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雷龍の悲劇
マリナの場合
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意識が戻ったエラー龍力者-マリナ=ライフォード-は、ダルト騎士団基地で質問を受けていた。
部屋にいるのは、ダルト騎士団基地の基地長と、レイラの二人だ。
レイズ、リゼルとかいう歳の近い男子も最初はいたが、内容が内容だけに、無理を言って退出してもらった。
本来なら、基地長も席を外してほしかったが、仕方ない。
「できる限りで構いません。話してくれますか?」
「はい……」
マリナは少しずつ、順を追って話し始める。
自分も『グランズの崩壊』までは普通の少女であり、職人の娘だった。
龍力を得ようとしたこともなく、このまま親の後を継ぎ、職人になるのだろうと漠然と考えていた。
これといった趣味はないが、友人もいるし、私生活でのトラブルもない。
ダルトは田舎であり、娯楽もあまりない。それもあり、特に面白みもなかった人生だが、モノ作りは嫌いではないため、これと言って不満もなかった。
言ってしまえば、この時点では、国に対する評価は「普通」。
これが、『あの日』までの自分だった。
「それで、『あの日』のことです……」
「……はい」
レイラは唇を噛む。
マリナが緊張していくのが分かる。
やたら基地長をチラチラ見ているのが気になったが、対応は特になし。
騎士団の責任者として、外すわけにもいかないと思ったから。
「水汲みの件は、もうご存知ですよね」
代わり映えのない日常。そんなある日、マリナに水くみ当番が回ってきた。
ダルト遺跡付近にある水場から、水を汲んでくる単純な仕事。
ダルトに水道は整っている。これは、別の用途で使うものだ。
遺跡付近の水でなければ、岩石を加工処理できないのだ。そのため、順番で水くみを行っている。
住民であれば一度はやったことある仕事だ。道中魔物も出るが、護身用の珠もある。
だから、慣れてしまえば、危険も少ない。
その日、マリナは武器と珠などの装備を持ち、遺跡へ出発した。
道中、魔物を見かけることはあったが、回避余裕。
よって、戦闘はゼロ。問題なのは、遺跡に着いてからだった。
「その日は、何かおかしかったんです……」
ダルト遺跡には、重要な文化財もある。が、人が手を出すことはなかった。少なくとも、ダルトの人間は。
しかし、その日は遺跡の門が空いていたのだ。敷地にも、車輪の跡が目立っていた。
不審に思い、遺跡の中を覗いてみると、盗賊とみられる数人の男と目が合ってしまった。
その男は、更に奥の扉の仕掛けを解いているところだった。
当然、あっけなく見つかる。盗賊はマジで想定外で、護身用の珠を取り出す頭もなかった。
リーダー各の男に一瞬で捕まり、地面に叩きつけられた。
手下とみられる男たちも寄ってくる。
自分は、その場で襲われた。
「一瞬でに囲まれ、服を……」
マリナは身体を抱え、身体を震わせる。
「!!」
だから、衣服がボロボロだったのか。
『あの日』から帰れていないからだと勝手に思っていた。
ここから先は、トラウマをえぐる話になる。
そう判断したレイラは、すぐに止めに入る。
「もう大丈夫です……!よね?」
ちら、と隊長を見る。
基地長はペンを止め、何回も頷く。
「勿論だ。日を改め、女性団員だけで……」
これ以上は彼女の心が傷つけられる。続けるのは不可能だ。
「いえ、大丈夫です。わたしは、この時……」
口にタオルを噛まされ、声も出せなくなる。
リーダー各の男が服に手を引っ張った瞬間だ。
「!!」
突然、辺りを雷の龍が周囲を駆けた。
意識が半分飛び、何が何だか分からなくなっていく。
その龍は、自分の身体から発せられているということに気づくのに、時間はかからなかったという。
直感的に、この龍は自分に(肉体的な)危害を加えない。と理解できたのだとか。
男たちに、雷の龍が襲い掛かる。
リーダー各の男が倒れると同時期に、自分の意識が更に薄まり、知らない自分へと変わっていったという。
その衝撃で、衣服は裂けてしまったとのこと。
