198 / 469
四聖龍
相対する冷たい光
しおりを挟む
瓦礫の上に、血まみれで倒れているシャレム。
(え……?)
四聖龍の彼女があの姿になっている衝撃で、誰もが思考が停止していた。
その中で、時間が動き出したのが早かったのが、レイラだった。
「シャレムさん!!」
崩れたコンクリートに注意しながら、瓦礫の山を登っていくレイラ。
気掛かりなのは、シャレムだけではない。クラッツとイングヴァーが瓦礫の下だ。早く救出しなければ、命が危ない。
レイズは無意識にリゼルを見る。
「やばいんじゃないか……!?」
彼は既に剣を抜き、周囲を警戒している。
「注意しろ。戦闘態勢を取れ」
「ッ……!!」
今のところ敵の姿は見えない。
リゼルは仲間に注意を促し、龍力を高める。
ここにシャレムを飛ばした龍力者が追ってくる可能性は高い。
その間、レイラは何とか瓦礫をよじ登り、シャレムの肩を叩く。
「シャレムさん!!……シャレムさん!!」
身体は汚れ、頭からは血が滴り落ちている。
そして、衣服には血がついている。すべてシャレムの血だろうか。
剣こそ手放さずに持っているが、こんな状態で戦えるだろうか。
「ごぼッ……!!」
「!」
シャレムは血を吐き、咳をした。
それを皮切りに、呼吸が大きくなる。
目が開き、シャレムと目が合う。
「シャレムさん!よかった!」
「はぁ……はぁ……あいつは……!?」
辛そうに首を動かし、辺りを見回すシャレム。
レイラも周囲を警戒するが、今のところ特に異常はない。
「……まだ誰も来てません」
「ぜったい……くる……」
シャレムは顔を歪めながら、何とか起き上がろうとする。
「待ってください!今治します!」
「ッ……!!」
レイラは回復術を唱える。光龍の紋章がシャレムを包む。
彼女の傷が塞がっていく。全快とはいかないものの、見た目は幾分マシになった。顔色も少し改善される。
「……ありがと、王サマ」
「やめてください。私は……」
目を伏せるレイラ。シャレムは立ち上がり、続ける。
「でも、助かった」
彼女は、レイラの頭に手を置く。
「えへ」と彼女の顔が緩む。
その時だ。リゼルが叫んだ。
「気を付けろ!何か来るぞ!」
空を切るような、高い音。その音は段々大きくなる。
シャレムの穏やかな表情が消え、戦うときのそれになる。
「アナタたち!下がっていなさい!!」
瓦礫の山から駆け降りるシャレム。
「下に団長と……がいます!!」
「!!」
レイラの声に、シャレムは一瞬瓦礫の山を見る。が、今はそれどころではない。
「……後よ!!」
シャレムは再び龍力を高める。
『それ』が来たのは、その数秒後だった。
「来た……!!」
種類の異なる、二本の剣。片方の剣は、龍力に反応しているのか、鼓動を打つように、一定のリズムで光り輝いている。
はためく金髪。キモノ風の装い。そして、圧倒的龍力。
ドン、と『彼女』はシャレムの前に着地した。
ひび割れる地面は、その衝撃の強さを表している。
「女……?」
「つえぇぞ……あいつ……」
シャレムは、リゼルたちを庇うように立つ。
二本の剣を扱う女は、シャレムの傷が塞がれていることに気付いた。
「治療したの……残念」
「あ?」
「また、傷つくのに……」
「…………」
彼女は雰囲気は冷たい。声も透き通っており、冷たさをより印象付ける。
纏っている光龍のオーラも、レイラのような心地よい温かさを感じない。
(さて、と……)
短時間剣を交えただけだが、勝てないことは明白だ。
シャレムは何とか追い払えないか考える。その時ふと、レイラが言っていた言葉を思い出した。
(団長が瓦礫の下……?合図もあった……ってことは、『執行』の直前だった……?)
とすると、この下には団長だけではなく、イングヴァーもいる。
(なるほど、ね)
先程のレイラの言葉に違和感を覚えるシャレム。
「団長と」と言いかけて、「団長が」に変えていた。シンプルに焦り故の言い間違いではなく、敵にイングヴァーの存在を知らせないためだった。
レイラなりの気遣い。しかし、これは使えるかもしれない。
シャレムは剣先を瓦礫の山に向ける。
「……イングヴァーはこの下よ?計算ミスかしらね」
「…………」
「戦いには勝てなくても、アンタらの目的さえ阻止できれば良いの」
「生きてる。そのあたりも織り込み済み」
フランバーレは、顔色一つ変えない。淡々と続けるだけである。
本当に計算した結果なのか、焦りを悟られまいとしているのか、読み取れない。
「どうかしらね……!」
だが、退かないということは、敵の任務は破綻していないということなのだろう。
ならば、付近にいた団長も今は無事。
「二回戦、開始よ」
「……はぁ」
シャレムは、敵に向かって走り出す。時間を稼ぐために。
『執行』は彼らに任せるしかない。
(え……?)
