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崩壊龍
なぜ知っている
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『禁忌』の意味も、その後遺症も知る敵。
自分たちが相手している存在に改めて恐怖を感じるレイラたち。
ただ、今は四聖龍も揃ったし、気になることは別にある。
「それは……その力は、誰でもが出せるのですか?」
「さぁ、出せるんじゃないかしら……龍魂には、それくらいのポテンシャルがあるのは確かね」
「…………」
代償がえげつないが、誰でも出せる力。
リゼルはそれを使うことを選び、自分たちを生かした。だが、あの空気ならば、最初からイングヴァーを諦めていれば『こう』はならなかっただろう。
四聖龍が倒れた時点で諦め、自分が戦わなければ、リゼルが激昂することもなかった。本当にやるせない。
考え込むレイラを見ながら、シャレムは続ける。
「ただ、『自分を失ってもいい覚悟』と『契約の意志』は必要になるわ。生半可な覚悟とか意志じゃない。当然よね。龍力者にとって、それは『禁忌』だから。まぁ、ほとんどの龍力者はその『トリガー』すら知らないはずだけど」
シャレムの口調はゆっくりだが、言葉一つ一つが重い。
『自分を失ってもいい覚悟』をリゼルがもっていた事実は、本当に苦しい。
そこまで自分に執着させてしまっていたとは。
彼とは『とある事情』があり、過ごしてきた時間が長いし、特別である。
けれど、自分のせいで彼の人生が狂うことを望んでいない。
(私が……弱いから……)
全ては、自分の弱さが招いたことだ。
弱かったせいで、彼は自分の魂を売り、敵を叩き潰そうとした。
(でも……ほとんどの龍力者が知らない情報のはず……)
そう。
彼女の言う通りなら、疑問が残る。
「なぜ……なぜ、リゼルは知っていたのでしょうか?」
「そうね。そこが疑問よね。アタシは師匠から聞いたけど。アナタたちにも心当たりはない?」
「いえ……よく分かりません……」
レイラは記憶を探るが、心当たりがない。
龍力者の禁忌。
それを知っている人間は少ない。そして、知ってはいるが、普通は使わない。
この事実が、事の重大さを物語っている。
「えと……龍力者全員に教育しないのですか?」
マリナが恐る恐る彼女に聞く。
それなら、全員に周知し、公に禁止すべきな気もするが。
そうすれば、知らずにトリガーを踏むということもなくなるはずだ。
「……知らずに生涯を終える龍力者が大多数だった。それに、無意味に広める理由もないでしょ」
「……知らない方が幸せってことだ」
「それは……」
ウィーンが彼女が言いたいことを引き継いだ。
そのようなリスキーな力は教育するべきだ。しかし、知ったところで龍力者にメリットはない。
なら、知らずに過ごした方が平和的なのは理解できる。
「アナタたちが知らないなら、リゼル君は、知ってる人間から聞いたのでしょうね。いつ、どこで知ったかまでは、アタシには想像つかないけど。でも、深く知ってしまったから、共有しなかったんだと思うわ」
「リゼルのヤロォ……」
レイズは何とも言えない気持ちになる。
聞けば聞くほど、ヤバイ力だ。それに手を出すことも、基本なさそうに思えた。
だが、あの島での戦闘は、その『基本』を逸脱していた。
自分たちが相手にしているのは、フル・ドラゴン・ソウルを十分に使える人間をも超越している人間だ。
ならば、その禁忌を犯して戦ってしまうのも分からなくはない。分からなくはないのだが。
(でも、その『禁忌』ですら勝てなかった)
完全に結果論だが、その事実は変えられない。
イングヴァーに拘った自分たちは、リゼルを失った。
こんなことなら、強引にでも止めるべきだった。悔やまれるが、後の祭りである。
「『禁忌』の話はいいでしょ……とにかく、自分が自分じゃなくなってしまう力よ。だから、リゼル君は、リゼル君じゃなくなってるはずよ」
「分かりました……」
レイラは納得していない顔だったが、彼女の意見に理解を示す。
自分と彼はなんでも相談できる仲だと思っていたのは、自分だけだったようだ。
リゼルに聞けば何でも一緒に考えてくれたし、道に迷った時は道を示してくれた。
思い返せば、彼から相談を受けたことはあるが、任務のことだけだったように思う。
彼のプライベートな相談事はなかったし、個人で得た知識が共有されることもなかった。
(リゼル……信用されていないのでしょうか……)
一番の理解者だと考えていた彼にすら信用されていない(かも知れない)のに、仲間や騎士団関係者、四聖龍に国民。
