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龍魂の壁
弱肉強食
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ヴァイス平原に入ってから数日が経過した。
レイズたちは方針を変え、魔物との戦闘を避けながら進んでいくことにしている。
それでも避けられない戦いは数回あったものの、体力の消費を最小限にすることができている。
その成果か、マリナの顔色や表情が少し良くなったように感じる。
視線が落ち、焦点が定まらないような目ではなくなってきた。それでも、ふと気を抜けば落ちているが、頻度が減ったのは大きい。
ただ、その代償(?)として、南への進行速度がかなり落ちている。
移動こそしているのだが、魔物との戦闘回避のための迂回迂回が響いている。
(戦闘が少ない分、休憩も……)
戦闘から離れたため、レイラは少し思考に余裕が出始める。
皆の表情は暗くなっていくばかりだ。
それでも、レイラの思うように戦闘が少なくなっているため、誰からも休憩を申し出ない。
少し余裕ができたとはいえ、マリナだってキツいはず。勿論、彼女から休憩を要求することはない。
そのためか、リゼルは南へと進んでいる。が、さすがに落ち着ける場所がないとヤバイ。
「ふぅ……しかし……」
レイズは辺りを見回すが、まだシャンバーレらしき町の影は見えない。
(見えねぇな……)
ここまで周りに何もないと、道を間違えていないか不安になる。
だが、リゼルやレイラが先行している。何も問題はないはずだ。
「止まれ」
「!」
先頭を歩いていたリゼルが足を止め、身を低くする。
レイズたちも慌ててそれに習う。マリナはゆっくりと屈み、誰にも聞こえないよう注意しながら、「ふぅ」と小さく息をついた。
「でかいな」
距離はあるが、目の前には大型の獣型の魔物がいた。
茶色い毛皮、肩の辺りと鼻部分に黒い大きな角が生えている。
食事中なのだろうか。下を向いたまま頭をしきりに動かしている。
「道を変え……」
リゼルの言葉が止まる。
迂回しようと提案するつもりだったが、辛そうなマリナを見て、案を変える。
「……ここでヤツが去るのを待つ。気は休まらないだろうが……休憩も兼ねる」
「了解だ」
「はい……」
あんな大きい魔物は、ヴァイス平原に入ってから初めてだ。
それに、他の魔物も強くなってきている。あの魔物の強さは計り知れない。
「あの角……ヤバそうだな」
「あぁ……食らったらきついぞ」
コソコソと話すレイズたち。
身を低くしているとは言え、隠れられているわけではない。早く立ち去ってくれないものか。
「マリナ……大丈夫ですか……?」
明らかに大丈夫そうには見えないが、一応レイラは声をかける。
「ぅん……へいき」
マリナは小さく何回も頷く。
返事をするのもきつそうだ。同時に、足手まといになりたくないという意志も垣間見える。
どんなに辛くても、彼らと進みたいという、強い意志が。
「すまない……無理をさせる」
「ぇぇ……へいき」
気を遣わせてしまったな。
マリナは目を閉じ、息を大きくついた。
「きっともうすぐシャンバーレだよ、もう少しがん……」
頑張って、と言おうとして、ミーネは止めた。
マリナは頑張っている。頑張っている人に頑張ってというのは、言われる側は辛い。自分の努力を認められていない気がするからだ。
「あ……」
ミーネが言葉を止めた理由は、もう一個ある。
彼女はマリナの後方を見つめ、口を開けたまま静止する。
「ミーネ?何を見て……」
異変に気づいたレイラがミーネの視線を追う。
そこには。
「ゴレン……!」
岩型の魔物がいた。
岩が数十個組み合わさってできた魔物だ。
身を低くしていたこと、大型の魔物に気を取られていたことで、気づくのが遅れたのだ。
獣、自分たち、ゴレンと言う位置関係。獣にはまだバレていないとは言え、この位置関係は非常によろしくない。
「ちぃ!」
叫ばれ、仲間を呼ばれるのはマズイ。
リゼルは一瞬で剣を抜き、ゴレンに斬りかかる。
刃は通った。しかし、岩型なだけあって、硬い。
手ごたえもなく、ダメージは期待できない。龍力を抑えすぎたためだ。
「ッ……!」
「リゼル!」
レイズは炎を纏い、ゴレンを横から貫く。
ゴレンは燃え、気絶した。弱い個体で助かったが、別の問題が浮上する。
「ヤバいぞ……」
バージルは、大型の魔物を見る。
ゴレンは対処できた。が、問題は大型の魔物だ。
突然のことに、レイズは余計な力が入ってしまった。一撃で気絶まで持って行けたのは助かったが、当然、それだけの力の反応があったということ。
魔物の感覚器官は優れている。付近の力の乱れなどすぐに察知するだろう。
「……気付かれた」
大型の魔物は頭を上げ、こちらの方向を見つめていた。
