度自分たちが戦うことで、何が見えるのか。
「標的はグランズだ。本来騎士団はどうでもいいんだが……ま、立場上敵だよな」
「……何をいまさら」
騎士団は王を守る盾であり、敵の懐に突っ込む矛でもある。
王が狙われれば、当然守るし、攻めもする。
敵の狙いが王である以上、その王を守る自分たちは敵となる。
「……『禁忌』で魂が消えていると思っていた」
「!」
先ほど立てた、自分に都合が良すぎる仮説が頭をよぎる。
「闇龍の意識は、確かに前面に出ていた。だが、王であり、騎士団員であるアンタの前では、どうもコイツは力を出せないらしい」
「…………」
レイラは頭の中を必死に回す。
都合のいい解釈が現実的になってきている。
でも、こうなったのは、相手が自分だったから?ここに配属されたのが別の仲間だったら?
ゼルは……リゼルは、こうなっていただろうか。
「それに、フリアやスゼイ、フランバーレに対する異常な敵意も無視できない」
「そちらに置くには、手に負えないと……?」
立場上、騎士団は敵になる。
その敵に対し、実力を出せないヤツは要らないのだ。
「そういうことだ。それに、この作戦が終われば、イングヴァーのポジションも要らなくなる。その辺りも考えてのイングヴァーだったんだが」
「…………」
ゼルが自分に本気で攻撃できない以上、手元に置いていても無駄。
いざという時、足を引っ張る可能性が高い。だから、使い捨てる。
「使い捨てやすいから、イングヴァーだったんだな……『アイツ』は正しかったのかもな」
「……また『アイツ』ですか。誰です?」
「言うと思うか?」
「……いえ」
不愉快な笑みを浮かべるイクサス。
彼らに指示を与えている人間がいる。元々の彼の仲間なのか、レイラが薄々予感している『アイツ』なのか。
「だが、まだ身体に馴染んでいないだけの可能性もある。そこを見極めたい」
「…………」
「ここで俺たちが退いても、アンタらはコイツを取り返しに追ってくるだろ?」
「……必ず」
当然。彼を諦めることなど、できはしない。
「応戦しても良いが、こっちが必死で守るほど、面倒な犬を飼う余裕もないんでな。そこでキッチリさせようや。もちろん、イングヴァーにも手を出さないでやる」
イクサスはゼルを『面倒な犬』と揶揄した。
そのことにレイラは強い怒りを覚える。だが、必死で抑える。
これは、リゼルを取り戻すチャンスだ。
戦いになると思っていたのだ。向こうから提示してくるとは、ありがたい。それに、イングヴァーも諦めると言っている。
「……相談してか「今決めろ」
通信は繋いでいる。端末に手を伸ばそうとした時、イクサスはそれを止めた。
「俺は待たない。今決めろ」
「ですが「アンタは今、王なんだろ?」
その言葉に、レイラは口が止まる。
「その王が前線での変化にイチイチ相談かけるのか?あぁ?」
「それは……」
そう。
いくら作戦を練っていようが、現場に出ればその瞬間瞬間で柔軟に対応しなければならない。
本部から誰も声を発しないのも、通信を悟らせないため。
今の役割は、状況を伝えるだけの一方通行だ。
「受けなければ……?」
「……言わないと分からないか?いい加減にしろ。アンタが言うのは、受けるか、受けないか、だ。次はない」
イクサスはゼルの首元に刀を付ける。
首の皮膚が裂け、血が滴る。
彼は、本気だ。
「……!!」
レイラは初めて、自分一人で決断することになる。
それは、もう一度『彼』と戦うこと。勝利すれば、『彼』が帰ってくる。
「もう分かってると思うが、俺らの標的はグランズだ。そのためなら、何でもする」
「…………」
「今は『アイツ』の指示でこうしているが、今のところ一般人を襲うつもりはない」
「アイツ……?」
『アイツ』とは?レイラは反応するが、答えてくれるだろうか。
否。話は進む。
「今日はその指示のついでに、こいつの試運転で来たんだ」
「それと何の関係が……?」
「まぁ聞けよ。本来、この作戦ではイングヴァーを使うつもりだった。が、別に強けりゃ誰でも良いと思ってた。だから、代わりはいる」
