龍魂

ぐらんじーた

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北の龍

VSアイスウルフ

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「来るぞッ!!」
「散れ!」

バージルの声と共に、レイラたちはバラバラに走る。
間一髪。先ほどいたところに、アイスウルフのフリーズファングが炸裂した。

「!!」

ガチン、と噛み合わされた牙から氷の結晶が現れる。
その結晶は氷柱となり、すぐに砕けた。

(何だアレ!?マジかよ!!)

空振りに終わったフリーズファングだが、魔物も「そういう技」を使うことをレイズは思い知らされた。

狼系の魔物であるし、噛みつき系の攻撃は余裕で予測できる。しかし、そこに氷属性の追加効果を付与することも可能とは。

グリージ近郊の魔物ではあり得ない芸当だと思う。

また、驚くのは「そういう技」だけではない。
その図体である。いつか見た猪よりも大きい。

「っべ~~!!」

これでも、全体的な魔物の規模からいえば、中型なのだろう。
大きな図体に見合った牙。筋肉質な四肢。それの爪は、一本一本が剣のように鋭い。
群れ(?)のボスクラスだろう。

「もう退けない。力を解放しろ」

レイラとその他に指示を出し、リゼルは龍力を高める。

ズズ、と、闇龍のオーラが強くなる。静かに流動するそれは、いつ見ても綺麗だ。
龍力コントロールに長けている証拠である。

レイズが感心している間に、彼はアイスウルフの脇に移動していた。
身軽故に、速い。

「闇龍剣」

闇龍オーラを纏った剣の一撃。
基礎技であるが、土台ができているリゼルの攻撃は、強い。

彼の後ろで、レイズは胸部を叩く。
ここで動けないと、また足を引っ張ることになる。

「クソ!」

とにかく動け。レイズも、龍力を調整しながら力を使っていく。
そして。

「炎龍剣!!」

炎を纏った剣での攻撃。
猪と戦った時より龍力を上手く扱えている気がするが、気がするだけだ。
龍力こそ使えているが、噛み合っている感覚はない。

そのままスライディングし、振り返る。

「効いてるか!?」

二人の剣は、確かに肉は抉った。特にリゼルの斬りは深く入っている。
血が流れ、アイスウルフは一瞬怯む。しかし、それも一瞬。
反撃が飛んでくる。

「レイズ!!」
「ッ!!」

前脚を起用に使い、レイズに襲い掛かる。バージルは走り出すが、間に合わない。
鋭い、剣のように大きな爪がレイズを襲う。

「ぐッ!!」

なんとか防御に移り、その一撃を受ける。
が、あの巨体から繰り出される一撃に、レイズは吹き飛ばされてしまう。

「ぐわッ!!」
「レイズ!!」

レイズは数回転がり、木にぶつかり、止まった。
気は失っていないようだ。起き上がろうともがいている。

「クソッ!風龍剣!」
「光龍鋭爪斬!!」
「……闇龍影刃」

三人の技が命中し、さらに深いダメージを負わせる。
その激痛に、アイスウルフが吠える。

「~~~~~~~!!」

耳をつんざくような咆哮。思わず耳を塞ぐ。

(なんて声!!)
(クソ……)
(奴らに聞こえるんじゃないか!?)

遠くで進んでいる魔物たちに聞こえてしまいそうなレベル。
もしかすると、フリーズルートまで聞こえているかもしれない。

咆哮が止み、アイスウルフは再び臨戦態勢をとる。

「まだだ!!」

三人は攻撃を再開する。
しかし、今度は技を叩きこんでも、中々怯まない。

剛腕と広範囲の前脚攻撃。そして、凍てつく牙による攻撃。
前脚攻撃だが、先程のレイズを見るに、剣で受けるのは勧めない。レイラやリゼルなら受けられることができるかもしれないが、回避推奨だ。

また、牙による攻撃は、当然だが受けてはならない。顎に砕かれ、即氷の銅像にされてしまう。
龍力者とは言え、人間ベースで考えると、顎に砕かれた時点で致命傷だ。
頭の届く範囲やその周囲に立つことは絶対にNG。立ち回りを工夫しろ。

結局、自分の龍力レベルでは全ての攻撃が回避推奨。
タメが不十分な弱攻撃だけ、受けてもOK。そんな攻撃、滅多に飛んでこないが。

バージルが自嘲気味み考えていると、レイラから指示が飛ぶ。

「……サイドから攻撃を!前と後ろは危険です!!」

そうだ。忘れてはならない。後ろ蹴りも強力だ。
積もった雪を大地ごと後脚で抉り取り、攻撃される。
獲物を狩るために鍛えられた後脚の重さは、内臓を潰すレベルだ。

「あぁ!!」

彼女の指示通り、立ち位置を調整しながら立ち回るバージルたち。
攻撃は繰り出せるが、図体の大きさ故に、体力が多い。
ダメージを与えても、全く動きが衰えない。

このままでは埒が明かないと判断したか、リゼルは立ち止まる。
即座にレイラが彼の前に立ち、対応できるように一度った。

「……奴を浮かす。そこを叩け」
「はい!バージル!攻撃準備を!!」
「おぉ!」

レイラの後方で、強い闇龍の力を感じる。
『タメ』を多めにし、龍術の威力を上げたためだ。

「行くぞ」
「えぇ。いつでも!」

レイラの声の直後、闇龍の紋章がアイスウルフの直下に描かれた。
そして、そこからリゼルのシャドウエッジが発動した。
地面から闇の刃が出現し、アイスウルフの腹を貫く。

「!!」

前見た時より、全然デカい。
『タメ』を多めにしたからなのか、自力も上がっているからなのか……
リゼル、恐ろしい。

極太のシャドウエッジ。
その勢いのまま、アイスウルフが少し地面から離れて、浮いた。
四肢をジタバタさせるが、地面には届かない。こうなってしまえば、格好の的だ。

「今だ。やれ」

踏ん張っているような声。リゼルは、額に汗を滲ませていた。
それも当然か。あの巨体を浮かし続けるだけの力を放出し続けなければならないのだから。
いくら『タメ』を工夫したということは、多少無理をしていると同義。長くはもたない。

「はいっ!」
「あぁ!!」

レイラ、バージルの技が炸裂する。
鮮血が舞い、真っ白な雪を深紅に染めていく。

アイスウルフは反撃しようにも、宙に浮いている。踏ん張りも聞かなければ、向きを変えることもできない。
できることと言えば、四肢をばたつかせることだけだ。

戦場の脇で、レイズは立ち上がる。
額から血が流れる。転がった拍子に切ってしまったらしい。

「俺も……」

一撃を食らった彼だが、まだ体は動く。戦える。
彼は走った。

不思議と、力がみなぎってくる。頭に上っていた血が少し抜け、冷静になっている。
今までよりも、複雑な技が出せそうだ。

「お返しだ……!炎龍……鋭爪斬!!」

レイズの大技は、アイスウルフの腹をさらに大きく抉った。
龍の爪のような切り口が発火し、ダメージをより与えていく。

「~~~~~~!!」

アイスウルフは悲痛な叫び声を上げ、徐々に大人しくなる。
ばたつかせていた四肢も、動かなくなる。

「……下すぞ」

シャドウエッジを継続して出していたリゼルは、少々疲れたようだ。
龍術を解除し、アイスウルフを地に下す。

どさ、と雪をきしませながら、アイスウルフは横たわった。
レイズはそれの様子を見る。

「……死んだのか?」
「まだ、生きてます。ですが……これ以上は襲ってこないでしょう」

よく見ると、わずかに呼吸をしている。
四人が与えた傷からは、血がもう止まっていた。なんて生命力だ。

「おい、群れが……」

バージルはあの咆哮以後、群れを気にしていた。
あの咆哮につられて、こちらに方向を変えるのではないかと。

その予感は的中した。
全てではないが、群れの一部がこちらに流れてきている。

「来るぞ!!」

地響きが大きくなる。白かった景色が魔物色に染まっていく。
数が多すぎる。かと言って、退けば、この数の魔物がフリーズルートに向かうことになる。
騎士団基地があるとはいえ、体勢が不十分すぎる。選択肢として不適切だ。

「やべぇぞ!!」
「やるしかない!!戦うんだ!!」

四人は龍力を高める。
龍力を高める一方で、レイズ、レイラ、バージルの三人は正直、死を覚悟した。
ダメージも食らったし、龍も消費した。というか、体力100%でも数的不利が強すぎるのが現実だが。

(くそ……こんなところで……)
(やれんのか?無理だろ……)

あっけない最期だった。そう頭をよぎった瞬間。

「……タイダルウェーブ!!」

水龍の術が、目の前で発動した。
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