血に染まった歯が剝き出しになる。その合間から、血肉が見える。
弱肉強食の強者と視線がぶつかる。
生き残るためにレイズたちは戦わなくてはならない。
レイズたちは方針を変え、魔物との戦闘を避けながら進んでいくことにしている。
それでも避けられない戦いは数回あったものの、体力の消費を最小限にすることができている。
その成果か、マリナの顔色や表情が少し良くなったように感じる。
視線が落ち、焦点が定まらないような目ではなくなってきた。それでも、ふと気を抜けば落ちているが、頻度が減ったのは大きい。
ただ、その代償(?)として、南への進行速度がかなり落ちている。
移動こそしているのだが、魔物との戦闘回避のための迂回迂回が響いている。
(戦闘が少ない分、休憩も……)
戦闘から離れたため、レイラは少し思考に余裕が出始める。
皆の表情は暗くなっていくばかりだ。
それでも、レイラの思うように戦闘が少なくなっているため、誰からも休憩を申し出ない。
少し余裕ができたとはいえ、マリナだってキツいはず。勿論、彼女から休憩を要求することはない。
そのためか、リゼルは南へと進んでいる。が、さすがに落ち着ける場所がないとヤバイ。
「ふぅ……しかし……」
レイズは辺りを見回すが、まだシャンバーレらしき町の影は見えない。
(見えねぇな……)
ここまで周りに何もないと、道を間違えていないか不安になる。
だが、リゼルやレイラが先行している。何も問題はないはずだ。
「止まれ」
「!」
先頭を歩いていたリゼルが足を止め、身を低くする。
レイズたちも慌ててそれに習う。マリナはゆっくりと屈み、誰にも聞こえないよう注意しながら、「ふぅ」と小さく息をついた。
「でかいな」
距離はあるが、目の前には大型の獣型の魔物がいた。
茶色い毛皮、肩の辺りと鼻部分に黒い大きな角が生えている。
食事中なのだろうか。下を向いたまま頭をしきりに動かしている。
「道を変え……」
リゼルの言葉が止まる。
迂回しようと提案するつもりだったが、辛そうなマリナを見て、案を変える。
「……ここでヤツが去るのを待つ。気は休まらないだろうが……休憩も兼ねる」
「了解だ」
「はい……」
あんな大きい魔物は、ヴァイス平原に入ってから初めてだ。
それに、他の魔物も強くなってきている。あの魔物の強さは計り知れない。
「あの角……ヤバそうだな」
「あぁ……食らったらきついぞ」
コソコソと話すレイズたち。
身を低くしているとは言え、隠れられているわけではない。早く立ち去ってくれないものか。
「マリナ……大丈夫ですか……?」
明らかに大丈夫そうには見えないが、一応レイラは声をかける。
「ぅん……へいき」
マリナは小さく何回も頷く。
返事をするのもきつそうだ。同時に、足手まといになりたくないという意志も垣間見える。
どんなに辛くても、彼らと進みたいという、強い意志が。
「すまない……無理をさせる」
「ぇぇ……へいき」
気を遣わせてしまったな。
マリナは目を閉じ、息を大きくついた。
「きっともうすぐシャンバーレだよ、もう少しがん……」
頑張って、と言おうとして、ミーネは止めた。
マリナは頑張っている。頑張っている人に頑張ってというのは、言われる側は辛い。自分の努力を認められていない気がするからだ。
「あ……」
ミーネが言葉を止めた理由は、もう一個ある。
彼女はマリナの後方を見つめ、口を開けたまま静止する。
「ミーネ?何を見て……」
異変に気づいたレイラがミーネの視線を追う。
そこには。
「ゴレン……!」
岩型の魔物がいた。
岩が数十個組み合わさってできた魔物だ。
身を低くしていたこと、大型の魔物に気を取られていたことで、気づくのが遅れたのだ。
獣、自分たち、ゴレンと言う位置関係。獣にはまだバレていないとは言え、この位置関係は非常によろしくない。
「ちぃ!」
叫ばれ、仲間を呼ばれるのはマズイ。
リゼルは一瞬で剣を抜き、ゴレンに斬りかかる。
刃は通った。しかし、岩型なだけあって、硬い。
手ごたえもなく、ダメージは期待できない。龍力を抑えすぎたためだ。
「ッ……!」
「リゼル!」
レイズは炎を纏い、ゴレンを横から貫く。
ゴレンは燃え、気絶した。弱い個体で助かったが、別の問題が浮上する。
「ヤバいぞ……」
バージルは、大型の魔物を見る。
ゴレンは対処できた。が、問題は大型の魔物だ。
突然のことに、レイズは余計な力が入ってしまった。一撃で気絶まで持って行けたのは助かったが、当然、それだけの力の反応があったということ。
魔物の感覚器官は優れている。付近の力の乱れなどすぐに察知するだろう。
「……気付かれた」
大型の魔物は頭を上げ、こちらの方向を見つめていた。
血に染まった歯が剝き出しになる。その合間から、血肉が見える。
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