龍魂

ぐらんじーた

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雷龍の悲劇

マリナの現実

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両親に自分の気持ちを伝えたマリナ。

今の情勢的に、騎士団への風向きは強い。時期的にも、危険な任務もあるだろう。
だが、一国の王が最前線で活動している。娘を救った実績もある。
両親は快く送り出してくれた。

レイラたちは、数日間滞在すると言っていた。
そして、騎士団に来たいなら来ても良いと言ってくれている。

あの人たちと一緒なら、再び龍が暴走しても多少平気かもしれない。
あの部隊には、エラー龍力者の少年もいる。コントロールできるようになれるかもしれない。

彼女は一人、ダルト騎士団基地の門に来ていた。

「よし、行くわ」

緊張で心臓がバクバクであったが、自身を奮い立たせる。

門で要件を伝え、中に入る。
レイラたちには、すぐに会えた。

「マリナさん!」
「レイラ、様……」

部屋を用意してもらい、共に中に入る。
開口一番、彼女は希望を伝えた。

「わたしも、騎士団に入りたい。今は龍力を使えないけど……自分の力をコントロールしたい」

部屋には、マリナ、レイラ、レイズ、リゼル、そして一番痛めつけてしまったバージルがいる。
リゼル、バージルの経過は良好なようで、リハビリも必要ないとのことだ。

マリナの思いを聞き、レイラは頷いた。

「良かったです。決心してくれて」
「みんなと一緒なら、コントロールできそうな気がする……じゃない、気がします」
「はい、頑張りましょう」

レイラは笑顔で前向きに対応しているが、リゼルの顔は厳しいままだ。
彼の表情は読みにくいが、あまり気分がよろしくないのは、何となく分かる。

「……レイラ、話すべきだ。勘違いしたまま進むことになる」
「え……?」

勘違い、という言葉に、マリナは変な声を上げてしまう。

レイラはレイラで間違った解釈をしているし、マリナはマリナで間違って受け取ってしまっている。だから、会話に違和感があった。
リゼルはその摺り合わせも兼ねて、敢えて「勘違い」という言葉を使用した。
彼は続ける。

「(騎士団に)入って、どうするつもりだ?」
「え?どうするつもりって……あなたたちと、国中の困っている人を助けたりするんじゃないの?わたしの時みたいに」

マリナの考えは、間違っている訳ではない。
だが、彼女のケースには当てはまらないのが現実。

「……騎士団の仕事は、そうだ。何も間違っていない。だが、その認識だと、前線に出る気でいるな?」
「え?えぇ……」
「龍力を使えないのに、か?」
「「…………」」

レイズとバージルは何か言おうかと思ったが、止めた。
彼女を擁護する言葉は出てくるが、どれも無責任な言葉だ。
責任なき言葉に、説得力はない。
笑顔だったレイラも、いつの間にか困った顔をしている。

リゼルに言い放たれ、マリナは目を伏せ、縋る様に言う。

「でも、歓迎するみたいなことを……」」
「それは……」

レイラは言葉を濁すだけで、要領を得ない。
代わりにリゼルが口を開いた。

「騎士団は、エラー龍力者を保護しているからだ。だから、僕はこいつが入ることを否定している訳ではない」
「こいつって……」

ほぼ初対面でマリナのことを「こいつ」呼ばわりするリゼル。
レイズは少しヒヤヒヤする。彼女が気を悪くしなければいいが。

「でしたら……」

レイラは、弱々しく何かを言おうとするが、リゼルに遮られる。

「龍力が扱えるエラー龍力者と、龍力が扱えないエラー龍力者は団内で区別される。龍力を使えない今、前線に出すわけにはいかない」
「!」

鈍感なレイズも気付いた。
エラー龍力者である自分が、レイラたちと共に行動しているのは、『龍力が使えるから』だ。
ミナーリンでの一件や、バージルと行動を共にしていたことも影響していると思うが、あくまでも要素の一つ。
一番大きいのは、龍力が使えるか使えないか。
自分が今も龍力が使えない状態なら、教育サイドに回されていたはずだ。