四聖龍の彼女があの姿になっている衝撃で、誰もが思考が停止していた。
その中で、時間が動き出したのが早かったのが、レイラだった。
「シャレムさん!!」
崩れたコンクリートに注意しながら、瓦礫の山を登っていくレイラ。
気掛かりなのは、シャレムだけではない。クラッツとイングヴァーが瓦礫の下だ。早く救出しなければ、命が危ない。
レイズは無意識にリゼルを見る。
「やばいんじゃないか……!?」
彼は既に剣を抜き、周囲を警戒している。
「注意しろ。戦闘態勢を取れ」
「ッ……!!」
今のところ敵の姿は見えない。
リゼルは仲間に注意を促し、龍力を高める。
ここにシャレムを飛ばした龍力者が追ってくる可能性は高い。
その間、レイラは何とか瓦礫をよじ登り、シャレムの肩を叩く。
「シャレムさん!!……シャレムさん!!」
身体は汚れ、頭からは血が滴り落ちている。
そして、衣服には血がついている。すべてシャレムの血だろうか。
剣こそ手放さずに持っているが、こんな状態で戦えるだろうか。
「ごぼッ……!!」
「!」
シャレムは血を吐き、咳をした。
それを皮切りに、呼吸が大きくなる。
目が開き、シャレムと目が合う。
「シャレムさん!よかった!」
「はぁ……はぁ……あいつは……!?」
辛そうに首を動かし、辺りを見回すシャレム。
レイラも周囲を警戒するが、今のところ特に異常はない。
「……まだ誰も来てません」
「ぜったい……くる……」
シャレムは顔を歪めながら、何とか起き上がろうとする。
「待ってください!今治します!」
「ッ……!!」
レイラは回復術を唱える。光龍の紋章がシャレムを包む。
彼女の傷が塞がっていく。全快とはいかないものの、見た目は幾分マシになった。顔色も少し改善される。
「……ありがと、王サマ」
「やめてください。私は……」
目を伏せるレイラ。シャレムは立ち上がり、続ける。
「でも、助かった」
彼女は、レイラの頭に手を置く。
「えへ」と彼女の顔が緩む。
その時だ。リゼルが叫んだ。
「気を付けろ!何か来るぞ!」
空を切るような、高い音。その音は段々大きくなる。
シャレムの穏やかな表情が消え、戦うときのそれになる。
「アナタたち!下がっていなさい!!」
瓦礫の山から駆け降りるシャレム。
「下に団長と……がいます!!」
「!!」
レイラの声に、シャレムは一瞬瓦礫の山を見る。が、今はそれどころではない。
「……後よ!!」
シャレムは再び龍力を高める。
『それ』が来たのは、その数秒後だった。
「来た……!!」
種類の異なる、二本の剣。片方の剣は、龍力に反応しているのか、鼓動を打つように、一定のリズムで光り輝いている。
はためく金髪。キモノ風の装い。そして、圧倒的龍力。
ドン、と『彼女』はシャレムの前に着地した。
ひび割れる地面は、その衝撃の強さを表している。
「女……?」
「つえぇぞ……あいつ……」
シャレムは、リゼルたちを庇うように立つ。
二本の剣を扱う女は、シャレムの傷が塞がれていることに気付いた。
「治療したの……残念」
「あ?」
「また、傷つくのに……」
「…………」
彼女は雰囲気は冷たい。声も透き通っており、冷たさをより印象付ける。
纏っている光龍のオーラも、レイラのような心地よい温かさを感じない。
(さて、と……)
短時間剣を交えただけだが、勝てないことは明白だ。
シャレムは何とか追い払えないか考える。その時ふと、レイラが言っていた言葉を思い出した。
(団長が瓦礫の下……?合図もあった……ってことは、『執行』の直前だった……?)
とすると、この下には団長だけではなく、イングヴァーもいる。
(なるほど、ね)
先程のレイラの言葉に違和感を覚えるシャレム。
「団長と」と言いかけて、「団長が」に変えていた。シンプルに焦り故の言い間違いではなく、敵にイングヴァーの存在を知らせないためだった。
レイラなりの気遣い。しかし、これは使えるかもしれない。
シャレムは剣先を瓦礫の山に向ける。
「……イングヴァーはこの下よ?計算ミスかしらね」
「…………」
「戦いには勝てなくても、アンタらの目的さえ阻止できれば良いの」
「生きてる。そのあたりも織り込み済み」
フランバーレは、顔色一つ変えない。淡々と続けるだけである。
本当に計算した結果なのか、焦りを悟られまいとしているのか、読み取れない。
「どうかしらね……!」
だが、退かないということは、敵の任務は破綻していないということなのだろう。
ならば、付近にいた団長も今は無事。
「二回戦、開始よ」
「……はぁ」
シャレムは、敵に向かって走り出す。時間を稼ぐために。
『執行』は彼らに任せるしかない。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
魔法のせいだからって許せるわけがない
ユウユウ
ファンタジー
私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。
すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる