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龍魂の壁
約束の日
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昼はクラストの所で講義と特訓。夜は、翌日のテストのための勉強。
テストでいい点を取れなければ、恐ろしいペナルティがあると聞き、レイズは必死になって勉強した。
時にはノート数冊をびっしり板書し、時には魔物と戦った。
格下限定であるが、魔物相手に謎のハンデを背負い戦ったこともある。龍力30%以上禁止、この円から出るの禁止など。
そして、クラストとも戦った。しかも、割と本気で。
当然負ける。負け続ける。だが、彼からの評価は、『これで良い』とのことだった。
ストレス解消の捌け口にされているのでは?と不信感を抱くこともあったが、パワハラのような高圧的態度をとられることはなく、関係性自体は良好だった。
だが、特訓ははやり苦しい。レイズは逃げたかった。
が、逃げなかった。逃げても、行く当てはない。それに、楽しい瞬間もある。
今なら、スレイの気持ちが本気で理解できる。これだけ勉強・特訓しても、結果が出ないのは、本当に、本当に苦しい。
一週間は、一瞬で過ぎた。
休日の朝、レイズたちは仲間を連れ、約束の場所へと向かった。
「……で、レイズ、調子はどうなんだ?習得できたのか?」
道中、レイズに話しかけるバージル。彼は、本気で感心していた。
レイズは一週間を乗り切った。乗り切っただけでは意味がないのだが、彼の努力は見ていてわかる。
見れたのは宿内での姿だけだが、そこだけでも、相当な修行だったことが理解できる。
「え……何か言ったか……?」
「いや、フル何とかを習得できたのかって」
彼は、目の下にクマを作っていた。顔色も悪い。
睡眠時間は取れているのだろうか。
とんでもないブラックな修行をしたと想定される。
今朝も栄養ドリンクなのか、見慣れないデザインのドリンクを飲んでいるのを見かけた。
「あぁ……しんどいぜ」
「いや……そうじゃなくて……」
『フル・ドラゴン・ソウル』について聞きたかったのだが、その返事は帰ってこなかった。
バージルは他の仲間と顔を見合わせながらも、大人しくレイズに付いて行く。
彼と目が合ったレイラ。彼女は困ったように肩を竦める。
「……行くしかないようですね」
「みたいだな」
程なくして、レイズは足を止める。
クラストと出会った水場に到着した。
「……良い場所ね」
マリナは周囲を見渡す。
数本ある大きめの木が、葉をたっぷりと付け、巨大な影を作っている。
木の近くには大きな水場。水が湧いているのか、水場の底から流れができている。
湧き出た水は、細い緩やかな川となり、どこかへ流れている。
「ついた……」
その瞬間、レイズは座り込み、大きく息をつく。
「……しんど」
「…………」
本当に同い年だろうか。バージルは今のレイズを見て、同年代と思えない。
それくらい、レイズはしおれていた。
「……クラストとやらは、まだ来てないらしいな」
リゼルはそんなレイズの様子に目もくれず、辺りを観察している。
周囲に人影はない。
「……魔物もいないのね」
助かるけど、とミーネは呟く。
まあまあな距離を歩いたが、今日は魔物と一度も出会っていない。
外を歩いていて、こうも平和なのは珍しい。
「待ちましょうか。レイズも疲れているようですし」
「そうだな。今日は時間もあるし」
レイラたちは思い思いの場所に腰かけ、この癒し空間に浸るのだった。
「…………」
「なぁ」
空をぼんやりと眺めていたバージルが、ぼつりと呟いた。
もう、三十分は経っただろう。
いつの間にか、レイズは寝息を立てていた。水辺で涼しく、木々の影もある。
仮眠するにはいい環境だが、一応外の世界だ。寝るのは危険すぎるのだが。
「……遅すぎないか?寝ちまったぞ」
「そうですね……」
「結果が出なかったから、とか?」
遅すぎるクラスト。疲れ果てて寝ているレイズ。
マリナは、考えたくない結論を導く。
「逃げたか……無駄足だったか」
リゼルは舌を打つ。
せっかくの休日。貴重な生活費稼ぎの時間を無駄にしてしまった。
こんなに待たされるなら、無理にでも魔物を探して狩るべきだった。
財布事情にシビアなリゼルは、苛立ちが隠せないでいる。
「昼までに来なかったら帰るぞ」
「はい……」
レイラも自分たちの経済状況を理解しているのか、粘ろうとはしなかった。
「……あと、一時間強か」
