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雷龍の悲劇
娘の救世主
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「さ、たくさん食べなさい」
「ありがとう、お母さん。いただきます」
自宅に戻り、久しぶりの母の手料理を食べている。
懐かしい味、かつ、自分の意志で取る食事に、マリナは何度も泣きそうになった。
それでも堪え、完食した。
食事の片付けも済み、一息ついた頃。
「……言える範囲で、言うわ」
マリナは水くみに行った日以降、自分が覚えていて、説明できそうなところを両親に話した。
盗賊に襲われそうになり、その時にまた自分の龍が暴走したこと。
その後は、ずっとダルト遺跡に留まり、来る人間を「ほぼ」無差別に襲っていたこと。
ダルトの騎士団員にも襲い掛かったことがあること。
その間、自分の龍を感じていたが、自分の意識はあまりなかったこと。
龍が落ち着いているときだけ、意識がぼんやりと戻ること。意識は戻るが、身体とのリンクは薄く、思うようには動けなかった。
つまり、龍が大人しいタイミングで遺跡を離れることは不可能だったこと。
「そうだったのか……」
「暴走したことは聞いてたけど……」
両親は、割と早期に捜索願を出していた。
『あの日』と重なったこともあり、捜索は難航。両親たちも混乱に巻き込まれ、なかなか動くことができなかったとか。
ダルト内での暴走者は、今は非龍力者同様の状態だと。観察下に置かれているが、日常生活に戻れているらしい。
水汲みの件だが、交代で住民がやってくれていたそうだ。
騎士団の情報を元に、安全な時間帯を模索したとのこと。
「そう、なんだ……」
マリナは視線を落とす。
「貸しだ」と声をかけてきた住民は、自分の代わりに水汲みをしてくれたのだ。
後出しだが、自分の暴走は、敵意と龍力に過剰に反応していた。だから、時間帯や人を選ばなくとも、水汲み自体は問題なかっただろう。
何にせよ、やってくれたのだから、とやかく言うつもりはない。
「ここまでが、暴走の概要みたいな感じね」
マリナは続ける。
ダルト騎士団では歯が立たなかったため、王都から応援が来たこと。
そして、その応援と言うのが、レイラだということ。
騎士団でも歯が立たないレベルの暴走なのも驚きだが、応援に来た人物にも同様の反応だ。
両親は分かりやすく目を見開く。
「女王様が!?」
「そんな……」
レイラと言えば、グランズ王が行方不明となったため、『滑り込み』で王をしている少女だ。
復興を最優先に、減税や教育など、力を入れていることは知っていた。それ以上に不信感が強く、素直に支持はできていなかったが。
支援だけでなく、娘と同じ年代の少女が、最前線に出向いただけでなく、結果を出してみせた事実。
「本当よ。信じられなかったけど……」
「…………」
マリナの両親は互いに顔を見合わせる。
グランズの崩壊。俗に言う『あの日』だ。
それ以来、マリナの両親含め、多くの人間は王都を信用していなかった。
黒幕がいるとか、住人にとってはどうでもいいことをほざき、責任を架空の人物に擦り付けているのではないかと。
騎士団が事態収束に向けて動いていることは分かっていたが、それは見えやすい地区レベルで、国を挙げて行っていることや、女王本人が現場に出ているなど嘘っぱちだと考えていた。
「そんな人たちも、わたしは傷つけた。無意識に、だけど」
「辛かったな。本当に」
「えぇ。自分の中の龍が暴れ回っている感じ。一回は、全滅させてしまったわ」
「「!!」」
暴走状態であったとはいえ、現王を半殺しにしているのか。
きっと、数名の実力者も連れていることだろう。その団員たちも、同様に……
結果を知った今だから安心して聞いていられるが、一歩間違えれば、娘は人殺しで王殺しになっていた。
両親は互いを見つめ、同時に身震いする。
視線を伏せていたマリナは、それを見ていない。彼女は続ける。
「……でも、その人たちは諦めなかった」
レイラともう一人の騎士団員は、再び目の前に現れ、今度は力強く声を掛けてくれたこと。
自分の龍の特性を理解していたわけではなかったものの、無差別攻撃の対象にならない可能性を見つけ、それを実践してくれたこと。
「それで、戻ってこれたの……」
「そう……か……」
両親は大きく息をつく。
ダルト内でのいざこざが落ち着いても、ダルト遺跡に行く人数もタイミングも最小限のままだった。
信用できない騎士団任せでモヤモヤした日々を過ごしていたのだが、国は、騎士団は動いてくれていたのか。
「それで、相談なんだけど……」
言いにくそうにマリナがもじもじしていると、悟ったのか、父は妙に納得した顔になる。
「言ってみなさい。まぁ、言わなくても、俺の勘は当たってるだろうがな」
「……遠慮しないで。受け止めるわ」
