片田舎の稲穂~愛の重たい兄上に困っています~

金色の稲穂

9

「皇太子、殿下っ⋯恐れなが、らっ⋯⋯進言させて、ぃ頂きます、このまま⋯っ、では死人が出ます⋯」


「そうだね。それはすまなかった」


かなり気がたっている様だがシリウスはノアの言葉を聞き入れ「ごめんね」と言うとすぐにその精神が焼き切れるようにさえ感じる強烈なグレアを解いた。


「ノア・ヘクテレス騎士団長、私はネモに1ミリのかすり傷さえ無いように連れてきてって君に命じたよね。耳が聞こえないのなら早く教えてくれないかな、要らないのなら私が削いであげるよ」


彼は動けずにいるノアの耳を撫でると長い足を組み適当な椅子に座った。そしてノアを心底冷めた目で睨みつけるとシリウスは彼を見下ろしながら言う。


「もういいよ。ネモは私が看病するから君はしばらく地下にいるといい。私は君を旧友だからと甘やかしすぎた様だね、言いつけも守れない腹心は要らないよ」


シリウスはネモを壊れ物を扱うかのように抱き上げると自分の外套を彼に着せ、すーっとネモの首元を嗅いだ。次の瞬間うっとりしたような顔で言った


「やっと再会だよ、私の愛しいネモ。もう二度と離さないからね」


そう囁くとシリウスは後ろに控えていたアノスとヘクターにノアの回収を命じ教会の外に止まらせていた馬車に乗り込んだ。


「お前ら、どこで殿下と合流した」


「ノア・ヘクテレス騎士団長、ご同行願います」


アノスは感情を押し殺しノアの手を後ろで拘束するとノアの耳元で呟いた。


「机の上の汚ったない走り書きです。団長、貴方は怒らせてはならない人を怒らせてしまいましたね」


「やっぱりそうか、アノス気にするな。飯さえ出れば戦場よりマシだろ、連れてけ」