「レイラ。お前が言った『歓迎』の言葉は、保護の意味だったのか?それとも、一団員として迎え入れる意味か?まさか、自分と同じチームに入れる気じゃないだろうな?」

畳み掛けるように言われ、小さくなる現王。

「いえ、それは……」

返答を待たず、彼は続ける。
同じチームに入れると言い出す前提で。

「こいつを救った事実は認める。だが、お前の一存で例外を作るわけにはいかない」

レイラの肩書は女王だ。
その彼女が、国で定めた決まり(エラー龍力者の教育方針)を無視し、例外を作るのは褒められた話ではない。
マリナの事情も知っているし、自らの手で救ったという事実。ただし、彼女への同情などから、取り決めを無視して部隊に入れることはあってはならない。

「申し訳ありません……少し、はしゃいでいました……」

先ほどとは打って変わって、レイラは小さくなっている。

「私も、教育から、と思っていました。ただ、救えた直後で、言葉が足らなかったと思います。伝えた場の雰囲気も、ありましたし……」

今思えば、解放するタイミング、かつ、ハイテンションで「歓迎します」的なニュアンスでモノを言えば、誰だってこのチームに入るものだと考えるだろう。
分かりやすく問題を一つ解決できたことで、舞い上がっていた。本当に、申し訳ない。

一連の流れを黙って見ていたレイズとバージル。

(リゼル……珍しいな。ノータイムで賛成かと思えば)

と、少し驚いていた。

リゼルのレイラに対する執着と言うべきか、拘りは異常だった。
それは、彼女の安全や意思を第一に考えているからだと思っていた。ただ、その認識は100正解ではない。

身を案じるのは当然として、彼女の思い・意見まで全て賛成なのではない。
第一に考えているからこそ、ダメなものはダメを言える。

それに、今回はマリナへの配慮もあった。
彼女の思いを受け止め、『エラー龍力者だから騎士団に入れればいい』という雑な考えではなく、入ったとしても、望みは達成されないと伝えた。
本当に本当に本ッ当に口も態度も悪いが、ミスマッチが無いよう、事実をハッキリと伝えたリゼル。

「エラー龍力者の教育に関しては、ダルトにいるより安全なはずだ。だが、今聞いたように、こいつの希望は、お前と行動を共にすることだ」

確かに、騎士団に入ればエラー龍力者の教育はしてくれるだろう。
しかし、マリナは「このメンバーが良い」と言っているのだ。
だから、このまま騎士団に入っても、彼女の目標は達成できない。

「すみません……嬉しくて……つい」
「状況も言葉も悪い。しっかり説明しないと、すれ違う」
「はい……本当にすみませんでした……」

入団式で見た彼女と同一人物とは思えないくらい、しょぼくれている。
何だか可哀そうになってきた。

「おいリゼル、何をそこまで」
「黙れ。で、お前はそれでいいのか?」

止めに入ったレイズだが、リゼルは一瞬で切り捨てる。マジで一瞬。二文字だったし。
そんな上辺だけの優しさよりも、大切なものがある。それは、現実を知った上での本人の意思だろう。

「え、わたし……?」
「そうだ。騎士団に入っても、本部に戻れば、(恐らく)僕たちとこいつらとはバラバラだ」

レイズ、バージルを親指で示すリゼル。
確かに、レイラとリゼルはずっと前から同部隊だが、レイズとバージルは一時的なものだ。
アーロンからの報告や、エラー龍力者を教育した実績が認められ、一緒にいるだけだ。監視もあっただろうが、任務が終わった後もレイラとリゼルでする必要はない。
王都へ帰還し、部隊が解体された後は、どうなるか全く分からない。

「少なくとも、今のお前は、絶対にレイラとは別行動になる。言い切ってもいい。会うことも……ないだろうな」
「そん……な……」
「それでいいのか?」
「…………」

多分、彼が言うことは間違っていない。逆の立場で考えても、そうなるだろうなと想像がつく。
現実を突き付けられ、マリナは俯く。
その間、様々な考えが頭に浮かんでは消えていく。その考えに、自問自答を繰り返していた。


家を飛び出したし、後戻りできない……レイラとは別でも、龍魂の教育が受けられるなら?
でも、騎士団入りを決意したきっかけはレイラだ。自分の意思を殺して入団する意味はあるのか?


マリナは、ぽつりと呟いた。

「そんなの……嫌だ」

それは、紛れもない本心。彼女の心の声だった。
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