「うん……」
マリナは呼吸を整える。
「わたし、騎士団に入る」
娘の決意。碧眼の瞳には、光が宿る。
「ありがとう、お母さん。いただきます」
自宅に戻り、久しぶりの母の手料理を食べている。
懐かしい味、かつ、自分の意志で取る食事に、マリナは何度も泣きそうになった。
それでも堪え、完食した。
食事の片付けも済み、一息ついた頃。
「……言える範囲で、言うわ」
マリナは水くみに行った日以降、自分が覚えていて、説明できそうなところを両親に話した。
盗賊に襲われそうになり、その時にまた自分の龍が暴走したこと。
その後は、ずっとダルト遺跡に留まり、来る人間を「ほぼ」無差別に襲っていたこと。
ダルトの騎士団員にも襲い掛かったことがあること。
その間、自分の龍を感じていたが、自分の意識はあまりなかったこと。
龍が落ち着いているときだけ、意識がぼんやりと戻ること。意識は戻るが、身体とのリンクは薄く、思うようには動けなかった。
つまり、龍が大人しいタイミングで遺跡を離れることは不可能だったこと。
「そうだったのか……」
「暴走したことは聞いてたけど……」
両親は、割と早期に捜索願を出していた。
『あの日』と重なったこともあり、捜索は難航。両親たちも混乱に巻き込まれ、なかなか動くことができなかったとか。
ダルト内での暴走者は、今は非龍力者同様の状態だと。観察下に置かれているが、日常生活に戻れているらしい。
水汲みの件だが、交代で住民がやってくれていたそうだ。
騎士団の情報を元に、安全な時間帯を模索したとのこと。
「そう、なんだ……」
マリナは視線を落とす。
「貸しだ」と声をかけてきた住民は、自分の代わりに水汲みをしてくれたのだ。
後出しだが、自分の暴走は、敵意と龍力に過剰に反応していた。だから、時間帯や人を選ばなくとも、水汲み自体は問題なかっただろう。
何にせよ、やってくれたのだから、とやかく言うつもりはない。
「ここまでが、暴走の概要みたいな感じね」
マリナは続ける。
ダルト騎士団では歯が立たなかったため、王都から応援が来たこと。
そして、その応援と言うのが、レイラだということ。
騎士団でも歯が立たないレベルの暴走なのも驚きだが、応援に来た人物にも同様の反応だ。
両親は分かりやすく目を見開く。
「女王様が!?」
「そんな……」
レイラと言えば、グランズ王が行方不明となったため、『滑り込み』で王をしている少女だ。
復興を最優先に、減税や教育など、力を入れていることは知っていた。それ以上に不信感が強く、素直に支持はできていなかったが。
支援だけでなく、娘と同じ年代の少女が、最前線に出向いただけでなく、結果を出してみせた事実。
「本当よ。信じられなかったけど……」
「…………」
マリナの両親は互いに顔を見合わせる。
グランズの崩壊。俗に言う『あの日』だ。
それ以来、マリナの両親含め、多くの人間は王都を信用していなかった。
黒幕がいるとか、住人にとってはどうでもいいことをほざき、責任を架空の人物に擦り付けているのではないかと。
騎士団が事態収束に向けて動いていることは分かっていたが、それは見えやすい地区レベルで、国を挙げて行っていることや、女王本人が現場に出ているなど嘘っぱちだと考えていた。
「そんな人たちも、わたしは傷つけた。無意識に、だけど」
「辛かったな。本当に」
「えぇ。自分の中の龍が暴れ回っている感じ。一回は、全滅させてしまったわ」
「「!!」」
暴走状態であったとはいえ、現王を半殺しにしているのか。
きっと、数名の実力者も連れていることだろう。その団員たちも、同様に……
結果を知った今だから安心して聞いていられるが、一歩間違えれば、娘は人殺しで王殺しになっていた。
両親は互いを見つめ、同時に身震いする。
視線を伏せていたマリナは、それを見ていない。彼女は続ける。
「……でも、その人たちは諦めなかった」
レイラともう一人の騎士団員は、再び目の前に現れ、今度は力強く声を掛けてくれたこと。
自分の龍の特性を理解していたわけではなかったものの、無差別攻撃の対象にならない可能性を見つけ、それを実践してくれたこと。
「それで、戻ってこれたの……」
「そう……か……」
両親は大きく息をつく。
ダルト内でのいざこざが落ち着いても、ダルト遺跡に行く人数もタイミングも最小限のままだった。
信用できない騎士団任せでモヤモヤした日々を過ごしていたのだが、国は、騎士団は動いてくれていたのか。
「それで、相談なんだけど……」
言いにくそうにマリナがもじもじしていると、悟ったのか、父は妙に納得した顔になる。
「言ってみなさい。まぁ、言わなくても、俺の勘は当たってるだろうがな」
「……遠慮しないで。受け止めるわ」
「うん……」
マリナは呼吸を整える。
「わたし、騎士団に入る」
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