『あの日』の儀式が失敗した瞬間だ。
国を大混乱に陥れた災厄だが、一人の女性をある種守れたという皮肉。
「…………」
レイラは複雑な心境になる。あの一件がなければ、彼女は『最後まで』されていたのだから。
男たちを倒し、遺跡の外に捨てたもう一人の自分。
しばらくして、意識は戻っていったと言う。しかし、自我が完全に戻ったのではなく、龍が静かにしていただけ。症状や異常が消失しただけの寛解状態。
遺跡から離れようとはできなかったし、人が見えたら、龍は起きた。即ち、再暴走である。
「それ以来、遺跡に人が来る度に意識が薄まっていた気がします……」
「人が……来ないときは……」
「比較的落ち着いていたような気がします……けど、その場からは動けなかった……です」
一人の時は、気分が楽だった。
しかし、自宅へ帰ることはできなかった。否、帰ろうと思うことすらなかった。
意識そのものはマリナ寄りにあったとしても、根底にある龍魂の意志。それが帰宅を許さなかったのだろう。
敵意や龍力に反応してマリナの龍力が高まるのは、恐らくそのためだ。
「……ありがとうございました。ゆっくり休んでください」
基地長と目を合わせ、質問は終了する。
レイラは部屋を後にし、歩きながら考えていた。
「…………」
騎士団や自分たちの龍力や敵意に過剰に反応していたのは、今の話で何となく理解できた。
だが、意識を戻しつつあった状態で、遺跡から離れられなかったことは、また別の問題であるように思えた。
ならば、彼女の暴走は、まだ解決していないのか。
(再び暴走する可能性がある……?そのきっかけは……?)
龍力者の危機、なのか。
だとしたら、『あの日』の被害者をいくら慣れさせたところで、意味はない。
危機に直面した時に、強制的にスイッチが入り、暴走する可能性があるからだ。
シンプルに龍魂のコントロール不足であるなら、有難い。
しかし、別の問題があるとするなら、非常に厄介だ。
(龍魂……こんなにも分からないなんて……)
龍力を当たり前に使っている今日。
しかし、実際細かく突き詰めていくと、解明されていない部分が大きいことが分かった。
人間に、それら全てが理解できる日が来るのだろうか。
部屋にいるのは、ダルト騎士団基地の基地長と、レイラの二人だ。
レイズ、リゼルとかいう歳の近い男子も最初はいたが、内容が内容だけに、無理を言って退出してもらった。
本来なら、基地長も席を外してほしかったが、仕方ない。
「できる限りで構いません。話してくれますか?」
「はい……」
マリナは少しずつ、順を追って話し始める。
自分も『グランズの崩壊』までは普通の少女であり、職人の娘だった。
龍力を得ようとしたこともなく、このまま親の後を継ぎ、職人になるのだろうと漠然と考えていた。
これといった趣味はないが、友人もいるし、私生活でのトラブルもない。
ダルトは田舎であり、娯楽もあまりない。それもあり、特に面白みもなかった人生だが、モノ作りは嫌いではないため、これと言って不満もなかった。
言ってしまえば、この時点では、国に対する評価は「普通」。
これが、『あの日』までの自分だった。
「それで、『あの日』のことです……」
「……はい」
レイラは唇を噛む。
マリナが緊張していくのが分かる。
やたら基地長をチラチラ見ているのが気になったが、対応は特になし。
騎士団の責任者として、外すわけにもいかないと思ったから。
「水汲みの件は、もうご存知ですよね」
代わり映えのない日常。そんなある日、マリナに水くみ当番が回ってきた。
ダルト遺跡付近にある水場から、水を汲んでくる単純な仕事。
ダルトに水道は整っている。これは、別の用途で使うものだ。
遺跡付近の水でなければ、岩石を加工処理できないのだ。そのため、順番で水くみを行っている。
住民であれば一度はやったことある仕事だ。道中魔物も出るが、護身用の珠もある。
だから、慣れてしまえば、危険も少ない。
その日、マリナは武器と珠などの装備を持ち、遺跡へ出発した。
道中、魔物を見かけることはあったが、回避余裕。
よって、戦闘はゼロ。問題なのは、遺跡に着いてからだった。
「その日は、何かおかしかったんです……」