だから、敵はイングヴァーを狙っていたのか。だが、代わりになりそうな現地で人間が見つかった。
現場判断で回収対象を変えたが、現実はうまくいかなかった。
イクサスはゼルを見る。
「……いると思っていた」
単純な戦闘力だけで言えば、イングヴァーよりもゼルは強い。
フリア達はそう判断したから、こいつを連れて帰った。
だが、龍魂はそんな単純なものではない。
「…………」
レイラは何も言えないでいる。
まず、話が見えない。彼なりに順を追って説明しているのだろうが。
再度自分たちが戦うことで、何が見えるのか。
「標的はグランズだ。本来騎士団はどうでもいいんだが……ま、立場上敵だよな」
「……何をいまさら」
騎士団は王を守る盾であり、敵の懐に突っ込む矛でもある。
王が狙われれば、当然守るし、攻めもする。
敵の狙いが王である以上、その王を守る自分たちは敵となる。
「……『禁忌』で魂が消えていると思っていた」
「!」
先ほど立てた、自分に都合が良すぎる仮説が頭をよぎる。
「闇龍の意識は、確かに前面に出ていた。だが、王であり、騎士団員であるアンタの前では、どうもコイツは力を出せないらしい」
「…………」
レイラは頭の中を必死に回す。
都合のいい解釈が現実的になってきている。
でも、こうなったのは、相手が自分だったから?ここに配属されたのが別の仲間だったら?
ゼルは……リゼルは、こうなっていただろうか。
「それに、フリアやスゼイ、フランバーレに対する異常な敵意も無視できない」
「そちらに置くには、手に負えないと……?」
立場上、騎士団は敵になる。
その敵に対し、実力を出せないヤツは要らないのだ。
「そういうことだ。それに、この作戦が終われば、イングヴァーのポジションも要らなくなる。その辺りも考えてのイングヴァーだったんだが」
「…………」
ゼルが自分に本気で攻撃できない以上、手元に置いていても無駄。
いざという時、足を引っ張る可能性が高い。だから、使い捨てる。
「使い捨てやすいから、イングヴァーだったんだな……『アイツ』は正しかったのかもな」
「……また『アイツ』ですか。誰です?」
「言うと思うか?」
「……いえ」
不愉快な笑みを浮かべるイクサス。
彼らに指示を与えている人間がいる。元々の彼の仲間なのか、レイラが薄々予感している『アイツ』なのか。
「だが、まだ身体に馴染んでいないだけの可能性もある。そこを見極めたい」
「…………」
「ここで俺たちが退いても、アンタらはコイツを取り返しに追ってくるだろ?」
「……必ず」
当然。彼を諦めることなど、できはしない。
「応戦しても良いが、こっちが必死で守るほど、面倒な犬を飼う余裕もないんでな。そこでキッチリさせようや。もちろん、イングヴァーにも手を出さないでやる」
イクサスはゼルを『面倒な犬』と揶揄した。
そのことにレイラは強い怒りを覚える。だが、必死で抑える。
これは、リゼルを取り戻すチャンスだ。
戦いになると思っていたのだ。向こうから提示してくるとは、ありがたい。それに、イングヴァーも諦めると言っている。
「……相談してか「今決めろ」
通信は繋いでいる。端末に手を伸ばそうとした時、イクサスはそれを止めた。
「俺は待たない。今決めろ」
「ですが「アンタは今、王なんだろ?」
その言葉に、レイラは口が止まる。
「その王が前線での変化にイチイチ相談かけるのか?あぁ?」
「それは……」
そう。
いくら作戦を練っていようが、現場に出ればその瞬間瞬間で柔軟に対応しなければならない。
本部から誰も声を発しないのも、通信を悟らせないため。
今の役割は、状況を伝えるだけの一方通行だ。
「受けなければ……?」
「……言わないと分からないか?いい加減にしろ。アンタが言うのは、受けるか、受けないか、だ。次はない」
イクサスはゼルの首元に刀を付ける。
首の皮膚が裂け、血が滴る。
彼は、本気だ。
「……!!」
レイラは初めて、自分一人で決断することになる。
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