彼らから信用を得ることはできるのだろうか。
自分たちが相手している存在に改めて恐怖を感じるレイラたち。
ただ、今は四聖龍も揃ったし、気になることは別にある。
「それは……その力は、誰でもが出せるのですか?」
「さぁ、出せるんじゃないかしら……龍魂には、それくらいのポテンシャルがあるのは確かね」
「…………」
代償がえげつないが、誰でも出せる力。
リゼルはそれを使うことを選び、自分たちを生かした。だが、あの空気ならば、最初からイングヴァーを諦めていれば『こう』はならなかっただろう。
四聖龍が倒れた時点で諦め、自分が戦わなければ、リゼルが激昂することもなかった。本当にやるせない。
考え込むレイラを見ながら、シャレムは続ける。
「ただ、『自分を失ってもいい覚悟』と『契約の意志』は必要になるわ。生半可な覚悟とか意志じゃない。当然よね。龍力者にとって、それは『禁忌』だから。まぁ、ほとんどの龍力者はその『トリガー』すら知らないはずだけど」
シャレムの口調はゆっくりだが、言葉一つ一つが重い。
『自分を失ってもいい覚悟』をリゼルがもっていた事実は、本当に苦しい。
そこまで自分に執着させてしまっていたとは。
彼とは『とある事情』があり、過ごしてきた時間が長いし、特別である。
けれど、自分のせいで彼の人生が狂うことを望んでいない。
(私が……弱いから……)
全ては、自分の弱さが招いたことだ。
弱かったせいで、彼は自分の魂を売り、敵を叩き潰そうとした。
(でも……ほとんどの龍力者が知らない情報のはず……)
そう。
彼女の言う通りなら、疑問が残る。
「なぜ……なぜ、リゼルは知っていたのでしょうか?」
「そうね。そこが疑問よね。アタシは師匠から聞いたけど。アナタたちにも心当たりはない?」
「いえ……よく分かりません……」
レイラは記憶を探るが、心当たりがない。
龍力者の禁忌。
それを知っている人間は少ない。そして、知ってはいるが、普通は使わない。
この事実が、事の重大さを物語っている。
「えと……龍力者全員に教育しないのですか?」
マリナが恐る恐る彼女に聞く。
それなら、全員に周知し、公に禁止すべきな気もするが。
そうすれば、知らずにトリガーを踏むということもなくなるはずだ。
「……知らずに生涯を終える龍力者が大多数だった。それに、無意味に広める理由もないでしょ」
「……知らない方が幸せってことだ」
「それは……」
ウィーンが彼女が言いたいことを引き継いだ。
そのようなリスキーな力は教育するべきだ。しかし、知ったところで龍力者にメリットはない。
なら、知らずに過ごした方が平和的なのは理解できる。
「アナタたちが知らないなら、リゼル君は、知ってる人間から聞いたのでしょうね。いつ、どこで知ったかまでは、アタシには想像つかないけど。でも、深く知ってしまったから、共有しなかったんだと思うわ」
「リゼルのヤロォ……」
レイズは何とも言えない気持ちになる。
聞けば聞くほど、ヤバイ力だ。それに手を出すことも、基本なさそうに思えた。
だが、あの島での戦闘は、その『基本』を逸脱していた。
自分たちが相手にしているのは、フル・ドラゴン・ソウルを十分に使える人間をも超越している人間だ。
ならば、その禁忌を犯して戦ってしまうのも分からなくはない。分からなくはないのだが。
(でも、その『禁忌』ですら勝てなかった)
完全に結果論だが、その事実は変えられない。
イングヴァーに拘った自分たちは、リゼルを失った。
こんなことなら、強引にでも止めるべきだった。悔やまれるが、後の祭りである。
「『禁忌』の話はいいでしょ……とにかく、自分が自分じゃなくなってしまう力よ。だから、リゼル君は、リゼル君じゃなくなってるはずよ」
「分かりました……」
レイラは納得していない顔だったが、彼女の意見に理解を示す。
自分と彼はなんでも相談できる仲だと思っていたのは、自分だけだったようだ。
リゼルに聞けば何でも一緒に考えてくれたし、道に迷った時は道を示してくれた。
思い返せば、彼から相談を受けたことはあるが、任務のことだけだったように思う。
彼のプライベートな相談事はなかったし、個人で得た知識が共有されることもなかった。
(リゼル……信用されていないのでしょうか……)
一番の理解者だと考えていた彼にすら信用されていない(かも知れない)のに、仲間や騎士団関係者、四聖龍に国民。
彼らから信用を得ることはできるのだろうか。
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