リゼルが時間を確認したその時だ。
周囲を揺るがすような、大きな咆哮が辺りに響いた。
テストでいい点を取れなければ、恐ろしいペナルティがあると聞き、レイズは必死になって勉強した。
時にはノート数冊をびっしり板書し、時には魔物と戦った。
格下限定であるが、魔物相手に謎のハンデを背負い戦ったこともある。龍力30%以上禁止、この円から出るの禁止など。
そして、クラストとも戦った。しかも、割と本気で。
当然負ける。負け続ける。だが、彼からの評価は、『これで良い』とのことだった。
ストレス解消の捌け口にされているのでは?と不信感を抱くこともあったが、パワハラのような高圧的態度をとられることはなく、関係性自体は良好だった。
だが、特訓ははやり苦しい。レイズは逃げたかった。
が、逃げなかった。逃げても、行く当てはない。それに、楽しい瞬間もある。
今なら、スレイの気持ちが本気で理解できる。これだけ勉強・特訓しても、結果が出ないのは、本当に、本当に苦しい。
一週間は、一瞬で過ぎた。
休日の朝、レイズたちは仲間を連れ、約束の場所へと向かった。
「……で、レイズ、調子はどうなんだ?習得できたのか?」
道中、レイズに話しかけるバージル。彼は、本気で感心していた。
レイズは一週間を乗り切った。乗り切っただけでは意味がないのだが、彼の努力は見ていてわかる。
見れたのは宿内での姿だけだが、そこだけでも、相当な修行だったことが理解できる。
「え……何か言ったか……?」
「いや、フル何とかを習得できたのかって」
彼は、目の下にクマを作っていた。顔色も悪い。
睡眠時間は取れているのだろうか。
とんでもないブラックな修行をしたと想定される。
今朝も栄養ドリンクなのか、見慣れないデザインのドリンクを飲んでいるのを見かけた。
「あぁ……しんどいぜ」
「いや……そうじゃなくて……」
『フル・ドラゴン・ソウル』について聞きたかったのだが、その返事は帰ってこなかった。
バージルは他の仲間と顔を見合わせながらも、大人しくレイズに付いて行く。
彼と目が合ったレイラ。彼女は困ったように肩を竦める。
「……行くしかないようですね」
「みたいだな」
程なくして、レイズは足を止める。
クラストと出会った水場に到着した。
「……良い場所ね」
マリナは周囲を見渡す。
数本ある大きめの木が、葉をたっぷりと付け、巨大な影を作っている。
木の近くには大きな水場。水が湧いているのか、水場の底から流れができている。
湧き出た水は、細い緩やかな川となり、どこかへ流れている。
「ついた……」
その瞬間、レイズは座り込み、大きく息をつく。
「……しんど」
「…………」
本当に同い年だろうか。バージルは今のレイズを見て、同年代と思えない。
それくらい、レイズはしおれていた。
「……クラストとやらは、まだ来てないらしいな」
リゼルはそんなレイズの様子に目もくれず、辺りを観察している。
周囲に人影はない。
「……魔物もいないのね」
助かるけど、とミーネは呟く。
まあまあな距離を歩いたが、今日は魔物と一度も出会っていない。
外を歩いていて、こうも平和なのは珍しい。
「待ちましょうか。レイズも疲れているようですし」
「そうだな。今日は時間もあるし」
レイラたちは思い思いの場所に腰かけ、この癒し空間に浸るのだった。
「…………」
「なぁ」
空をぼんやりと眺めていたバージルが、ぼつりと呟いた。
もう、三十分は経っただろう。
いつの間にか、レイズは寝息を立てていた。水辺で涼しく、木々の影もある。
仮眠するにはいい環境だが、一応外の世界だ。寝るのは危険すぎるのだが。
「……遅すぎないか?寝ちまったぞ」
「そうですね……」
「結果が出なかったから、とか?」
遅すぎるクラスト。疲れ果てて寝ているレイズ。
マリナは、考えたくない結論を導く。
「逃げたか……無駄足だったか」
リゼルは舌を打つ。
せっかくの休日。貴重な生活費稼ぎの時間を無駄にしてしまった。
こんなに待たされるなら、無理にでも魔物を探して狩るべきだった。
財布事情にシビアなリゼルは、苛立ちが隠せないでいる。
「昼までに来なかったら帰るぞ」
「はい……」
レイラも自分たちの経済状況を理解しているのか、粘ろうとはしなかった。
「……あと、一時間強か」
リゼルが時間を確認したその時だ。
周囲を揺るがすような、大きな咆哮が辺りに響いた。
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