ダルト遺跡には、重要な文化財もある。が、人が手を出すことはなかった。少なくとも、ダルトの人間は。
しかし、その日は遺跡の門が空いていたのだ。敷地にも、車輪の跡が目立っていた。
不審に思い、遺跡の中を覗いてみると、盗賊とみられる数人の男と目が合ってしまった。
その男は、更に奥の扉の仕掛けを解いているところだった。
当然、あっけなく見つかる。盗賊はマジで想定外で、護身用の珠を取り出す頭もなかった。
リーダー各の男に一瞬で捕まり、地面に叩きつけられた。
手下とみられる男たちも寄ってくる。
自分は、その場で襲われた。
「一瞬でに囲まれ、服を……」
マリナは身体を抱え、身体を震わせる。
「!!」
だから、衣服がボロボロだったのか。
『あの日』から帰れていないからだと勝手に思っていた。
ここから先は、トラウマをえぐる話になる。
そう判断したレイラは、すぐに止めに入る。
「もう大丈夫です……!よね?」
ちら、と隊長を見る。
基地長はペンを止め、何回も頷く。
「勿論だ。日を改め、女性団員だけで……」
これ以上は彼女の心が傷つけられる。続けるのは不可能だ。
「いえ、大丈夫です。わたしは、この時……」
口にタオルを噛まされ、声も出せなくなる。
リーダー各の男が服に手を引っ張った瞬間だ。
「!!」
突然、辺りを雷の龍が周囲を駆けた。
意識が半分飛び、何が何だか分からなくなっていく。
その龍は、自分の身体から発せられているということに気づくのに、時間はかからなかったという。
直感的に、この龍は自分に(肉体的な)危害を加えない。と理解できたのだとか。
男たちに、雷の龍が襲い掛かる。
リーダー各の男が倒れると同時期に、自分の意識が更に薄まり、知らない自分へと変わっていったという。
その衝撃で、衣服は裂けてしまったとのこと。
『あの日』の儀式が失敗した瞬間だ。
国を大混乱に陥れた災厄だが、一人の女性をある種守れたという皮肉。
「…………」
レイラは複雑な心境になる。あの一件がなければ、彼女は『最後まで』されていたのだから。
男たちを倒し、遺跡の外に捨てたもう一人の自分。
しばらくして、意識は戻っていったと言う。しかし、自我が完全に戻ったのではなく、龍が静かにしていただけ。症状や異常が消失しただけの寛解状態。
遺跡から離れようとはできなかったし、人が見えたら、龍は起きた。即ち、再暴走である。
「それ以来、遺跡に人が来る度に意識が薄まっていた気がします……」
「人が……来ないときは……」
「比較的落ち着いていたような気がします……けど、その場からは動けなかった……です」
一人の時は、気分が楽だった。
しかし、自宅へ帰ることはできなかった。否、帰ろうと思うことすらなかった。
意識そのものはマリナ寄りにあったとしても、根底にある龍魂の意志。それが帰宅を許さなかったのだろう。
敵意や龍力に反応してマリナの龍力が高まるのは、恐らくそのためだ。
「……ありがとうございました。ゆっくり休んでください」
基地長と目を合わせ、質問は終了する。
レイラは部屋を後にし、歩きながら考えていた。
「…………」
騎士団や自分たちの龍力や敵意に過剰に反応していたのは、今の話で何となく理解できた。
だが、意識を戻しつつあった状態で、遺跡から離れられなかったことは、また別の問題であるように思えた。
ならば、彼女の暴走は、まだ解決していないのか。
(再び暴走する可能性がある……?そのきっかけは……?)
龍力者の危機、なのか。
だとしたら、『あの日』の被害者をいくら慣れさせたところで、意味はない。
危機に直面した時に、強制的にスイッチが入り、暴走する可能性があるからだ。
シンプルに龍魂のコントロール不足であるなら、有難い。
しかし、別の問題があるとするなら、非常に厄介だ。
(龍魂……こんなにも分からないなんて……)
龍力を当たり前に使っている今日。
しかし、実際細かく突き詰めていくと、解明されていない部分が大きいことが分かった。
人間に、それら全てが理解できる日が来るのだろうか。
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