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四聖龍
爪痕・四聖龍編
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あの戦闘から一週間が経過した。
四聖龍ハーゼイが倒され、残る四聖龍は二人となってしまった。
生き残ったシャレムとウィーンは順調に回復している。しかし、心の傷は深かった。
一般的には知られていないとはいえ、騎士団上層部にとって、四聖龍の名前は強い。当然、彼ら側にもプライドがある。
騎士団の影の最高戦力。それなのに、得体の知れない敵に惨敗してしまった。
決して己惚れていたわけではないのだが、初めて完璧に負けたのだ。
心の中は穏やかではいられない。
病院からの外出許可が下り、シャレムとウィーンは近所の公園に来ていた。
別に共に行動しなければならない決まりはないが、自然とそうなっていた。
ウィーンにしてみれば、今のシャレムを一人にしておくのは危険だ。自分はどちらかというと無口だが、彼女は違う。どこで感情を吐き散らすか分からない。
監視の意味でも、彼女が外出する際はついていくようにしている。
飲み物片手にイスに座る二人。ピッタリ隣に座る理由もなく、適当に間隔は空いている。
「情けないわ……!!ほんっとムカつく……!!」
座ったとたん、シャレムは木でできた机を叩いた。
病室にいては空気が悪い。気分が変わるかと思ったが、そんな簡単な問題ではない。
「シャレム。よせ……」
物に当たるのは良くない。それに、周囲の目もある。彼女は人気モデルだ。一応サングラスと帽子で変装っぽいことはしているが、スタイルの良さは隠せない。
シャレムだとバレてしまえば、イメージが悪くなる。だが、彼女はそれを気にしていない様子だ。
「四聖龍?何それ。雑魚じゃん?」
「雑魚……」
「雑魚」という言葉が胸に刺さる。心が痛い。
「ち……」
シャレムは、ここ最近ずっと機嫌が悪い。自分も気分は穏やかではないが、感情を表に出す正確ではないため、目立っていないだけ。
二人とも怪我自体は治り、医師から仕事再開の許可も出ている。シャレムは仕事復帰可能だが、ずっと休んでいる。
「結局何もできなかった……」
「あぁ……そうだな……」
ウィーンも自分の無力さに気づいている。
無力といっても、騎士団の戦力から言えば、ダントツで力は上だ。四聖龍の名前がそれを物語っている。だが、敵の力はそれを大きく上回っていた。
「ハーゼイ……」
ウィーンは彼のことを思い出す。
まとまりが悪い四聖龍を、一人でまとめ上げようとしてくれていた。
良くも悪くも自信家だったシャレム。コミュニケーション能力が高いとは言えない自分。
年長者ということもあり、穏やかに方針を定め、騎士団との連携も取ってくれていた。
そんな彼が、亡くなってしまった。
北の四聖龍の行方も分からないままだ。四聖龍は、たった二人になってしまっている。
「ねぇ、アンタ」
「何だ?」
「四聖龍補充の件、どう思う?」
前代未聞の、四聖龍敗北。
騎士団は四聖龍を補充する方向で調整を進めたいと考えている。
と言っても、四聖龍と騎士団は良い意味でも悪い意味でも距離がある。騎士団側が候補を立てることも可能だが、四聖龍側の顔色を伺っている状態だ。
よって、まずは「誰か候補はいないか」と騎士団から自分たちに質問が来ているのだ。
その後で、彼らは候補者を立てようとしているつもりらしい。
「通常、四聖龍の名前は、前の四聖龍から引き継ぐ」
「……そうね」
「だから、ハーゼイや北の四聖龍の意志がある。それを無視するわけには……」
ウィーンは力なく言う。
それもそうだ。自分たちで次の四聖龍の候補を出すとなれば、当然彼らの意志が尊重されない。
なぜなら、ハーゼイや北の四聖龍が推すであろう人物と面識がないためだ。
シャレムやウィーンが知る中で、勝手に候補を出すことになる。
「それはそうね……それに、四聖龍の看板も落ちてるし、待遇ももう良くないしね」
自分たちがあの戦いで敗北した時点で、四聖龍の信用は以前ほど大きなものではなくなっていた。
もちろん、敵の強さがそれを上回っていただけで、自分たちが弱かったわけではないのだが、敗北した事実は変わらない。その結果は、重たくのしかかる。
加えて、ここ最近の戦闘で、騎士団も大ダメージを受けている。そんな中で、四聖龍を優遇するには限界があるのだ。
したがって、大して待遇も良くない四聖龍という地位に就きたがる人間は少ないだろう。
「でも、空席のままにするわけにもいかないわ」
「それは……」
「アタシは、候補を出すつもりよ」
「ッ……!」
「アンタも、考えとく事ね。騎士団が知らない(かつ、四聖龍レベルに強い)龍力者なんて、そうそういないわ」
「……候補があるらしいな」
「えぇ……一人だけ、ね……」
空のカップを潰し、真剣な眼差しで遠くを見つめるシャレム。
「……お先」
コツ、とヒールを鳴らし、彼女は去っていった。
候補者を出す決意のせいか、今までで一番落ち着いていたように見える。
(候補者、か……)
ウィーンは背もたれに体重を預け、空を見上げる。
四聖龍候補。考えておく必要がありそうだ。
四聖龍ハーゼイが倒され、残る四聖龍は二人となってしまった。
生き残ったシャレムとウィーンは順調に回復している。しかし、心の傷は深かった。
一般的には知られていないとはいえ、騎士団上層部にとって、四聖龍の名前は強い。当然、彼ら側にもプライドがある。
騎士団の影の最高戦力。それなのに、得体の知れない敵に惨敗してしまった。
決して己惚れていたわけではないのだが、初めて完璧に負けたのだ。
心の中は穏やかではいられない。
病院からの外出許可が下り、シャレムとウィーンは近所の公園に来ていた。
別に共に行動しなければならない決まりはないが、自然とそうなっていた。
ウィーンにしてみれば、今のシャレムを一人にしておくのは危険だ。自分はどちらかというと無口だが、彼女は違う。どこで感情を吐き散らすか分からない。
監視の意味でも、彼女が外出する際はついていくようにしている。
飲み物片手にイスに座る二人。ピッタリ隣に座る理由もなく、適当に間隔は空いている。
「情けないわ……!!ほんっとムカつく……!!」
座ったとたん、シャレムは木でできた机を叩いた。
病室にいては空気が悪い。気分が変わるかと思ったが、そんな簡単な問題ではない。
「シャレム。よせ……」
物に当たるのは良くない。それに、周囲の目もある。彼女は人気モデルだ。一応サングラスと帽子で変装っぽいことはしているが、スタイルの良さは隠せない。
シャレムだとバレてしまえば、イメージが悪くなる。だが、彼女はそれを気にしていない様子だ。
「四聖龍?何それ。雑魚じゃん?」
「雑魚……」
「雑魚」という言葉が胸に刺さる。心が痛い。
「ち……」
シャレムは、ここ最近ずっと機嫌が悪い。自分も気分は穏やかではないが、感情を表に出す正確ではないため、目立っていないだけ。
二人とも怪我自体は治り、医師から仕事再開の許可も出ている。シャレムは仕事復帰可能だが、ずっと休んでいる。
「結局何もできなかった……」
「あぁ……そうだな……」
ウィーンも自分の無力さに気づいている。
無力といっても、騎士団の戦力から言えば、ダントツで力は上だ。四聖龍の名前がそれを物語っている。だが、敵の力はそれを大きく上回っていた。
「ハーゼイ……」
ウィーンは彼のことを思い出す。
まとまりが悪い四聖龍を、一人でまとめ上げようとしてくれていた。
良くも悪くも自信家だったシャレム。コミュニケーション能力が高いとは言えない自分。
年長者ということもあり、穏やかに方針を定め、騎士団との連携も取ってくれていた。
そんな彼が、亡くなってしまった。
北の四聖龍の行方も分からないままだ。四聖龍は、たった二人になってしまっている。
「ねぇ、アンタ」
「何だ?」
「四聖龍補充の件、どう思う?」
前代未聞の、四聖龍敗北。
騎士団は四聖龍を補充する方向で調整を進めたいと考えている。
と言っても、四聖龍と騎士団は良い意味でも悪い意味でも距離がある。騎士団側が候補を立てることも可能だが、四聖龍側の顔色を伺っている状態だ。
よって、まずは「誰か候補はいないか」と騎士団から自分たちに質問が来ているのだ。
その後で、彼らは候補者を立てようとしているつもりらしい。
「通常、四聖龍の名前は、前の四聖龍から引き継ぐ」
「……そうね」
「だから、ハーゼイや北の四聖龍の意志がある。それを無視するわけには……」
ウィーンは力なく言う。
それもそうだ。自分たちで次の四聖龍の候補を出すとなれば、当然彼らの意志が尊重されない。
なぜなら、ハーゼイや北の四聖龍が推すであろう人物と面識がないためだ。
シャレムやウィーンが知る中で、勝手に候補を出すことになる。
「それはそうね……それに、四聖龍の看板も落ちてるし、待遇ももう良くないしね」
自分たちがあの戦いで敗北した時点で、四聖龍の信用は以前ほど大きなものではなくなっていた。
もちろん、敵の強さがそれを上回っていただけで、自分たちが弱かったわけではないのだが、敗北した事実は変わらない。その結果は、重たくのしかかる。
加えて、ここ最近の戦闘で、騎士団も大ダメージを受けている。そんな中で、四聖龍を優遇するには限界があるのだ。
したがって、大して待遇も良くない四聖龍という地位に就きたがる人間は少ないだろう。
「でも、空席のままにするわけにもいかないわ」
「それは……」
「アタシは、候補を出すつもりよ」
「ッ……!」
「アンタも、考えとく事ね。騎士団が知らない(かつ、四聖龍レベルに強い)龍力者なんて、そうそういないわ」
「……候補があるらしいな」
「えぇ……一人だけ、ね……」
空のカップを潰し、真剣な眼差しで遠くを見つめるシャレム。
「……お先」
コツ、とヒールを鳴らし、彼女は去っていった。
候補者を出す決意のせいか、今までで一番落ち着いていたように見える。
(候補者、か……)
ウィーンは背もたれに体重を預け、空を見上げる。
四聖龍候補。考えておく必要がありそうだ。
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